第52話 鼠の影に潜む者
さてさて、泥棒さんを捕まえる訳なんですけど……罠はとてもシンプルなものです。
ネズミ捕りってありますよね? 乗っかっているモノを取ろうとした瞬間にバチンっとなるヤツ、それを大・中・小と複数個用意しました。神社には蔵の中に小を、外の境内の真ん中にはわざとらしく大を置いておきます。設置しておく獲物はお金の詰まった袋、とは言っても中は偽物なんですけどね。手に取った瞬間にドロンと消え、ネズミ捕りが発動する仕掛けです。
「さぁて、罠に掛かるかな? 」
さすがに私も日中はちゃんと仕事をしてましたよ。
夕方ごろから神社と村の各被害のあった場所に仕掛けを設置してきました。
シロに説明したらすごい呆れた表情をしてましたけど……仕事をしながら真面目に考えたんですよ?
とても何か言いたそうでしたが、半ば強制的に置かせてもらいました。
辺りはすっかり暗くなり、月もてっぺんに上っています。
通りに人の気配もほとんどありません、私は姿を消して泥棒さんを待っている状況です。
罠に掛かった瞬間にその場に移動も可能です、神界で買った”転移の札”……おこずかいが吹き飛びましたが、犯人を捕まえる為、出し惜しみは無しで行きましょう。
「……当たりました! 」
どうやら誰かが罠に引っかかったらしい、場所は村の蔵ですね。
食料を保存している場所です。
早速転移の札を起動すると、ネズミ捕りの目の前に移動……ちゃんと起動してくれてよかった。
ネズミ捕りも少し改良を加えてまして、金属部分に凹凸を作ってあります。
バチンっといった瞬間に、両手と首のあたりに収まる様な感じ。
丁度処刑台に連れられた罪人のように……そして捕まっているのは鼠、ではなく小人の様です。
「ち、ちくしょう……! 」
「小人……? 顔は鼠っぽいですね」
捕まった小人さんを観察して、私の持った印象は鼠。
頭に生えた丸い耳に出っ歯、そして独特な長い尻尾……服装はつぎはぎだらけの着物。
顔は隠していないようです、この暗さですからね、そして体格も小さい。
夜中なら堂々と盗みを働いてもばれないと思って油断したみたいですね、まずは1人です。
まずは話を聞いてみましょう。
「あの、どうしてこんなことを? 」
「うるせぇ! さっさと離しやがれぃ!! 」
「お話してくれたらそれを外してあげますよ」
「……親方からの指示だ、それ以外は言えねぇ」
親方? どうやら相手は複数いると考えた方が良いみたいですね、罠を多めに設置しておいて正解でした。
……一応情報はくれましたし、罠は解除しましょう。
「ぷぅ……息苦しかった、ぜぇ?! 何だこれは?! 」
「え、約束は果たしましたよ? 」
「逃がしてくれるんじゃないのか?! 」
「罠は解除すると言いましたが、逃がすとは言ってませんよ」
泥棒の鼠さんはしっかりと籠の中へ入ってもらいました。
いやぁ言葉って怖いですね、皆さんも気を付けないといけませんよ?
……っとと、どうやら他の場所でも罠が起動したようです、向かってみましょう。
※※※
「ひぃ……ふぅ……みぃ…………とぉ! 十ひ、コホン。十人も小人の泥棒さんがいるとは」
シロ達の宿で数を確認したところ、現状で十人捕まえました。
一カ所に集まるとそれぞれ騒いで少々うるさいですが、この様なときはシロに任せます。
「五月蠅いぞ貴様ら、食いちぎってやろうか? 」
「ひぃッ?! そ、それはご勘弁を……! 」
「まぁまぁ、シロも落ち着いて。ところであなた達の親方というのはどのような方なんですか? 」
「カッコいい」「粋だな」「目が細い」
「間抜け」「詰めが甘い」「技はある」
……一斉に口に出されると困りますね、途中悪口も聞こえましたが気のせいでしょう。
整理するとまぁまぁ信頼されている方の様です、あとはたぶん男性。
鼠を使う妖怪っていましたっけ? まぁ妖怪と決まったわけではないのですが、何分情報がないので人よりも強い存在と考えて動いた方が対応できると思うのです。……一応華ちゃんも持ってきた方が良いかな?
「ん、考えてるうちに神社の方でもかかったみたい……シロ、この子達をよろしくお願いします」
「あい分かった。情報を聞き出せたら念話で伝えよう」
※※※
~神社~
さてさて、到着したは良いですけど肝心の泥棒さんは何処にいるのでしょうか?
反応があったのは確かのですが姿は何処にも見えません。
探知できるというのも便利ですけど、大まかな位置しか分からないのが難点ですね。
とりあえず以前被害のあった蔵にでも行ってみましょう。
「……罠が、ない? いや、罠ごと持って行ったのかな」
となると相手は人と同じ大きさ……あの罠が役に立ちそうですね。
バチーンッ!!
『ぎゃーーーーー?! 』
「む、賽銭箱に仕掛けていた罠が起動しましたね。大物です! 」
神社の目の前に移動すると、巨大なネズミ捕りが獲物を捕らえていました。
一応華ちゃんを手に持って顔を確認すると、捕まっているのは限りなく鼠に近い顔の男性……多分妖怪の方だと思います。首と両手首を固定され、泡を吹いて気絶しています。
「お~い……起きてくださ~い」
「ん、う~ん……」
『ええぃ面倒くさい、マコトよ。火を点けるぞ』
「だ、ダメですよ。ちゃんと話を聞かないと……」
「んう? なんだ嬢ちゃん、見せもんじゃねぇぞ! 」
華ちゃんと話している間に目を覚ましたようです。
しかし、まぁ……捕まっているのに態度が大きいなぁ。
「とりあえず聞きたいんですけど、なんで盗みを? 」
「あぁ? んなもん楽して飯を食う為に決まって―――」
「華ちゃん」
『おう』
「あっちぃっ?! ななな、何しやがる!! 」
もう少しまともな理由かと思ったんですけど、そうではなかったようです。
お仕置きで華ちゃんで火を吹きかけました、ほんの一瞬ですので火傷はしないはず。
「人の物を盗むのは悪い事ですよ? 」
「けッ、綺麗ごとだけで生きていけるかっての。汗水たらすなんてまっぴらごめんだね」
「むぅ……では暫くこのままの状態でいてもらうしかないですね」
「はッ! この程度の罠なんざ……」
「へ? 」
まばたきをした瞬間にネズミ捕りから泥棒さんの姿が消えていました。
賽銭箱を片手で軽々と持ち上げ、鳥居の目の前まで移動しています。
どんな技を使ったんですか……
「ちょろいもんよ。さぁ~て金を頂いておさら……ぶわぁ?! 」
「あ、賽銭箱にも罠仕掛けてたんだった。とり餅の」
賽銭箱を開けた瞬間、相手を飲み込むように真っ白な餅があふれ出す仕掛けです。
本物は中に仕舞っておいたのをすっかり忘れてました。
さて、泥棒さんはすっかり白いお団子状になってしまいましたが……さすがに抜け出せませんよね?
「ぐ、何のこれしき! どりゃぁっ! 」
「うわッ!? 」
出ている頭がグルんと回ったと思えば、そのままズルリと抜け出してきました。
ど、どうやらあの一瞬え身体の周囲に油のような液体を纏ったらしく、餅が付くのを防いでたようです。
……さっきの華ちゃんの火で引火しなくてよかった。
「技術はあるというのはホントだったみたいですね」
「へへ、でなきゃ盗みなんざできねぇっての。……が今回は引き上げるぜ、獲物がちゃんとあるって分かったからな」
「獲物? 」
「その刀だよ、俺を引かせた褒美に教えてやるが、ある方から盗って来るように頼まれたんだ」
「ある方とは? 」
「おっとそこまでは教えられねぇな、子分たちもそろそろ逃げた頃だ。俺も逃げるぜ! 」
「え―――」
『主殿大変だ! 捕まえてた奴らがいつの間にか……』
なんと宿屋の方でも問題が発生してしまったようです、応答している間に私も逃げられてしまいました。
盗みは防ぐことが出来ましたが、逃げられた……むぅ、悔しい。
※※※
ヒノモト村から遠く離れた所にある小屋に神社に忍び込んだ男と小人たちは到着する。
小屋に入ると顔を布で隠した人物がいる。
「鉄鼠、首尾は? 」
「刀はたしかにあったぜ」
「……? どこに―――」
「おおっと、盗んできて欲しいんなら追加の金だ」
鉄鼠と呼ばれた男は手下の小人に指示を出す。
小人たちは相手を取り囲み、弓を構える……どうやら脅しではないらしい。
「何を―――」
「なぁに、万が一の事があったらな。何が何でも欲しいなら断らないだろ? 」
「……」
「自分の手を汚さずに手に入れようってんならなぁ、俺達が必要だろ? 」
「……ろ」
「あ? 」
「もう十分だ、消えろ」
顔を隠した人物は右手を上げ、呪文を唱える。
すると周囲にいた小人たちは苦しみだし、仲間に向けて矢を放ってしまう。
残った小人たちは次々自害し、残ったのは鉄鼠のみであった。
「て、テメェ―――ガハッ?! 」
鉄鼠の喉に短刀が深々と突き刺さる。
暫くもがいたのち、彼は絶命してしまう。
顔を隠した人物は鉄鼠の亡骸を見てポツリとつぶやく。
「あの村は私のモノだ……! 必ず、必ず霊刀を手に入れてみせる」




