和解
海上都市「ミスカトニア」
「アプサラス」の様な海の上に作られた人工島の様な巨大都市だが、「アプサラス」と違い海底までしっかりとした土台がある、完全固定された都市だ。
ルナとクシナダは、その「ミスカトニア」出身なのだという。
「元は、あの性格でいじめられてたクッシーがなんか気になってよ。
それで「守ってやる」つって一緒に行動し始めたんだよ」
保健室のベッドにあぐらで座る金髪少女…ルナは、ポツポツと話をしてくれた。
カーテンで仕切られて見えないものの、その隣のベッドにはクシナダが寝ており、ニャルとターニャが付き添っている。
「まぁオレもこんななりと性格だしよ、オレら2人は周囲から孤立してったさ。
分かっちゃいたんだが、だから性格を直すってのも癪でよ」
「癪だっつっても、必要なこともあるだろうが」
不思議と、最初に会った時の様に、彼女にビビる自分は何処にもいなかった。
俺は続けて、あのボロボロのランスについて聞いた。
「にしてもお前のランス、なんであんな事になってんだよ?」
「・・・中学卒業の時によ、今までオレらに絡んでたヤツらが6人掛かりで挑んできたんだよ」
「うわぁ…」
「この学校に入るってのぁ決めてたからよ、オレは既にエヴォギアを持ってたんだが、
ちょうどクッシーの<トライセラトプス>はメンテ中でな…」
「つまりは6vs1で無茶をしたってワケか」
ルナは言葉無く頷いた。
数秒の沈黙。
「だが、意外だったよ。
お前がこんな素直に話してくれるなんてな。
もっと取り付く島も無いヤツかと思ってたぜ」
俺は話し始めてからずっと思ってた事を言った。
ルナはバツが悪そうな顔をして、頭をポリポリと掻いた。
「…クッシーがいろんなヤツに声をかけてるのは知ってたんだよ。
あいつ、あんな上がり症のクセに頑張って初対面のヤツらに声かけて回って。
でも上手く話せ無いから相手にされて無くてよ。
余計にみんなに対してムカついたけど、
同時に、オレも変わるべきかもって思ってたんだ。
ぶっちゃけ、ちょうど良い機会だったってワケ」
恥ずかしそうに言うその顔は可愛いとさえ思えた。
クッソ!なんでこんな美少女ばっかなんだよこの学校は!!!
ヤンキーまで美少女って馬鹿か!!
だが、ルナはすぐに真剣な顔に戻った。
「アラタ公、テメェを「男」と見込んで頼む。
クッシーのアレをちゃんと面倒見てくれるか?」
ルナの一言で、俺の顔も自然と緊張する。
「あぁ…任せろ」
〜〜〜〜〜
「決まったぁぁぁぁあああああ!!!
勝者はクシナダ・エルヒュドラぁぁぁあああ!!!」
ルナのギアサモナーから、ピー!ピー!という機会音が鳴ると同時に、けたたましい実況の声が響いた。
やべぇ、そう言えば一切実況聞いてなかった。
まぁいいや、後でニャルのビデオを見せてもらおう。
俺達はすぐさまルナとクシナダの元に駆け寄った。
何はともあれ、気絶してる方から手を貸すべきだろう。
ルナは、確かに気絶していたが、目立った外傷はなかった。
掌底打ちによる内臓へのダメージや骨折などはちゃんと確認する必要はあるが、見た感じだと心配はなさそうだ。
その事を伝えるためにクシナダを見た瞬間、
俺は背中に冷たい物が走るのを感じた。
「クシナダ…さん?」
殺気と言えば良いだろうか?
近づく者は確実に殺す。そう言っているかの様な雰囲気を纏ったクシナダが、そこに佇んでいた。
ふと見ると、彼女のエヴォギア<トライセラトプス>の表面を、血の様に真っ赤なラインが走り、ボウっと淡く光を放っていた。
先ほどまで澄んでいた黒目が、怪しく赤に発光している。
焦点はあっていないような、あっているような。
とりあえずコッチを向いているのは分かる程度。
ガキイン!!!
突如強烈な激突音が響きわたる。
あまりに大きな音に、反射的に目を瞑っていた。
何事かと思い恐る恐る目を開くと、
俺の頭上ギリギリに<トライセラトプス>の特徴的な角。
そしてそれをターニャが、そのピンクの刀身を持つ俺がカスタムしたエヴォギア…<躑躅太刀>で受け止めていた。
状況で判断するなら、
クシナダが俺を襲った。それをターニャが防いだ。
そんなところか。
だが何故?
<トライセラトプス>を止めながらターニャは驚きの表情を見せていた。
「な、なにこの力!」
ミリメートル単位ではあるが、<トライセラトプス>が徐々に近付いているのが、いやでも分かる。
目の前だもの。
先ほどの戦闘でバサバサに乱れているクシナダの黒髪。
前髪の隙間から見える赤く光る目は、もはや四白眼とも言える。
そして氷のように冷たいものを感じさせる、無表情。
刹那、
ニャルがその小柄な体躯を活かして、ターニャとクシナダの間に入り込んだ。
クシナダの視線はニャルに移る。
「失礼します」
パァン!!!
乾いた発砲音が鳴った。
ニャルの左手にはハンドガン型のエヴォギアが握られていた。
「安心して下さい。ただの空砲です。
でも、気絶する程度の衝撃は保証します」
クシナダは全ての力が抜けた様に、その場に崩れ落ちた。
「ありゃぁ〜、なんか大変な事になっちゃったの?」
ふと声をかけられ、その方向を向く。
声の正体は、先ほどまで実況をしていたノゾミ先輩だった。
「今の戦闘で「固有能力」が発動したんじゃないかな?
それも飛び切り面倒そうなのが」
ノゾミ先輩は結構フランクに話を続けた。
「固有能力ですか…?」
「うむ。
固有能力は「エヴォギアの性能」とゆうより「使用者の性能」を大幅に変革させるものだからねぇ。
ただの筋力アップとか反射神経アップとか程度なら良いけど、
今のクシナダちゃんの雰囲気からするに、それ以上の何かなんじゃないかなぁ〜」
さすが趣味で実況しているだけあり、エヴォギアについての知識もあるようだ。
「んで、
ルナちゃんはアレ見てどう思う?」
ノゾミ先輩が不意に気絶しているはずのルナに声をかけた。
じゃっかん驚きつつルナを見ると、いつの間に気付いていたのか、険しい表情をしたルナが天井を見つめていた。
「…どうってよぉ」
クシナダの暴走は見ていたようだ。
「ま、あれだけの戦いだったんだから、まずは保健室に行きなさいなぁ。
それにしてもぉ〜アラタちゃんに着いてけば、また面白い戦いの実況出来るのかなぁ〜?」
ニヤニヤ顔のノゾミ先輩は、心底楽しそうな顔をしている。
続けて「じゃねぇ〜」と手をヒラヒラさせながら、その場から姿を消した。
〜〜〜〜〜
「とりあえず、あの暴走が<トライセラトプス>の固有能力なら、一度調整して見てみないと何とも言えないし…
それにルナさん、お前のエヴォギアも修理しなくちゃだろ?」
「ああ、オレの事は呼び捨てでいいよ。
…そうだな、流石に「暴走するエヴォギア」と「故障したエヴォギア」のコンビじゃ試合に出れても、ロクなポイント稼げねぇしなぁ」
このヤンチャ娘、まだ2人で試合に出るつもりらしいな…。
「そこで俺から提案がある」
俺はここぞとばかりに話を持ちかける。
「俺がお前らのエヴォギアを修理して調整する整備士になってやる。
代わりに、俺達と組んで試合に出ないか?」
「・・・」
一瞬、怪訝な顔を浮かべたルナは、すぐに何かを考える様な表情を見せた。
「今回限りのチームで良いんだよ。
変わる機会が欲しいんだったら、今がそのチャンスなんじゃないのか」
俺の一言に、ルナの眉がピクリと動いた。
「アラタ公よぉ…なんでオレが思ってた事をサラっと言うんだよ!このバカが!恥ずかしいだろうが!!」
手元にあった枕で何度も殴ってきた。
だが、本気の攻撃ではない。それはわかった。
5〜6発殴られてから、ルナはカーテンを開けた。
耳をすましていたターニャとニャル、そして既に目が覚めていたらしいクシナダがあからさまに驚いていた。
ルナは溜息をつく。
そして、真剣な顔をクシナダに向けた。
「その…オレが意地はってたせいで、すまなかった」
その言葉にクシナダは涙目になりながら、首を横に振る。
ルナは再びこちらに顔を向けた。
「よろしく頼むぜ、アラタ公」
言葉とともに右手が差し出される。
完全に今回は、この2人の不器用な幼なじみに巻き込まれただけで、なぁ〜んにもしてないんだけどな。
まぁいいさ。
とりあえず、この金髪娘のエヴォギアを直したり、クシナダの暴走を調べたり、
今回のツケは明日から払うんだから。
俺はルナの右手をしっかりと握り返した。




