心臓の真相
「ハヤテに続き、ゼファー、ブラスト、ツムジ…皆、囚われてしまったか…。悲しきことよ、我が子らよ。」
祈祷室にてウラガンは嘆き、祈祷を続けるシナトの姿を見た。
シナトはすっかり憔悴し、今にも倒れてしまいそうである。
その様子を見て、ウラガンはほくそ笑んだ。
―もうすぐだ…もうすぐ、力が我が手に…
バン
扉が叩かれる。
鍵はかかっていないが、開こうとしない。
祈祷室には結界が張られており、外側からは開かないのだ。
ウラガンは鼻で笑い、もう一度シナトを見ようとした。
ガン
何かが壊れる音。砂埃が舞う。
すぐに振りかえり、扉を見つめるとそこにあったはずの扉が破壊されていた。
「馬鹿な…。」
入ってきたのは二人の男女。
ロシェとアウルムであった。
「どうやって開けた?結界が張ってあったはずだが…。」
「どんなに凄い力の術師であっても、広い場所に結界を作るとき、必ずムラができる。俺は結界が薄い場所に当たりをつけ、壊しただけだ。」
「ムラだと…?何故貴様のようなものがそんな場所がわかるというのだ?」
「勘だ。」
アウルムを床におろし、ロシェは長剣を構えた。
「昔から勘だけは良くてな。こういう時に役に立つ。」
「我々の崇高な考えを邪魔だてするというわけか…。」
「崇高?笑わせるんじゃないわよ!あの子、今にも倒れそうじゃない!?一体何をやらせようとしているの!?」
「あやつは生贄だ。」
アウルムの問いにウラガンは恍惚とした表情をして答えた。
「じゃあ、やはりあの童話に書かれていたように、神器を使って神の力を取り戻すつもりなのね。」
「取り戻す…?違うな奪うのだ。」
キン
金属の響き合う音。
ウラガンに剣撃が繰り出される。
しかし、ウラガンは自分の周りに結界を張り、その攻撃を凌いだ。
一瞬ロシェからの攻撃かと思い、油断したウラガンはすぐに飛んできた次の剣撃に気づくのが遅れてしまった。
「ちっ…。」
剣撃を繰り出したのはサランとソヨの二人であった。
遅れてローレルとアカンサスも部屋に入ってくる。
「ロシェ殿」
「ローレル王子、あの二人は?」
「亡くなったゲイル殿の部下です…ゲイル殿を殺したのはみかんの民でした。」
「なに!?」
ロシェとローレルの会話にウラガンは嘲るように笑った。
「あやつは駄目な男だ…せっかく私の死後、後を継がせようとまで思っていた術師であったのにな…まぁ、仕方あるまい。」
サランとソヨはウラガンの首筋へ刃を向ける。
話すのをやめ、じっと二人を見つめた。
「良いのか?…私を殺せば、力は戻ってこぬぞ。」
「…力なんて、いらない。」
「私たちはただ、ゲイルさんたちと、皆とずっと一緒に暮らせれば良かったんだ…」
「ぬかせ!…くだらない。実にくだらない!!」
右足を力強く踏みしめた。
何かのスイッチが入ったような音が響いた。
「…!?」
「力が入らない…?」
「安心しろ。ただの痺れ薬だ。」
「皆…?しっかりしろ!!」
次々と倒れて行く。仲間たちの姿を見てローレルは慌てた。
「…こやつどうして…?…そうか、そうだったのか!!」
ローレルの足元に魔法陣が現れる。ローレルの周りを光が包んだ。
「く…あ…!?」
「王子…!?貴様なにをした!?」
「見つけた…ついに見つけたぞ!!」
アカンサスの問いを無視し、ウラガンはフラフラとローレルのもとに寄る。
「こんな所にあったのか…橙の心臓よ!!」
「え…!?」
その場にいた全員が驚いた。
「ローレル王子が橙の心臓だと…!?」
「…そういえば、ずっと不思議に思っていたよ。羽と瞳は童話の中で絵が描かれているのに、心臓はどこにも描かれてない。つまり心臓とは心、フェーユ家の王族自身が持つものってこと?」
息絶え絶えに呟くアウルムの解答にウラガンは称賛の拍手を送った。
「ご明察だ。私も疑っていたが、正確には心臓とは王位を継ぐ資格のあるものに与えられるものだ。その存在は両親さえも気付かず、兄弟姉妹だけが本能的に感じ取るらしい。」
「そんな…ヴ!?」
「三種の神器は3つ揃えば巨大な力を生むが、1つでも構わないんだ…さぁ、その力、私に寄こせ!!」
「ぐあァあぁぁア!!」
―見てられない。
「無様すぎるな…。」
ぽつりと呟いたのはサランだ。しかし、その声はサランのものではない。
先程まで痺れ薬で苦しんでいたが、しっかりとした足取りでウラガンへと近づく。
「いつからあなたはそうなった…昔は違ったはずだ…あなたは本当の俺たちの父さんみたいだったのに。」
「サラン、貴様…!?」
「…俺があなたを止めてやるよ。」
ふっと糸が切れたように、サランは倒れた。
「一体何が…ヴ!?」
ウラガンが突然首を掻きむしり始めた。
まるで、何か見えないものに首を絞められているように。
「何を…する…!?」
ウラガンがもがくたび、ローレルとシナトは解放されていく。
「く…は…。」
そして、ウラガンは倒れた。
皆、何が起こったか分からないという表情をしてウラガンを見つめていた。
「フキノトウ…?」
ローレルがぽつりと呟いた。
「遅れました。皆さん、大丈夫ですか?」
扉から次々と人が入ってくる。
皆、白い服に身を包んでいた。
「警戒しないでください。僕たちは国際治安維持委員会です。」
不審な目を向ける皆にヘイズは友好的な笑みを見せ答えた。
「委員会が何故ここにいる?」
「おたくの王…ジルベル王から、連絡が入りましたので…。」
ロシェの問いにやんわりと答え、ウラガンのもとへ進んだ。
「…気を失っているだけのようですね…まるで、何か恐ろしいものでも見たかのようだ。捕えてください。」
次にヘイズはシナト、サラン、ソヨへと目を向けた。
「あなたたちについてきて貰います。」
「待ってください…!彼らは被害者なんです!」
「分かっていますよ、ローレル王子。捕えるのではなく、保護をします。…特にシナトさん。あなたの能力は必ず保護しなくてはなりません。一緒に委員会に来てくれますね?」
シナトはこくりと頷きヘイズの手を取った。




