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抱え込みすぎて壊れる前に消えた私が、別の世界でやり直したら  作者: 絵宮 芳緒
第六章|手を離す強さ

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第5話|揺らぎの先

翌朝の空気は、少しだけ冷えていた。


窓の外には薄い雲が広がり、陽の光も柔らかい。


「……」


執務室へ向かう廊下を歩きながら、アリシアは静かに息を吐く。


昨夜の熱は、まだ指先に残っている気がした。


「……」


無理に抱えなくていい。


その言葉が、思っていたより深く残っている。


「……」


扉を開ける。


「おはようございます」


声が重なる。

昨日よりも、空気は整っていた。

動きが揃っている。


迷いながらも、止まってはいない。


「……」


その時一人が、少し硬い表情で近づいてくる。


「お嬢様」


「何?」


「……北の件ですが」


一瞬、言葉を選ぶように視線が落ちる。


「契約先より、追加の通達が」


「……」


受け取り、封を切る。

紙を開く音だけが、小さく響く。


「……」


内容を追う。

数行で、十分だった。


「……」


“管理能力に不安があるため、今後の契約継続を再検討する”


「……」


露骨だ、と理解する。

こちらが立て直す前に、揺さぶっている。


「……」


部屋の空気が、わずかに張る。


視線が集まる。

誰も声を出さない。


「……」


前ならここで、自分が前に出ていた。


契約先へ直接連絡を入れ、

相手を抑え込み、全てを整えていた。


「……」


だがアリシアは、視線を上げる。


「現在の対応状況は?」


静かに聞く。


「……先方への説明準備を進めています」


「輸送経路の再調整も」


「……」


頷く。


「交渉役は?」


「……私が」


昨日、任せた者が答える。


声はまだ硬い。

だが、逃げてはいない。


「……」


アリシアは、その顔を見る。


不安も、緊張も見える。

それでも、立とうとしている。


「……続けて」


短く言う。


「……」


相手の目が、わずかに開く。


「ですが……」


一瞬、迷う。


「先方は、お嬢様との直接交渉を望む可能性も」


「あるでしょうね」

遮らずに返す。


「……」


沈黙が落ちる。


「……それでも」


アリシアは、ゆっくりと言葉を置く。


「まずは、あなたが行きなさい」


「……」


空気が、止まる。


「……よろしいのですか?」


戸惑いが滲む。


「ええ」


迷わず返す。


「あなたが、今の責任者よ」


「……」


言葉が、静かに落ちる。

重く、確かに。


「……はい」


返事は、昨日よりも早かった。


「……」


その時、扉の外で足音が止まる。


一定の速さ、迷いのない歩き方。


「……」


低く、ノックが二回。


「入れ」


返事と同時に扉が開く。


「……」


入ってきたのは、ルシアンだった。


張り詰めるように空気が、わずかに変わる。


だが、不思議と乱れない。


「朝から随分と重い顔をしているな」


低い声が落ちる。


「……」


アリシアは、手元の書簡を閉じる。


「少し揺さぶられているだけよ」


「少し、か?」


わずかに口元が動く。


「……」


ルシアンの視線が、部屋を一度だけ見渡す。


昨日、任せられた者の前で

止まる。


「……」


「行くのか?」


短く問う。


「……はい」


緊張した声が返る。


「……」


ルシアンは、それ以上何も言わない。

ただ、一歩だけ近づく。


「……失敗しても戻って来い」


静かに落とす。


「逃げるな」


「……!」


息を飲む気配。


「……はい」


今度は、はっきり返る。


「……」


アリシアは、その横顔を見る。


命令ではない。

だが、立たせる言葉だった。


「……」


胸の奥で、小さく息を吐く。


「……」


自分だけではなく、この場ごと支えられている。


「……」


ルシアンが、わずかに視線を向ける。


「顔が少し戻ったな」


「……そう?」


「昨日よりはな」


「……」


ほんの少しだけ、口元が緩む。


「……」


外圧は消えていない。


むしろ、これから強くなる。


「……」


それでも、もう一人で立っているわけではなかった。


「……」


部屋は再び動き出す。


揺らぎながら。

だが、止まらずに。

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