薫風吹き渡る
「大変だ!!火山の国が攻めてきたぞ!!」
「すぐに守りを…!?」
突如目の前に現れた美しい青髪剣士を見て、橙兵はうろたえた。
「何故…ここに大海の国の者が…!?」
「…そんなこと決まっているでしょう?…仇を討ちにきたの…私はあなた達を許さない。」
右手に持つ剣を振り下ろし、ウンディーネは高らかに言った。
「さすがは姫。見事なお手前。」
あまり感情のこもっていない声で言うのはミストだ。
ウンディーネはそんなことは気にせず、目の前で気絶している兵士たちに背を向け、鼻をならした。
「こんな奴らを倒したところで、私たちの気は晴れないわ。狙うのは馬鹿な作戦を思いついた橙の民の首領…絶対逃がしちゃダメよ。」
ミストはウンディーネの言葉に恐怖した。
全ての者を蹴散らすような目付き。
その目にはいつもの心優しいお姫様の面影はなく、一人の剣士のそれだった。
火山の国が陽動をしているとはいえ、橙の民の兵が全くいないわけではない。
二人は警備している橙兵を倒しつつ、奥へと進んでいった。
足早に次の部屋の戸を開ける。
女が立っていた。
大人びた妖艶な雰囲気を持つ女性。
口紅をつけた唇からチロリと赤い舌が覗いた。
「いらっしゃい…その風貌は大海の国ね。私はゼファー。橙の四天王の一人、よろしくね。」
「ゼファー…?」
「うちのアナバとカタバがとてもお世話になったと聞いているわ。」
ゼファーが先日大海の国に侵入した二人の名を口にしたとき、ミストは眉を潜めた。
「あなたがあの二人の主人というわけですか…エストレザーのために、あなたを始末させていただきます。」
「待って、ミスト。私にやらせなさい。」
前に出ようとしたミストをウンディーネは制止した。
「へえ。あなた、ミストっていうのね。いい名前ね。」
「…それはどうも。」
「ミスト。」
ゼファーはゆっくりと、ミストの名を口にした。
「こっちにいらっしゃい、ミスト。」
ふらふらと、ゼファーのもとにミストは歩を進めた。
まるで、夢でも見ているような足取りだ。
「良い子ね、ミスト。」
ゼファーはミストの頭を撫でた。
慈愛に満ちた母のように。
「どうしたの…ミスト。」
ミストはウンディーネのほうへ顔を向けた。
しかし、目の焦点はあっておらず、まるで操られているようだ。
「ミスト。あそこにいる子が私を殺そうとしているみたいなの。私の代わりに戦ってくれるかしら。」
「もちろんです。ゼファー様。」
ミストはウンディーネへ槍を向けた。
「ミスト!!しっかりして!!!」
「あなたの声は届かないわよ。私は思考を操る術師。ミストの“エストレザーのため”という思考を、“ゼファー様のため”に変えさせてもらったわ…その意味分かって?ミストはあなたの知るミストじゃないのよ。」
うろたえるウンディーネに先程の慈愛に満ちた表情はどこへ行ったのか、まるで魔女のような笑い声でゼファーは告げた。
ミストの攻撃がウンディーネを襲う。
容赦のない攻撃に、ウンディーネは避けるばかりだ。
「どうして…?ミスト。」




