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遺書の誤読  作者: ゴールデンコチョレイト
アヴァン編
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アヴァン編(1)  『お祝いパーティを開こう』

          人物紹介


里井秋人(さといあきひと)────────僕・高校二年生


小川和希(おがわかずき)────────幼なじみ・同級生


佐々木彩葉(ささきいろは)───────後輩


新堂(しんどう)先輩────────先輩・部長


小川春子(はるこ)────────小川和希の妹


戸山碧(とやまあおい)───────刑事


古崎(ふるざき)あやか───────後輩


ジャックザリッパー───連続通り魔



─────────────────────



「我が部活の成果を祝して、今週の金曜、ささやかなパーティを開こうと思うんだ」


放課後の文芸部室。部員が部室に集まったことを確認してから、部長の新堂先輩が少し照れくさそうにそう切り出した。


部活としての今年の大きな成果――新堂先輩の書いたミステリー小説が、とある文学賞の大賞を受賞したことを祝うため。


そしてもう一つ、新堂先輩の誕生日が近いこともあって、お祝いを兼ねた集まりにしようという提案だった。


受賞にあたっては、プロットの見直しや批評など、部員総出で裏方の手伝いをした経緯がある。


部長だけで獲った賞ではない、文芸部員全員の結晶だという自負が、この部室には緩やかに満ちていた。


ついでに予算を決めて各自プレゼントを持ち寄り、交換会をしようという話が、新藤先輩の口から次々に飛び出してくる。


僕──里井秋人は、同級生で幼なじみの小川和希が賛成したため、その案に頷いた。


言い出した新堂先輩は勿論参加。そしてどうやら、一つ下の後輩の佐々木彩葉も、パーティに出席するらしい。


しかし、残りの三人の先輩たちは、お互いの顔をうかがい合い、なんだか気まずそうな様子だった。


しばらくして、その内の一人、水倉先輩が口を開いた。


「ごめん、新堂。みんなで勝ち取った賞だし、本当は行きたいんだけどさ………さすがにこの時期に金曜の夜は抜け出せなくて」


水倉先輩が言うと、外村先輩、城﨑先輩も順々に断り始めた。


「悪いけど、俺もパス。一身上の都合だ」


「金曜は塾があってね」


すまながる彼らの言葉に、新堂先輩は「いやいや、気にしないでくれ! 遠慮させて悪かったな!」と快く手を振っていた。


──仕方ない、先輩たちは今年受験なのだ。本当なら新堂先輩も、パーティを開こうと言えるほど余裕はないだろうに。


ていうか、普通、こう言う祝い事って、部室で菓子とジュースをつまむ程度の簡単なことなんじゃないのか?


パーティだなんて大袈裟にして……せいぜい、ファミレスとか──


「──あ」


「? どうした、里井」


「あ、いや……そう言えば、会場はどうするんですか?」


そんな僕の問いには、部長ではなく和希が答えた。


「俺の家はどうです? その日は両親が家を空けているので、妹しか居ません」


和希は、部員全員──特に新堂先輩に向けてそう提案した。


新堂先輩はそれを了承した。僕と佐々木については、言うまでもないだろう。


実は文芸部にはもう一人、古崎という一年の女子部員が在籍しているのだが──今年の夏休み明けから一度も部活に顔を出していない。


なんでも、いじめが原因の不登校だとか。


──と、こんな感じで、金曜日の放課後は和希の家で、新堂先輩、僕、和希、佐々木の四人で集まることが決定した。



─────────────────────



部活が終わり、片付けを済ませて校門を出る。


新堂先輩や他の部員たちは駅へ向かうため、僕たち3人とは反対方向の道を歩いていった。


「じゃあ金曜日、楽しみにしているよ」


遠ざかる先輩の背中を見送った後、いつものように僕と和希、そして佐々木の3人で帰路についた。


家が一番手前にある和希は、いつもと変わらない爽やかな顔で先頭をあるいている。


あいつの人柄の良さは、誰に対しても分け隔てなく優しく、部活の潤滑油のような存在だ。


新堂先輩のプロット直しにも一番熱心に付き合っていたし、あいつがいてくれるからこそ、この文芸部のバランスは保たれているようなものだった。


その和希が、ふと思い出したように、スマートフォンの画面から目を離して言った。


「そういえばさ、二人とも帰り道には気をつけてよ。また近所で通り魔が出たらしいから」


「令和のジャックザリッパーだろ?シンボルとして被害者の右手首にリボンを巻きつけるっていう、劇場型シリアルキラーよろしくの、気味の悪い事件」


僕が応じると、和希は「そうそう」と真面目な顔で頷いた。


「物騒な事件だよな。二週間前から始まって、今朝で十一人目だ」


そう、それほどの死者を出す殺人事件は国内では十分に大事件だ。


しかも単純計算、二日に一人以上殺している異例の事件……しかし僕はその数字に大して驚きはしなかった。


何せ、テレビをつければ通り魔の話題ばかりで、ネットもそれで溢れかえっている。


正直に言って、僕はこの手の話は他人事だ。


僕の知らないところで、十一人の人間が死んだだけ。


無意識にそう捉えている。


だから、隣でシリアスそうな顔をする和希がいたところで、僕は「あと二人増えれば十三人か」などと、不謹慎な期待を持ってしまう。


──そろそろ、和希の家のトタン屋根が見えてきた。


「じゃあ俺はこの辺で。秋人も佐々木さんも、もし怖かったら声かけてよ。いつでも家まで送るから」


「──…大丈夫です」


和希の申し出に、佐々木は前を向いたまま、感情の読めない声で短く答えた。


僕も適当に断ると、和希は「そっか」と気さくに笑いしながら、途中の十字路で先に曲がっていった。


「じゃあな、また明日」と手を振るその後ろ姿を見送りながら、「お人好しだよな」と僕はぼんやりとそう思った。


和希の姿が見えなくなった途端、僕と佐々木の間に、独特の静寂が訪れる。


佐々木はもともと口数が極端に少ない。


感情の起伏がほとんど表に出ず、いつも淡々と、どこか遠くを見るような目をしている。「話す内容なんて何もない」とでも思っているかのような佇まいだ。


僕自身、彼女のことは「同じ部活の後輩」だと割り切っている。


けれど、二人きりになった途端に訪れるこの気まずい空気感には、どうしても馴染めない。


実は、佐々木の家を通ってから帰るルートは、僕の帰路を若干外れる回り道なのだが、だからと言って、この無機質な女子に「じゃあ僕はここで」と言えるほど、僕は肝が座ってはいない。


ただ、この静寂はやはり僕にとって居心地が悪い。


ままよと、僕は口を開いた。


「……そういえばさ、佐々木」


「はい」


こちらを向かず、佐々木が短い声を返す。声のトーンは一定で、やはり冷たい印象を受けた。


「……金曜日のプレゼント交換、何を持っていくかもう決めたのか?」


僕は当たり障りのない質問を投げかけてみた。


佐々木は歩調を変えないまま、ほんの少しだけ視線を落とし、考えるような素振りを見せる。


そして、やはり感情の読めない静かな声で、短く答えた。


「誰に当たってもいいように、ボールペンとかにしときます」


「そっか。まあ、それが一番無難だよな。……ラッピングとかはどうするの?」


「お店でできるか聞いてみます」


「あ、そう……」


「………」


「………」


…それきり、会話は途切れてしまった。


そしてそれは途切れたまま、僕と佐々木は最後に軽く頭を下げ、彼女の住むマンションの前で別れた。

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