9話 ランクアップ試験(2)
どうも皆さんこんにちは。休みの日は超絶ダメ人間と化す高錫裕貴です。もうちょっと頭を働かせたり体を動かしたりするようなことをしなくちゃなぁ・・・と思いつつ自宅のベッドでゴロゴロしてます。
翌日。集合場所の西門へフェンとともに向かうとすでに全員集まっていた。
「すまない。遅れたか?」
「いや、時間通り・・・だ・・・」
フェンを見た瞬間、バルドの応える声がみるみる小さくなってゆく。そういえば、昨日はフェンのことについて話すのを忘れていた。サイクスは知っていたようだが、同じく魔術の適性とやらの騒動のせいで失念していたのだろう。あちゃー、といった感じに苦笑している。
「あー、すまんシグル。伝えるのを忘れていたんだが、フェンは強すぎるから今回の試験には同行させられないんだ」
「いや、気にするな。予想はしてたし、俺も聞くのを忘れてたからな。というわけでフェン、悪いな。宿で留守番しててくれ」
頭をなでてそう言うと、フェンは軽くうなずくような動作をしてから宿の方へ戻っていった。
「な、なぁ・・・今の狼は一体何なんだ?」
緊張が少し解けたのか、バルド達が恐る恐る訊ねてきた。
「何だと言われてもな。あれが俺の従魔だとしか」
「いや、そうじゃなくてだな・・・あの狼は一体なんていう種族なんだ?あんなに強そうな狼の魔物は初めて見たんだが」
「ああそっちか。あいつの種族はSランクの神狼だよ」
「え、Sランクッ!?嘘だろ・・・」
バルド達はもはや開いた口が塞がらないといった様子だ。しかし、またそれに混じって嫌な臭いがする。心当たりはいくつかあるが、やはり俺は誰かに目をつけられているようだ。警戒は怠れないな。
その後は自分たちで考えて行動しろということでサイクスが抜け、俺たちはギルドから借りた馬車に乗って西の街道を進んでいた。バルド達が3人の連携について詰めておきたいというので、御者台には俺とシェーラが座ることになった。
で、思った通り、
『・・・それで、手順は分かってるな?』
『ああ、大丈夫だ』
『問題ありませんよ。洞窟に着いたら周りを囲ませて、』
『合図と同時に強襲。あいつらものすごく良い値が付きそうだし、こんなにおいしい仕事は初めてだぜ』
これだ。バルド達は質の悪い冒険者狩りをしているらしい。馬車が走る音は結構大きいので、小声で話せば中の声は聞こえないと思っているのだろうが、竜人の耳なら注意さえ向けていればちゃんと拾える。そしてエルフもそれは同じなわけで。
「聞いたか?」
「ええ、聞こえたわ。全く碌でもないな連中ね」
3人で話したいというバルドの提案を聞いたときに、むしろシェーラに警告するのに丁度良い機会だと思い、御者台に二人で座って中から聞こえる声に注意を促していたのだ。
「というわけだから、あの3人には気をつけろよ」
「ええ、ご忠告ありがとう。それで、あいつらの正体にはいつから気づいていたのかしら?」
「最初からだ。あいつらからは特に嫌な臭いがしていたからな」
「嫌な臭い?何かの比喩かしら?」
「そうだ。竜族や特に感覚の鋭い獣人は相手の感情とかには敏感でな、どういう風に捉えるかは竜それぞれなんだが、俺の場合は“ニオイ”として感じるんだよ」
「なるほどね。じゃあ私はどんな匂いがするの?」
「特に何も。あまり強い感情は感じないな。敏感とはいっても万能ではないから隠してたりするとわかんないけど」
「・・・そう」
シェーラは一瞬何か思い詰めたような表情をしたがすぐに元に戻った。やはり一人で行動している辺り、何か彼女には事情があるのだろうか。まあそれを追及するような無神経なまねはしないが。
そうこうしているうちに馬車は目的の場所に着き、バルド達は何食わぬ顔で先を歩き始めた。そして洞窟の前まで来たとき、急に後ろから破裂音が聞こえた。俺とシェーラは何事かと反射的に後ろを振り返り、
「・・・なんてな。知ってた」
「なっ!?」
「“風よ”!」
俺は背後から振り下ろされたバルドの剣をつかみ取った。すかさずシェーラが精霊魔法で反撃する。3人は突風に吹き飛ばされて洞窟の壁に激突し、意識を失った。
「へえ、それがエルフお得意の精霊魔法か。実際に見るのは初めてだがなかなか使い勝手が良さそうだな」
「まあね。それほどでもあるけど」
精霊魔法とはエルフ族特有の魔法で自然界のいたるところに存在する精霊へ呼びかけ、彼らを媒介にして魔術を行使するというもの。精霊魔法は詠唱しなくとも、ただ風や森の木々といったものに命令するだけなので人族が使う魔術よりも発動速度が格段に速い。そして今シェーラがやったようにイメージで補完すれば命令すら短縮できるのだ。
シェーラはフフン、と得意げに胸を張った。・・・やっぱりそこだけが残ね「ねぇ」・・・ッ!
「何だ?」
「また何か失礼なこと考えてない?」
「いや、何も?」
「・・・」
「・・・」
俺はこの空気をなんとかするべく、さっきから俺たちを包囲している気配の方へと矛先をそらす。
「そ、それよりほら、そろそろあいつらをなんとかしないといけないんじゃないか?」
「・・・・・・分かったわ。この話はひとまず後回しにしましょう」
・・・尋問は避けられなかったようだ。とにかく、俺は気配の方へと声をかける。
「それで、そこに隠れてるお前達は何者だ?ただの盗賊じゃないだろ?」
「フン、よく気づいたな」
「・・・よりによってお前かよ。この世界って本当にお約束やフラグの回収が好きだよな」
問いかけた先から帰ってきたのは傲慢さを隠しもしないような不快な声。とても聞き覚えがあった。それもそのはず、姿を現した者達の先頭にいたのが町で絡んできたガルべージ伯爵とやらに仕えている騎士だったのだ。周りを囲んでいるのは20人くらいだろうか。
「念のために聞くが、何の用だ?」
「お前ごときに話す必要はない。大人しく付いてきてもらおう」
「話にならないな・・・」
「シグル、知り合い?」
雰囲気は最悪だがお互いの顔を知っているらしいということを察したシェーラが訝しげに訊ねてきた。
「あの三下を知り合いと呼ぶにはかなり抵抗があるんだが、まあそうだな。といっても向こうが一方的に絡んできて勝手に醜態をさらしてっただけだけど」
「このくそガキ、言わせておけば・・・ッ!」
「まぁ落ち着け。だが小僧、その態度は賢明とはいえないな。この数に抗えるとでも?」
「抗うも何もこの程度じゃ軽い運動にしかならないな」
「良いだろう。その言葉後悔させてやる」
「良いぜ、かかって来いよ。軽くひねり潰して・・・」
「ほいっと」
「「「え?」」」
まさに今戦いが始まろうとしていたところでシェーラが懐から取り出した何かをこっちに投げてよこした。それは俺と騎士達の間に転がってきたところで、
ボンッ!!
と爆発した。あたりに黄色っぽい煙が蔓延したところで騎士達はパタリと倒れて気を失った。そして俺はというと、
「ゲホッゲホッ、ゲホゲホおぇぇぇえええっっ!!!な、なんだこの臭いはっゲハッ!」
辺りに漂う激臭に悶絶していた。とあるいたずら好きな高校生の集団がおまわりさんに食らわせたぞうきんよりも威力がありそうなくらいの激臭に呼吸もままならない。
「スティンクカクタスの臭液とラフレシアの花の蜜、スメリートレントの樹液なんかを混ぜて作ったお手製のガス爆弾よ。普通の人族相手ならご覧の通り、1対多数の時には結構便利なのよ」
「そ、そういうことを聞いてるんじゃ、うげぇっ、ねぇっ!」
嗅覚へのすさまじいダメージで頭がクラクラしながらもなんとか風魔術を使って臭いを吹き飛ばす。シェーラの方はちゃっかり風を操作して防臭壁を作っていた。
「はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・し、死ぬかと思った・・・・ったく何しやがる!?俺を殺す気か!?大体、ああいうものを使うんなら先に言え!」
「クスクス、ごめんなさいね♪」
この女ァ・・・絶対俺の反応を見て楽しんでやがったな。
「失礼な態度へのお仕置きよ。この程度で済んでありがたいと思いなさいな」
「それを言われたら反論のしようがないな・・・」
「・・・やっぱり何か失礼なこと考えてたのね?」
はっ!!しまった、やられた!!こんな簡単な誘導尋問に引っかかってしまうとは・・・不覚だ。
「ま、いいわ。さっきのでチャラにしてあげる」
「そりゃどうも。ならここら辺を片付けるとしようか」
「ええ」
俺はなんともシリアスブレイクな展開にため息をつきながらシェーラとともに騎士を縛り上げていくのだった。
くさいぞうきんの元ネタが分かる人は多分僕とかなり気が合います。