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神童と旋風には出逢うな

「礼を言うよ。サラン、ありがとう。」


「…」


ホールから離れたローレルは、サランに礼を言った。

サランが連れ出さなかったら、あの場で怒り我を忘れたブラストに皆死んでいたかもしれない。


「あんた達には借りがある…俺は、その借りを返しただけだ。」


顔をローレルへと向けず、サランはぼそっと呟いた。


「ねえ、サラン。あなたが無事ってことは、もちろんゲイルさんも無事なのよね?…ゲイルさんは…?」


ソヨの問いに、サランはなかなか答えようとしなかった。

しかし、大きく深呼吸をするとゆっくりと言う。


「死んだ…俺を庇って。」


サランはその時のことを思い出して、ソヨはサランの言葉の衝撃に、泣きだしそうになるのを必死に堪えていた。


「泣くな。ガキ共、お前たちがあの小僧とどういう関係なのかは知らないが、今は泣いている場合じゃないだろう。あの小僧が、ブラストとかいう男の考えを否定して止めようとしてたのなら、お前たちは小僧と同じように止めればいい。ぶち壊してやればいい。…だから、ピーピー泣いたら殴る。」


因果関係の全くなりたっていない言葉であったが、サランとソヨは大人しく、アカンサスの言葉を受け止めた。


「あの…ブラストとかいう男…さっき、巫女を生贄に…とか言っていたけど…巫女はそのことを了解しているのか?」


ローレルの言葉に皆、はっとする。


「シナト様…!!」


「ソヨ!!シナト様は今どこに!?」


「おそらく、祈祷室にウラガン様といるはずだが、巫女の身が危険だ!!」


4人は祈祷室へ急いだ。




草原の国の第一王子スリジエ・フェーユは手にしていた手紙を読みながら静かに紅茶を飲んでいた。

先日受けた怪我の具合もすっかりよくなり、支えの包帯も必要なくなった。

まだ、少し痛むようだが、日常生活に何ら支障はなくなった。

ティーカップの紅茶がなくなったのを見て、淹れ足そうと、モヘンジョはポットに手をのばした。

パリン

ポットが砕かれた。

中にまだ入っていた紅茶が飛び散る。

もったいないな。と思いながら、スリジエはゆっくり横へ目をむけた。


「やぁ、久しぶりですね。えーっと…ツムジちゃんでしたっけ?」


先程ポットを割った鎖を持ち、ツムジは不敵に微笑む。

花壇の中に立っているので、まるで花と戯れているようにも見えた。


「あら、草原の国の王子サマに名前を覚えていただいていたなんて、光栄だわ。」


「仕返しに来たって考えてもいいのかな?」


「もっちろん。」


言うがはやいか、ツムジは鎖の片一方、鎌のついたほうを投げた。


「うわぁぁああ!!」


スリジエはツムジに背を向け、バラ園の方へ逃げ出す。

しかし、ツムジは追いかけようとはしなかった。


「…何で追いかけてこないの?」


当てが外れたと言わんばかりにスリジエは後ろを振り返る。


「同じ手に引っ掛かると思ったの?もうバラの棘にはやられないから!」


「うーん…駄目かぁ…。」


「…むかつく。もう、心臓の場所なんてどうでもいい!あなたを倒す!!それだけなんだから!!」


ツムジは鎖鎌を持ち、スリジエへ向かう。

スリジエは、今度は逃げようとせず、静かにツムジの攻撃を見切る。


「怖い事しないでよ。」


「うるさい!大人しく私に切られなさい!」


次々と繰り出すツムジの攻撃。

しかし、それら全てをスリジエは避けた。


「困ったな…サイプレスはいないし…ここは僕がなんとかしないといけないのかな?」


ふと、花壇の側に置き捨てられたままの鍬を見つけた。

どうやら、庭師がおいたままにしてしまったらしい。

花の手入れは天下一品だが何処か抜けたところのある草原の国の庭師の一人トリトマの顔を思い出した。

いつもは、少しはしっかりしてほしいと、落胆するが今はないよりもましだ。スリジエは鍬を握った。

ツムジはそれを嘲笑う。


「そんな鍬で私に勝とうってわけ?お笑いね!」


「手元に剣がないからね。」


本当に困ったような顔を見せ、スリジエは鍬を槍のように構えた。


「即席槍術ってわけじゃないけど、これで相手するよ。」


相手を挑発するような台詞であった。

ツムジはその挑発に乗ってしまい、考えもなしにまた、鎌を投げた。

鎌はスリジエの手にしていた鍬に巻き付き、身動きがとれなくなる。


「…!?」


「捕まえた!!」


「こっちの台詞だよ。」


余裕ができて、緩んだツムジの虚を突き、スリジエは力任せに鍬を引いた。

鎖の先を持っていたツムジは突然の衝撃に、足元が狂う。

その隙をスリジエは見逃さず、鍬に巻き付いた鎌を素早くとり、ツムジの首筋にあてた。


「僕の勝ち。」


ツムジの首筋に赤い線が走る。

ツムジは死を覚悟した。

しかし、いつまでたってもスリジエは刃を突きたてようとはしない。


「…殺さないの?」


意を決して、ツムジはスリジエに尋ねた。


「別に今、君の事を殺しても良いんだけどね…。僕は王族の神聖なる手だから人を殺めてはいけないとか。汚らわしいものを触るなとかいう説教は、気にしない…気にならないからさ…でも、君が今いる場所にはね。ローレルの好きな花が咲くんだ。そんな場所を僕は血で汚したくない。だから、僕は君を殺さない。」


スリジエはにっこりと答えた。

鎌から手を離し、また椅子に座ろうとする。

ツムジの位置から、スリジエの読んでいた手紙の内容が良く見えた。

国際治安維持委員会の紋章の下に、殺害許可証と書かれていたのは、他ならぬツムジの名前であった。

ツムジはぞっとした。

もしも、自分がこの場所にいなかったら、自分は間違いなく殺されていた。

へなへなとその場にしゃがみ込み、自身の敗北を噛みしめた。


「戦意は喪失したのかな?じゃあ、良い事を教えてあげようか…橙の心臓の場所。」


ツムジはこの申し出に対し、首を横にふった。

これ以上知った時、自分の身に何か良くないことが起こりそうな、そんな気がしてならなかった。


「そう…残念だな…。」


スリジエは空を見上げた。

雲行きがあやしい。


「アカンサス、サイプレス。必ず守れよ。あの子は、とても大切な存在なのだから」


―僕なんかとは比べ物にならないくらいね。


スリジエは遠く離れた地にいる弟の安否を案じた。


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