表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/25

第一部終章《過去を見つめる》

第一部終章  《過去を見つめる》



 砂まみれのスカートに、傷だらけの腕。

 本当はあの時、あなたはわたしを責めようとしていたのは解っていた。

 だけど、それでも優しく接してくれた。

 認めてくれた。

 その行為が、どれだけうれしかったのか、あなたは解っていない。

 あの頃のわたしは、認めてほしくて、誉めてほしくて、ずっと「わたしはここに居る」と心の中で叫んでいたからだ。

 無駄な事だと解っていたし、認められたい人も解っていたけど、それでもあなたに認められたのは嬉しかった。

 今なら何故(なぜ)か解る。

 怖いから、周りに()みついていたんだ。

 大きな世界も中で、ただ自分の小ささに脅えて(あらが)っていただけ。

 だから強がっていた。

 わたしは素直ではなく、第一印象は最悪だっただろう。

 だけど、それから時を重ね、いくつも経ち、わたしがあなたの事を強く想うように成ったのは、何時(いつ)からだろうか。

 セミの声が五月蝿(うるさ)い季節だったのか、情緒(じょうちょ)漂う月夜の季節だったのか。

 目を(つぶ)れば、色々な二人がわたしの頭の中を駆けていく。

 恋人達が共に過ごす様な記念日や、わたし達にとっての特別な日。

 幸せすぎて、逆に怖くなるような思い出の数々。

 そこに(いた)るまでの、一、二個の思い当たる場面は(えが)けるけれど、どれもこれも、これと言って的確(てきかく)なものは存在しない。

 時が経つにつれてしだいに、わたしはあなたを眺めている事が多くなっていた。

 見ているだけで、幸せだった。

 しかし、それだけで無いはずだ。

 そこで、ある風景を思い(えが)き、わたしは納得した。

 あぁ、そうか、……………それは、

 それは、桜の花びらが舞い散る季節だった。

 すこし(あき)れた顔の、彼の後ろに見えた、不細工(ぶさいく)な月明かりに照らされた、あり()ないオレンジ色したライラック。


 ――――――それは、始まりの風景。


 わたしはここまでメロメロだったのか。

 一目ぼれに近い感覚。

 そう、忘れはしない。わたしとあなたの出会いは、あの不細工な月明かりの下だったんだ。

 わたしはもたれ掛かっていた樹に、後ろ頭をぶつけて、口元を(ゆる)めていた。

 今まで思い出とは、苦しくて、思い出したくないものばかりだった。なのに、今は思い出だけでこんなにも幸せになれる。

 知らなかった。

 思い出とはこんなにも、温かいものだったんだ。

砂那(さな)、――――行くぞ」

 目を閉じて、想いに(ふけ)るわたしに声がかかる。

 わたしは目を開いた。

 頭上には、あの時と同じような、不細工な月が浮かんでおり、辺りを黄色に染めている。

「――――ほんと、情緒(じょうちょ)()けるわね」

 其処(そこ)は、都会の真っただ中でも、街灯が少なく、月明かりはよく(さえ)えた。 

 髪に風を感じて、空を眺め終え、それから自分の脚を見る。

 少しだけ(ふる)えていた。

 覚悟という言葉。

 決断(けつだん)という言葉。

 言葉でいくら誤魔化(ごまか)してもうまく行かないものだ。

 ――――やっぱり、少し怖い。

 あぁ、それを恐怖と感じるほど、わたしは今まで、こんなにも頑張って生きていたんだ。

 わたしは少し離れた場所にいる、心配そうにしている二人に、心配ないよと(うなず)いて見せた。

「砂那、………今ならまだ引き返せるわよ。アルクインに(まか)せてもいいのよ」

(まか)せれば全て終わるわ」

 守りたいものも、この感情も。

 ――――――ベネディクト・アルクイン――――――

 最強の魔法使いと呼ばれるものを姉に持つ、優秀な魔法一家の三姉妹の中の次女。

 三姉妹の中で最も魔法使いらしい魔法使い。

 あの人は殺す事により、全てを終わらせるために、この東京(ばしょ)にいた。

 だから――――――。

(ゆず)れない。わたしがする」

「――――後悔しない? 私はしたよ」

 彼女の顔には影が見えたが、わたしは知らないふりをした。

「………水希(みずき)。わたしは、後悔しないために行くの」

 彼女に向いて笑って見せる。

 上手く出来たのか、あまり自信はなかった。

 そんなわたし達に、一番遠くにいる彼は、やさしくて、(うらや)ましそうな眼差(まなざ)しを向ける。

 わたしはそんな彼に頷いて見せた。

「行こう。もう、これ以上は時間が無いわ」

「解った。………砂那、俺が対峙(たいじ)して、奴がそれを出せば直ぐだぞ。水希は躊躇(ちゅうちょ)するな、素早く結べ。どれだけ早く終わるかの、時間だけが問題だ」

 水希とわたしは頷く。

「それじゃ、お互いに健闘(けんとう)を祈ろう」

 軽い感じで彼は言う。

 三人で頷くと、お互いに配置に付くため、わたしたちは別々の方向に向かおうとする。

「――――砂那、」

 彼の呼び声に、わたしは足を止めた。

 しかし、足は止めたが、振り向きはしなかった。表情を見られたくは無いから。

 水希はその様子に気付いたみたいだが、気を使っってくれたのか、そのまま走り()る。

 あぁ、彼の顔を見るのが怖い。

「………なっ、何?」

「この後、何かあった時は、あいつに(つた)えてくれ。先に行くと」

「?」

 わたしはその言葉の意味が解らず、振り向いた。

 彼は其処(そこ)にはもういなく、その空間には、意味不明な言葉だけが残った。

「――――(つた)えれたらね」

 わたしも自分の役割のために、顔を戻し走り出す。

 この物語に、ハッピーエンドは無い。

 人が一人、死ななければ、終わりを向かえれない。

 わたしは走りながら、彼に向かって呟いた。

「だけど、伝えるのは、わたしじゃない。あなたの役目よ、篠田さん」

 夢のような日々が終わる。

 今はその毎日に、心からありがとうと言える。

 (そう)、わたしは、あなたのことが好きでした。

 だけど、今からあなたと戦います。

 ハッピーエンド願望。

 喜劇王チャップリンの映画は、ハッピーエンドになるように作ったと聞きます。

 それは素晴らしい考えと思い、私もそうしたいのですが、今回の話はそうならない可能性が高いです。

 私も物語のキャラクターと共に、書きながらハッピーエンドを探していきます。

 では、また。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ