煙と海賊(後編)
はい。今回は後編です。皆さん読んでくださいね〜。煙の惑星ってやっぱりスラムとかそういうイメージがありそうです。さて、後編どんな話で終わりになるのでしょう!
「な、何するのよ、降ろして!」
「バカ、大人しくしてろ! 死にたくなきゃ操縦桿は触るなよ!」
トリスタンはコレットを狭い単座のコックピットへ引き込むと、滑り込むようにシートへ腰掛け、操縦桿を力強く握りしめた。
直後、格納庫の装甲扉を突き破り、クルタ社の私兵たちが放った弾丸がコックピットハッチの直撃を掠める。
「侵入者め、ガキごと機体を蜂の巣にしろ!」
「蜂の巣にされるのはお前らだ! 起動しろ、バッカニア――いや、スカルハートォッ!!」
トリスタンがコンソールを叩くと、バッカニアは凄まじい駆動音とともに動き出した。
バキャァァンッ!!
手首から発生した高熱の実体刃が赤く燃え上がり、通路を塞ぐ鉄骨ごと、敵の重火器をまとめて叩き折る。
「ひ、ひぃっ! なんだあの化け物! 胸にドクロが付いてるぞ!」
「どけぇ! 海賊のお通りだァッ!!」
狭い格納庫から飛び出したスカルハートは、工場の敷地内へと踊り出た。
しかし、外に出た瞬間、コレットはモニターを見て息を呑んだ。
「……囲まれてる……!」
周囲の建物の屋上、臨海ドック、そして巨大な溶鉱炉の影から、次々とクルタ社所属のトルーパーカスタムが姿を現す。その数は、およそ20機。
『トリス、マズいぞ! クルタ社の本隊じゃ! 完全に罠にハメられた、最初からホワイト運送をここで消す気だったんじゃろう!』
通信越しにゴメスの焦った声が響く。
「生意気な野良犬どもが。我が社の大切な資産を盗もうなどと、身の程を知れ!」
拡声器から響くのは、この星を統治するクルタ社工場長の傲慢な声だった。
「資産だと……? ふざけんな!」
トリスタンは操縦桿を握る手に力を込めた。優しさを残す少年の瞳の奥に、猛烈な怒りの炎が灯る。
「人間を道具みたいに扱いやがって……! そんな奴らに、コレットを渡す資格なんてねぇ!」
ズガァァァン!!
20機の銃口から、一斉に眩いレーザーが放たれた。
「きゃああっ!」
コレットがポシェットを抱きしめ、トリスタンの背中にしがみついて恐怖で目を瞑る。
だが、トリスタンは不敵にニカッと笑った。
「しっかり掴まってろよ、コレット!」
トリスタンが操縦桿を軽く動かすと、スカルハートの背部スラスターが爆音を上げて火を噴いた。
レーザーによって変化した赤い溶岩のような溶融鉄の上を、スカルハートは変則的な軌道で滑るように駆け抜ける。無数のレーザーが周囲の鉄柱をドロドロに溶かしていくが、スカルハートの白い装甲には掠りもしない。
「一機ずつ片付ける! こいつを喰らいなァッ!!」
腰にマウントしたビームライフルを取り出し、、スカルハートが纏うマントの隙間からビームを発射する。
ドガァァン! ドゴォォン!
予測不能な死角からの狙撃に、トルーパーカスタムが次々と内側から引き裂かれるように四散していく。さらに、懐へ潜り込んだスカルハートの腕部アーマーを展開、大出力のビームスパイクが、残る敵の胸部にレーザーの刃を突き刺した。
「バ、バカな! たった一機に我が社の精鋭部隊が……! 怯むな、熱量で押し潰せ! 溶鉱炉のバルブを開けろ!」
工場長の叫びとともに、頭上の巨大なパイプから、数千度のドロドロに溶けた液体金属が津波のように流れ出してきた。
周囲の気温が急上昇し、コックピットに真っ赤な警告灯が灯る。
「トリス、機体の熱量が限界じゃ! このままではオーバーヒートして動けなくなるぞ!」
「くそ、なんて汚い手を……!冷却・・。なぜだ!動かない!」
あまりの熱波に外部の通常吸気口が焼き付き、完全に固着してしまっていた。
「あはは! そのまま燃え尽きろ、野良犬め!」
万事休すかと思われたその時、トリスタンの背中で、コレットがパッと目を開けた。警告灯の赤い光に照らされるモニターの内部構造図を、直感で睨みつける。
「……熱量が逃げないなら、強制冷却スリットを完全開放すればいいじゃない! わかるわ、その機体、頭部の装甲の他にも動くはずよ! 焼き付いた頭の吸気口なんか捨てて、全体を開けなさい!」
「何っ!? ……よし、信じるぜ、コレット!」
トリスタンが緊急開放レバーを限界まで叩きつけた。
キシキシ、ガシャアアアンッ!
スカルハートの頭部装甲が、激しい音を立てて上下にスライドし、凶悪な骸骨のフェイスが姿を現した。それだけではない。胸部、肩部、脚部の白い装甲が次々とスライドして開き、内部の強制冷却スリットが赤く輝きながら一斉に完全開放される。
プシューーーッ!!
機体内にせき止められていた莫大な熱量が、凄まじい白煙の突風となって周囲の熱波を吹き飛ばした。リミッターを解除されたスカルハートの出力が、最大まで跳ね上がる。
「終わらせるぞ、スカルハート!」
装甲を開き、フレームを剥き出しにしたスカルハートは、変則軌道で熱の波を飛び越え、工場長が乗る一際巨大なカスタムASRの眼前に躍り出た。
「ひ、ひぃぃ! お前は何者だ……っ!?」
「何者かって? 見りゃ分かるだろ、お前らの身ぐるみを剥ぎに来た海賊さ!」
トリスタンの叫びとともに、最大出力のビームスパイクが指令機の胸部を貫いた。
連続する爆音。工場長の機体は爆炎の中に沈み、支配を失った工場全体の警備システムが機能停止していく。
* * *
数時間後。
ホワイト運送の輸送船「アルビオン号」は、法令により解散されたクルタ社の口座から身代金と迷惑料代わりの大金をきっちり回収し、A235の重い大気圏を突き進んでいた。
機体を運送艦に収容した後コックピットのハッチを開き、トリスタンとコレットが身を乗り出す。
激しい振動のあと、ゴオオオ……という風切り音が、ふっと消えた。
「……あ」
コレットは、息を吸うのを忘れた。
ポシェットの中の古い本をぎゅっと抱きしめたまま、ただ目の前の光景に圧倒されていた。
窓の向こうに広がっていたのは、いつもの灰色の煙でも、冷たい空気でもなかった。
漆黒の、底のない、吸い込まれそうなほど深い闇。
その中に、数え切れないほどの光の粒子が、まるで誰かが宝石箱をひっくり返したかのように、キラキラと、どこまでも美しく瞬いていた。
「これが……本当の、星空……」
本の挿絵なんかとは比べものにならない本物の宇宙を前に、彼女の目から一筋の涙がこぼれ落ち、無重力の空間に小さな球体となって浮かんだ。
トリスタンはそれを見て、少し照れくさそうに頭を掻き、胸に刻まれた白いドクロのレリーフをトン、と叩いた。
「な? 嘘じゃなかっただろ、お嬢ちゃん」
「……うん。お兄ちゃんたち、やっぱり正義の味方んだね」
コレットが涙を拭い、本を抱えててニコッと笑う。
トリスタンは少年のような純粋な目で、不敵に笑い返した。
「違うな、俺たちはただの海賊さ。他人の自由を奪う奴らから、全部を奪っていく悪党には変わりやしない。」
後ろからゴメスの呆れた、しかし嬉しそうな笑い声が聞こえた。
「ククク、減点20じゃな。やっぱり少々格好をつけすぎじゃ。……しかし、いい星空じゃな。コレット、お前さんの腕、気に入った。うちの整備班として、これからホワイト運送を頼むぞ」
「ありがとうございます。 私、一生懸命頑張ります!」
コレットは自慢げにドライバーを掲げた。
宇宙海賊『アルビオン』。
表は運送屋、裏は海賊。16人になった仲間たちの未来を背負った少年キャプテンの旅は、まだまだ終わらない。
(完)
いかがでしたか?楽しめそうな内容でしたか?お便りがないと誰であろうと改善できません。ですので、コメントよろしくお願いします。




