煙と海賊(前編)
今回はスカルハートに続く、新しい短編を書こうと思います。この小説が高評価、レビューが書かれたらクロノアがキャプテンを勤めていたアルビオンの話も執筆しようと思います。
太陽の光すら遮る黒い煙と、夜を赤く染める溶融鉄の火花。
地平線のすべてが巨大な製鉄工場とスクラップの山で埋め尽くされた工業惑星「A235」。ここで生まれ育った14歳の少女コレットにとって、世界とは「鉄の檻」そのものだった。
「ねえ、おじさん。あの宇宙の向こうには、本当は別な世界があるの?」
「バカ言え、コレット。あの煙の向こうには何もないさ。あるのは冷たい空気と、連邦の偉い奴らが乗るお船だけだ。俺たちはここで死ぬまでコキ使われる、それがこの星に生まれた者の運命さ」
大人の誰もがそう言った。空はいつも灰色か、夜でも工場の排熱で赤黒く濁っている。彼女にとっての世界は「鉄と、煙と、力仕事」がすべてだった。
だが、その日は違った。
表面上はただのガラクタを買い付けに来た運送屋――「ホワイト運送」の輸送船が、スクラップ工場のドッキング・ポートに降り立った。
工場長たちの目を盗み、面白そうなジャンクパーツがないかと船の格納庫に忍び込んだコレットは、薄暗い闇の中で息を呑んだ。
「……お化け?」
目の前にそびえ立っていたのは、白い装甲に黒い肩、そして胸と頭に不気味なドクロのレリーフを刻んだ、見たこともない人型ロボット――バッカニアだった。
威圧的なのに、どこか寂しげで、それでいて強烈な存在感を放つ鉄の巨像。コレットが呆然とその胸のドクロを見上げていた、その時だった。
「おい! そこで俺の相棒に何してんだ!」
上空のコックピットハッチが跳ね上がり、身を乗り出したのは、自分と歳が変わらないくらいの勝気の強そうな少年だった。
コレットは驚きながらも、腰のポシェットからドライバーを抜き、少年へ向けた。
「な、何よ! 泥棒扱いしないでよ! 私はただ……このロボットの胸のマーク、お化けみたいで変だな、って思ってみてただけよ!」
「お化けだと!? これはドクロだ、海賊のマークだ! ……って、お前どこから入ってきた!」
少年――トリスタンは、怒ったようにハッチから飛び降りてくると、コレットの前に立った。だが、コレットは「海賊」という言葉に首をかしげる。
「カイゾク……? なにそれ。鉄を削る機械の名前?」
「はぁ!? お前、海賊を知らないのか? 宇宙を自由に飛び回って、悪い奴らから欲しいものを奪う、悪党のことだよ!」
「宇宙……? 自由……?」
コレットの怪訝そうな顔を見て、トリスタンは言葉を失った。
通信機から、母船のブリッジにいるゴメスの渋い声が響く。
「トリス、その子はここの工場の子供のようじゃな。235の労働者はな、生まれ育った区画から一歩も出されず、空の煙しか見せてもらえんのじゃ。宇宙も、本物の星空も、あやつらにとっては御伽話の世界と言われておる。」
「星空って、あの本に載ってる、キラキラ光る綺麗な砂粒みたいなやつ……? 本当にあるの?」
コレットはポシェットから小さな古い本を取り出し、トリスを純粋な瞳で見上げつめる。トリスタンは胸を締め付けられるような衝撃を覚えた。この子は、あんなに汚い煙しか知らないのだ。
「……ああ、あるさ。こんなクソみたいな煙の向こうには、数え切れないくらいの星が光る、めちゃくちゃに広い世界があるんだ」
「嘘よ。だって、お父さんもおじさんも、誰も見たことがないって……」
「嘘じゃねえ! だったら、俺が今から見せて――」
トリスタンが言いかけたその時、格納庫の扉が爆破され、けたたましいアラームが響き渡った。
「侵入者を発見! 逃げだした例のガキだ! 運送屋ごとハチの巣にしろ!」
この星を運営するクルタ社の私兵たちが拳銃を構えて雪崩れ込んでくる。背後からは重装甲のトルーパーカスタムの足音が響いていた。
「あ、アイアン・クロー社の警備隊……! 私、見つかったらまたあの暗い部屋に閉じ込められちゃう……!」
コレットの顔から血の気が引く。彼女の手が、恐怖でカタカタと震えていた。
その怯えた目を見た瞬間、トリスタンの瞳の奥に、猛烈な怒りの炎が灯った。
「ゴメスさん! アルビオンのルール!ちゃんと果たすよ!」
「フン、他人の自由を奪う外道からは、全てを略奪してよい……。頑張れよトリス!」
トリスタンは不敵に笑い、少女の手を強く握りしめた。
「よし! お嬢ちゃん、名前は!」
「コ、コレット……」
「わかった。コレット、俺の背中に掴まってろ! お前を縛るクソみたいな運命もお前自身を――『略奪』してやる!」
(前編・完)
いかがだったでしょうか?正直、コメントがないと萎えます・・・。頑張って投稿は続けますので、応援よろしくお願いします。




