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青色回想

ミスト・ヴァッサー。

私はヴァッサー家の末娘として生まれた。

優しい両親。聡明な兄達に囲まれ、私はすくすくと成長した。

そんな私が10歳の時である。

私は長兄に連れられて、大海の国の城に来ていた。

なんと、私が王族の側近に選ばれたというのだ。


「ちょっと心配だけど、ミストならきっと大丈夫だよ。でも、分からないことがあったら、すぐに僕に聞いてね。」


兄は大海の国の若き策士として、多くの兵士から信頼されていた。

私もそんな兄のようになりたいと、幼い頃から思っていた。


「分かりました。フォグ兄さん。」


「さあ、ここでよ。」


兄の開けた部屋に、多くの上層階級の人間がいた。

皆、新しい側近の誕生を祝いにきたらしい。


「おめでとうございます。」

「ヴァッサー家の新たな猛者に祝福を!」

「秀才揃いのヴァッサー家はやはり違いますな。」


様々な貴族が私へ称賛の言葉を告げた。


「さぁ、ミスト。あそこにいるのが君の主。―――様だよ。」


目の前にいた女性は、妖艶な瞳を私に向けた。

優しげに、私の頭を撫でる。

ああ、この方は、ゼファー様は出会った時から何も変わらない。

お綺麗な人だ。


―君は僕らを守る。僕らは君を守る。約束だよ


「…あれ?」


何か変だ。

目の前がゆがみだした。




キョロキョロと、私は辺りを見回した。


「ふぅ…。」


溜め息をつく。

広い庭の中で、迷子になってしまったようだ。

その場でじっとしているのも癪に思い、私は歩き始めた。


「ふぇぇん。」


子供の泣く声が聞こえ、角を曲がってみた。

そこにいたのは同じ顔で、同じ服を着た幼い子供だった。


「泣くなよ!大丈夫!僕がお父様とお母様の所まで連れてってあげるからさ。」


「でも、さっきからずっと迷ってるよ…ここどこかわかんないよ…。」


泣いた子がさらに泣きわめいてしまった。

別の子が私の存在に気づく。


「ねぇ。君、僕らは迷っちゃったんだ。助けてよ。」


…生意気な子だ。

私の方が年上のはず…。

きている服からみて、それなりの家柄の子だろう。


「構わないけど…。」


「けど?」


「私も迷った人間です。」


「…使えないな!」


今の言葉はさすがの私もカチンときた。


「や、やめようよ…今はお母様とお父様の所に急ごう…ね?」


「そうですね。この辺りには野犬があらわれるとのこと…はやく森をぬけ出すのが賢明でしょう。」


…しかし、こういう時に限って、野犬があらわれるのは、何故なのだろうか…?


グルルルル…


腹をすかせているのか、野犬はよだれを垂らし、血走った目を私たちにむけながら、じりじりと近寄る。


「二人とも!僕の後ろに隠れてて!二人は僕が守るから!」


生意気な子が泣き虫と私を、小さな自分の身体に隠そうとする。

あんなに小さな身体で…無理だ。

私は震える足を抑え、一歩一歩確かめながら前へ進んだ。


「加勢なんていらないよ。あいつは僕が倒す。」


生意気は落ちていた木の枝を、剣のように構えて私に言った。


「…では、先に私が倒しましょう。怪我をしては、お母様とお父様が悲しみますよ。」


私の言葉を受け、生意気は後ろに下がった。

体術はあまり得意ではない。

だけど…。

ちらりと後ろを見る。

泣き虫がまた、泣きそうな顔をしていた。

私はこの子たちを守りたい。


バン


渇いた音が聞こえた。

聞き覚えのある音に安堵をおぼえる。

音に驚いたのか、野犬は逃げて行った。


「大丈夫?ミスト。」


木陰から現れたのは、左手に杖、右手に拳銃を持ったフォグ兄さんだった。


「フォグ兄さん…!」


「怖かったね…もう大丈夫だよ。」


そう言って優しく私の頭を撫でてくれた。


「兄さん、私の他にも迷子が…。」


「…あなたがたは…。」


フォグ兄さんは二人の姿を見て、慌てて跪いた。


「オンディーヌ王子、ウンディーネ様。探しましたよ…ご無事で何より。」


私も兄さんに続いて跪く。


「…申し訳ありませんでした。王族の方とは知らず、ご無礼を…」


「君は僕らに無礼なことなんて、何もしてないよ。」


さっきまでの泣き顔はどこへ言ったのか、微笑みながら私に言った。


「しかし…」


「ミスト…ありがとう。僕らを守ってくれて…今度は僕らが君を守るね。」


「王族が臣下を守るのですか?」


「変…かな?…じゃあ、君は僕らを守る。僕らは君を守る。」


泣いた顔よりも、笑った顔のほうがよく似合う。


「約束だよ。」


オンディーヌ王子はそう言って、また微笑んだ。




ガン…!


壁に追い詰められたウンディーネの真横にミストの槍が突き刺さる。


「その調子よ、ミスト。」


ゼファーは自分の勝利を核心したのか、高らかに笑った。


「ミスト…。」


ウンディーネの悲痛な声も、今のミストには届かない。

ミストはゆっくりと、槍を引き抜くと今度は外さないように狙いを定める。

虚ろな目、ウンディーネは動くことができない。

ミストを傷つけたくなかった。

思わず目を閉じる。

しかし、次の動作が来なかった。

恐る恐る目を開けると、ミストの後ろから槍を持ち、羽交い絞めにしている者がいた。

自分と同じ美しい青い髪。


「オンディーヌ…どうして?」


「僕を仲間外れにするなんて、酷いことするじゃないか。…ミスト、どうしたのさ。らしくもなく下克上?」


「あの女に操られているのよ。」


気持ちを落ち着かせて、ウンディーネは立ち上がる。

オンディーヌが支えていたミストの槍を優しく握り、ミストの手から離した。


「ミスト、しっかりして!!!」


しかし、ミストは返事をせず素早く隠し持っていた拳銃を構えた。

銃口はオンディーヌに向けられていた。

うろたえるオンディーヌ。

ゼファーは妖しく微笑んだ。


「ふふふ。良いわよ、ミスト。そのまま殺してしまいなさい。」


「…」


ゆっくりと引き金をひく。

渇いた音が響く。

銃弾はオンディーヌではなく、ゼファーの頬を掠め、背後の壁に当たった。


「!?」


へなへなと、座り込むゼファー。


「ちっ、外したか。」


その様子を見て、ミストはあからさまに舌打ちした。


「あなた…どうして!?思考操作と視界操作の二段掛けよ!?そう簡単に破れるものじゃないわ!」


「…あの頭痛のするような嫌な夢はあなたが見せたのですか」


ミストは呆れ、大きく溜息をついた。


「ははは…ミストおかえり。どんな夢を見せられたんだよ」


「そうですね…。あえて言うとすれば、野犬に襲われて泣きわめく王子の姿が印象的でした」


「ヴっ…それは…悪夢だね」


オンディーヌは冷や汗をかきながら、ニヤリと微笑み衣服の汚れを叩き落とす。


「さて、ミストも復活したことだし…やろうか」


「私が王子を守り」


「僕が君を守る」


約束だ。


「くそっ」


ゼファーは思考を巡らせる。

思考操作が破られた今、自分にできることは一つ。

大海の国の最強の剣士蒼き竜は目の前のオンディーヌだろう。

それならば。

ゼファーの動きは速かった。

狙いは二人と距離を取っていたウンディーネ。

素早くウンディーネの背後に周り、隠し持っていた短刀をウンディーネの首へ向けた。


「来るな!…悪いけど人質をとらせてもらうわよ」


「…なめた真似してくれるよね」


「どうとでも言ってちょうだい…蒼き竜に勝つためならなんだってするわ」


「…何言ってるの?蒼き竜は僕じゃないって」


「くだらない言い逃れはおよしなさい…」


オンディーヌは話しが通じないと諦めたのか、ミストを見た。


「ゼファー。警告…、いえ、忠告します。姫を離しなさい。命が惜しいのならね」


「あら、そんなてには乗らなくってよ…この子を使って、アナバとカタバのときみたいに、あなたがたを傷だらけにしてあげるわ」


突如ゼファーの腕に痛みが走った。

ウンディーネが彼女の腕を掴んでいた。

爪が食い込み、血が垂れる。


「あなた…いい加減にしなさいよ…。」


反射的にゼファーはウンディーネを手放し、間合いを取った。

自分の目の前にいるのは、とんでもない怪物だと、彼女の本能が告げた。


「君は大きな勘違いをしているよ。蒼き竜は僕じゃない…ウンディーネさ」


ゼファーは竜の怒りに、逆鱗に触れてしまった。


「姫…。あとは私が、どうか姫は王子とともに先へお進みください」


ミストは恭しく礼した。


「姫の手を汚したくはありません」


「…まぁ、良いわ。行きましょうオンディーヌ。」


ウンディーネとオンディーヌが完全にいなくなったのを確認すると、ミストは刃をゼファーに向けた。


「殺すの?」


「あなたはエストレザーを傷つけました…エストレザーのために私が始末します。…と、言いたい所ですが、エストレザーを傷つけてしまったのは、外ならぬ私…あなたのことは委員会に任します。」


「…甘いわね。お嬢さん」


ゼファーの言葉にミストは首を傾けた。


「甘い?この場で殺さなかった私を、恨むといいですよ。副委員長は、フォグ兄さんは鬼のように恐ろしい方だからね…」


ミストが言い終わると、いつの間に現れたのか、委員会の制服に身を包んだものが、ゼファーを取り押さえた。


「後はよろしくお願いします。」


ミストはそう言って、先を急いだ。





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