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抱え込みすぎて壊れる前に消えた私が、別の世界でやり直したら  作者: 絵宮 芳緒
第一章|壊れる前に消えた私

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第九話|動かす側

「……全部、止まる」


その言葉が、まだ残っている。


机の上。

積まれた書類。

端が揃わないまま、そこにある。


「……」


若い方が、息を吸う。


喉の奥で、わずかに引っかかる。


それでも、一歩出る。


「……やります」


声は強くない。

だが、逃げていない。


「……待って」


落ちる声は、静かだ。

止めるための声。


「このままじゃ、何も進まないです」


言葉が、重なる。


速くなりすぎないように、押さえている。


「……」


女性が、書類に視線を落とす。


端を、指で揃える。

揃わない。

すぐに、離す。


「責任が、曖昧なままよ」


静かに、言う。


「動かしたあと、誰が持つの」


「……じゃあ」


若い方が、小さく息を吸う。


「誰が持つんですか」


「……」


沈黙が、落ちる。

短い、だが重い。


「……」


若い方が、手を伸ばす。


紙に触れる。

少し、冷たい。

引く。


一枚、抜き取る。

端が引っかかる。

それでも、止めない。


「まず、これ」


小さく、言う。

自分に聞かせるように。


「……」


女性が、それを見る。

ゆっくりと、もう一枚。


指で、端を揃える。

軽く叩く。

小さな音。


「……順番、決める」


低く、落とす。

自分に向けて。


「全部は見ない」


短く。


「動かせるものから」


「……」


若い方の肩が、わずかに緩む。

張っていたものが、ほどける。


「それでいい」


一瞬だけ、視線が合う。


「……はい」


今度は、迷いがない。


「……」


紙が動く。

一枚、また一枚。


机の上の山が、崩れる。

流れが、生まれる。


まだ細い。

だが——止まってはいない。


「……」


女性が、ふと小さく呟く。


「……あの子なら、最初から、そうしてた」


「……」


若い方の手が、一瞬止まる。

それで、十分だった。


「……」


また一枚。

今度は、迷わない。


紙の音が、続く。

止まらない。







紙の音が、続いている。

途切れない。


「……」


アリシアは、手を動かす。


一枚、また一枚。

分ける。

流す。

繋ぐ。


「……」


視線は机の上。


だが——

思考は、その先へ。


「……」


同じだ。

止まっていたのは——判断。


「……」


紙を置く。


「アルノー」


短く、呼ぶ。


「……はい」


すぐに返る。


「王都の件……今のうちに、分ける」


「……」


アルノーの視線が、動く。


「現場が回っているうちに」


確認するように。


「ええ」


迷いなく、返す。


「止まってからでは、遅い」


「……」


一瞬の間、それから。


「承知しました」


低く、落ちる。


「……」


アリシアは、紙を揃える。


軽く叩く。

音が、静かに響く。


「現場は維持」


短く、告げる。


「崩さないで」


「はい」


複数の声が、重なる。


「……」


机から離れる。

流れは、続いている。

止まらない。


「……」


扉の前で、わずかに足を止める。

振り返る。


現場を見る。

動いている。

繋がっている。


「……」


確認してから、外へ出る。


「……」


止まらず歩く。

今、動ける場所へ。


「……」


王都へ。

その先へ。


「……」


手を伸ばす。

止めない。

止めないことでしか——


繋がらないものがある。


「……」


そのまま、動かす側として

進む。


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