10話 裏切り
「やっぱりこうなってたか。予想はしてたけど」
シェーラと一緒に倒れた騎士達を縛り上げた後、本命の盗賊団達の方を確認しに洞窟の中へ入るとすでに全員息絶えていた。大方あの騎士達に邪魔にならないよう殺されたのだろう。同情はしないが。
洞窟の中を確認し、めぼしいものはとりあえず全部“バッグ”の中に入れていく。
「ずいぶん入るのね。魔道具かしら?」
「ああ。“マジックバッグ”だ。便利だろ?」
「そうね。殺してでも奪い取りたくなるほど便利だわ。気をつけなさいよ?」
「へえ、心配してくれるのか?優しいんだな」
「べっ、別にそんなんじゃ・・・」
シェーラは少し赤くなった顔を隠すように髪をいじり始めた。なるほど、シェーラはツンデレさんだったのか。なんとなく“お姉さん”って感じの印象だったから少し意外だった。
「ねえ、なんか腹立つんだけど」
「そしていつものパターン、と。お前エスパーか?」
「あなたがわかりやすすぎるのよ」
そんなやりとりをしつつ作業を終えて戻ると、騎士達が目覚めていた。
「おい!この縄をほどけ!何をしているのか分かっているのか貴様!」
「もちろん分かっているさ。俺たちを襲撃してきた悪い騎士をとっ捕まえてんだよ」
「何だと!我々が何をしたというのだ!」
「いや普通に攫おうとしてただろ」
それでも諦めの悪い騎士は見苦しく喚き立てる。
「フン、我々はお前達を保護しに来ただけだ。そこの洞窟にいた盗賊どもはお前達の手に余るだろうから助けに来てやったというのにこの仕打ちとは、この恥知らずめ!」
「へえ?じゃあこれは何だ?」
そう言って俺が取り出したのは今喚いてる騎士の懐から見つけた一通の手紙。それはガルベージ伯爵からの命令書だ。
『シグルと名乗る冒険者を生かして連れてくるように。最低限意思の疎通はとれる状態にしておくこと』
その文の下には俺の似顔絵が描かれていた。それを見た騎士の顔色が変わる。
「き、貴様っ!なぜそれを・・・」
「捕まえた犯罪者の身体検査をしない馬鹿がどこにいる。というかこんな決定的な証拠はさっさと処分しとけよ。本当に頭悪いな、お前ら」
「ぐ、ぬぅっ・・・」
騎士が静かになったところで帰りの馬車の方へ向かって歩き始める。が、騎士達はなかなか歩き出そうとしない。街道で捕まった盗賊なんかがよく使う常套手段だ。20人程度なら力任せに引きずっていくこともできるが、うっとうしいので手っ取り早い方法で脅す。
「おい、歩くのに抵抗したら一人づつ適当に選んで殺していくからな。別に死体でも報奨金はもらえるんだ、生かしてやっているのは俺の面倒を減らすために過ぎないということを理解しろ」
そう言って威圧をかけると俺が本気で言っていると理解したのか、観念して素直に歩き始めるのだった。
ー ー ー ー ー ー
「・・・それで、ここまで連行してきたと」
「はい、その通りです」
西門に着くと当然ながら縛り上げた騎士達を門番に見とがめられたので軽く事情を説明したところ、ロバートがやってきて団長直々の聴取となった。
話を聞き終わったロバートは俺が渡したガルべージ伯爵の命令書を見ながら不快気に眉をひそめる。
「まったく、本当にどうしようもない方だ。大人しくあの肥えた体でも愛でていれば良いものを・・・」
実直そうなロバートのまさかの暴言に俺どころかそばにいた部下まで目を見開いている。
聞けばガルべージ伯爵は大きな商会とつながりがあるおかげでこの辺りの経済界で強い発言力を持っており、その権力を利用して好き放題やっているそうだ。それはロバートでも暴言の一つや二つは出るだろう。
「とにかく、話は分かった。報告と証拠の提出、誠に感謝する。これまでは何のかんのと言い逃れられていたが今度こそ逃がさん。謝礼金に関しては後ほどギルドで受け取れるように手配しておこう」
「分かりました。では、俺はこれで」
「ああ、ご苦労だった」
詰め所から出るとシェーラは俺の方を少し意外そうに見てきた。
「何だよ、その目は」
「いえ、ずいぶん穏便に済ませるんだなと思って。ガルべージ伯爵の館にでも殴り込みに行くかと思ったのだけど」
「待て、俺ってそんなに短慮な奴だと思われてたのか?」
「登録初日のあの光景を見れば誰だってそう思うわよ」
「・・・言い返せない」
確かにあのときは人目をはばからずにバカどもを叩きのめそうとしたからなあ・・・。そう思われても仕方ないのかもしれない。
「相手は腐っても貴族だからな。考えなしに殴り込みに行くようなことはしないさ。ああいう奴は嫌いだが、面倒なのはもっと嫌いだ」
「なるほど。自由を好む竜族らしい考え方ね」
シェーラは納得したようにうなずく。やがてギルドへ着くとサイクスとエミリアが心配そうな表情で待っていた。
「あっ、シグルさん!シェーラさん!ご無事だったんですね!良かった・・・」
「おお二人とも、よく戻ってきたな。話は聞いているぞ。大変だったな」
「心配かけたようですまなかったな。だが俺もシェーラも無事だ。まあ俺は大したことはしていないんだが」
「あら、そんなことないわよ。事前にあいつらの悪巧みを察知して警告してくれたじゃない」
「そうだな。ついでに制圧も任せてくれれば俺はあんな目に遭わずにすんだんだが」
「ふーん、意外と根に持つタイプなのね、あなた。そういうのは嫌われるわよ?」
「そりゃ根に持つだろ。おかげで向こう2、3日は鼻が使い物にならないんだぞ」
「あらそう、それはご愁傷様」
「・・・しばくぞ、まな板娘」
「・・・頭を撃ち抜くわよ、ませガキ」
睨み合う俺とシェーラ。それを見てエミリアがオロオロしながら仲裁に入る。
「ま、まあまあ。お二人ともその辺で」
「よし、それなら二人の無事と昇格を祝って飲みにでも行くか!ここは先輩として俺がおごってやる」
「昇格?それって・・・」
「ああ、それがな、ランクアップ試験でこんな事件が起こるなんざ初めてだからな、ギルマスに相談したんだ。そしたら騎士を相手に完勝したことを評価して昇格を認めるとさ」
「よし!さすがはダンブラーさん、話が分かる!」
「ダ、“ダンブラーさん”?お前ギルマスと知り合いなのか?」
「まあな。そこら辺は飯の席で話すよ」
「お、おう・・・」
食事会を行う場所はサイクスの行きつけだという店に行くらしい。黒幕のガルべージ伯爵が健在なうちは警戒しておいた方が良いというシェーラの提案により、個室で行うことになった。
「しかし食事を奢ってもらって悪いな」
「なあに、良いってことよ。将来有望な新人のためだ。好きなだけ食ってくれ!」
「・・・ほう、言ったな?後悔するなよ?」
そこまで言うなら是非もない。遠慮なく食わせてもらうとしよう。
結果、サイクスが顔を引きつらせるまでに10分とかからなかった。まあ俺も鬼ではないので五人前くらいで止めたし、フェンはお留守番だ。何か埋め合わせをしてやらないとな。
食事が一段落付き、いろいろな種類の酒を楽しんでいると、ふと、異変を感じた。
・・・なんだかまぶたが重い。見るとサイクスやエミリアも眠そうに船をこいでいる。酔ったにしては体調の変化が急すぎる。それに俺は10杯程度では酔ったりしない。
何かがおかしい。そしてシェーラを見ると悲しそうな顔でこちらを見ていた。
「シェーラ・・・まさか・・・お前が・・・?」
「・・・ごめんなさい」
油断した。まさかシェーラが裏切るとは。そう思ったときにはすでに遅く、俺は強烈な眠気に逆らえずに意識を失った。
ついに二桁いきました!この調子で最後まで書けたら良いなと思います。次は三桁を目指して頑張りますので、皆様応援よろしくお願いします。




