第62話 "何様だ"と言われたならば……
さてさて、私達は無事山頂に到着し茂みに隠れて様子を伺っている所です。自称元土地神のギシン……いえ、暗鬼でしたか。彼は満月湖の水上にてスサノさんの腕を掴みブツブツと何かつぶやいています、スサノさんは脱力したかのようにグッタリしてますね。
時折辛そうな表情を浮かべてる……すぐにでも止めに入りたいのですが、華ちゃんと水ちゃんが許してくれません。
「……ッ」
『アカンで、今出ていったらヤツの思う壺や』
『お前の"助ける"と言う衝動を利用して罠に掛けようとしてるんだ、辛いだろうが我慢しろ』
……はい、華ちゃんの言う通りなんです。ほんの数分程前にスサノさんを掴んだ姿を見て叫びながら飛び出しそうになりましたが、水ちゃんに口を塞がれ、華ちゃんから襟元を掴まれたんですよ。
冷静さを取り戻した今なら視えます、彼の周囲には薄っすらとですが瘴気が存在しており、私が触れた瞬間に一気に収束し自由を奪う罠みたい……それらを浄化しようにも範囲が広すぎるので霊力の無駄使いになってしまうんです。仮にできたとしても相手からの一撃必殺的な技が飛んできてやられてしまうでしょう。
なんで分かるか、ですか? 私だったらそうする、もしもの事を考えての二段構えです。……もしかしたら三段構えかもしれませんがね。
『水那斬、分身体でヤツの気を引くぞ』
『できる。せや……時間差で多方向から三体くらいで仕掛けてみよか? 』
『そこに俺のも混ぜる、少しマコトには負荷がかかるが、覚悟ができたら合図してくれ』
どうやら火と水、それぞれで形成した私の分身を三体ずつ先行させるようです。多方向からの時間差攻撃……成功するかは分かりませんが、やってみるしかないでしょう。分身にはお札を持たせ、より気配を似せます。焼け石に水かもしれませんがやらないよりはマシのはずです。
準備が整った事を華ちゃんに伝えると、彼女は私にいつでも飛び出せるようにしておくようにと言ってきます。
『仕掛ける! 』
『……む? 』
相手が反応しましたね、最初の分身は一瞬で罠に捕らえられましたが不自然な手応えに少し戸惑っているようです。続けて火の分身が拳を突き出すようなポーズで突撃……しかし振り向く事もなく瘴気で形成した槍で貫かれてしまいます。
『隠れていないで出てこい』
「……バレバレみたいですね」
全ての分身を出し切る前に私は茂みから出ていきました、そのまま浮遊し相手と同じ高さまで移動します。静止したと同時に振り向くと、様々な負の感情が籠った目で睨みつけてきました。正直言いますと、かなりの目力に目線を逸らすところでした……その視線は鋭くそして冷たい、何かが纏わりつくような感覚まであります、だんだん肌がピリピリしてきました
彼の後方にミノムシのようなお札の塊が……あの中にシロの身体が捕らえられているのですね。
『選べ』
「……はい? 」
『霊刀とこの地を譲ればこの二人は返してやる、断るならばどちらも悲惨な事になる、無論貴様もな』
予想外の展開です、まさか選択を問い掛けてくるとは思ってもいませんでした。しかしこの問い掛けに関しては答えはもう決まってるんですよねぇ……もちろん"二人とも助ける"です。でも答える前にこちらからも質問をしてみましょう。
「その前に聞きたい事があります、一体何の為にこんな事を? 」
『いずれ全てを我が管理する為だ、この村はその為の足掛かりにすぎん』
いずれ全て……と言う事は、日本全土を征服しようとしているのですね。その為には霊脈の流れを自身に向け、強大な力を手に入れる。そしてそれを行う為には霊刀の力も必要と。堕ちている状態だと霊力は身体にとって毒となると聞いてますがそこのところはどうなんでしょうか?
『カカッ! 堕ちたとしても神である事には変わらない、要は使える力が一つ増えたという事だ。……だが毒であるというのは間違っておらんがな』
意外に多くの事を語ってくれるので質問をする手間が省けて助かります。手順としては霊刀を手に入れてその性質を反転させる、妖刀にするという事でしょう。そして霊脈を護っている結界を破り、そこから自身の瘴気を送り込んで霊脈を侵食していく……そんな事をされたらこの周辺の大地は荒れてしまいます、きっと多くの命が失われるでしょう。そして物ノ怪となり、人々へ仇名す存在へと変わってしまう、絶対に阻止しないといけない。
『さて、答えを聞こう』
「……私は貴方を倒して二人を救います、これ以上私の大切な人達を傷つけさせません」
『クク、カカカッ! おもしろい、我に勝つといったか……貴様、何様のつもりだ? 』
「そんなの決まっているじゃないですか。私の名はマコト、ヒノモト村の土地神様です! 」
ザシュッ!
『グォォォッ?! 』
私の言葉が終わると同時に、相手の死角……後方斜め後ろ辺りから華ちゃんの作った分身が攻撃を仕掛けました。分身は霊刀を手にしており、スサノさんを掴む暗鬼の腕を肘辺りから一刀両断。落下するスサノさんは別の分身が回収し、神社の方向へ走り去りました。
続けて水ちゃんの作った分身がシロの囚われているお札の塊を一瞬で捌き、彼女を引っ張り出して私の元へ連れてきてくれました。長い時間瘴気に蝕まれていた事もあり、身体はかなり衰弱しているみたいです。治癒と浄化のお札を貼り付け、神社へ運んでもらうとしましょう。
『き、貴様……! 』
『ハンッ、慢心して余所見をしとるからだこの阿保め』
『そうやねぇ、気ぃぬいとるギシンちゃんが悪い。いや、今は暗鬼ちゃんやったか? 』
華ちゃんと水ちゃんは相手を挑発するような言葉を残すと私の元へと戻ってきます、それぞれ霊刀の姿になって私の腰に差さりました。暗鬼は私を睨みつけながら斬られた腕を再生中……傷の断面が黒い靄で覆われ、徐々に生えてきていますね。
再生が終わると同時に背負っていた大きな鎌を手に取り、戦闘態勢になりました。私も同様にシロの薙刀を出現させて構えます。さぁて負けられない戦いが始まります、多くの仲間が力を貸してくれてはいますが油断せずに戦うとしましょう。
さぁ2月になりました。
この作品が始まったのが作品情報によると2016年2月13日……わぉ、もう5年も描いてるんですね。最初の1ケ月は毎週更新と決めてたけど、予想以上の辛さに月一更新に変えたんだっけ……懐かしいなぁ。
今回のお話は堕ちてしまった元土地神、堕神 暗鬼との戦いが始まる所までを書かせてもらいました。先手はマコト達が取る事に成功し、再生こそされましたが多少はダメージも入っています。いくら強敵とはいえ、何の消費もなく回復はさせません……そんな事をしたら限界のあるマコト達が不利になりますからね。一応ですが、暗鬼もマコトの容姿が変わっている事に気づいてはいました。でも"少し髪が長くなった"程度にしか思っていません、完全に油断している状態ですね。もう少し警戒していれば先手を貰う事もなかったのですがね。
さぁて今回の後書きはこれ位にしましょう、続きはまた次の機会にでも……ではでは~




