第50話 シロの過去 果たされぬ約束
~カワゾイ集落~
傷は順調に癒えていた。
元々神使と言うのは再生能力が高い方でもあり、多少の切り傷であれば傷跡も残らずに綺麗に治る。
アチキに付いていたのは切り傷と打撲痕……まだ痛みはあるが傷はほぼ消えていた。
動くのにも支障がない為、助けてくれた河童の老人の手伝いなどをしている。
……あの土地神からの連絡は一切ない。
流石に何も対応がないというのはおかしい気もするが彼も動いてはいるだろう、今は待つべきだ。
「おぉい、シロや。コレ運んでくれい」
「あい分かった」
釣り道具の運搬や獣の皮をなめしたりなど、雑用が多いがなぜか楽しく感じる。
あの土地神の元でも似たようなことをやっていたハズなのだが、こうも違うのかと実感する。
一番の違いはお礼を言われる事だ、アイツは何をやってもありがとうの一つもなかったが此処の人々は違う。
やはり感謝されるというのは気持ちがいいものだな。
「よぉ~し、だいたい終わっただな。休憩すっべ」
「その前にアチキは少し見回りをしてくるよ、先に休んでてくれ」
「んな危険なことなんざねぇっての。いいから休むべ」
「むぅ……」
アチキとしてはヒノモト村からそこまで遠くない位置にある集落と言う事で、見回りしておくべきとは思うのだが……此処の人達の話によると一度も物ノ怪に襲われことはないらしい。
しかしなぁ……嫌な予感がするんだよ、こういう時の勘ってよく当たるんだ。
「いや、行ってくる。茶は戻った時にもらうよ」
半ば無理やり見回りに出る事にした。
老人は少し悲しそうにしていたが……皆を守るためだ、分かってほしい。
犬の状態で素早く、効率よく終わらせよう。匂いを嗅げば大体はわかるからな。
集落内には川や草木の自然以外の匂い以外にも、人々の匂いに干した魚の匂い……そして蜘蛛。
『……ん? 蜘蛛だと? 』
数は多くない、というより一匹だ。酸味のある酸っぱい臭いというか……どうも苦手な臭いだ。
どうやら緊張しているらしい、人里を襲うのは初めてなのか? しかし見過ごすわけにもいかない、運が悪い事にその蜘蛛の近くには子供達が遊んでいる。
『間に合え……! 』
川近くの茂みにヤツは隠れている、臭いが一層強くなった。
襲い掛かる一歩手前の所でアチキは到着し、隠れている茂みの前に立ちはだかる。
「? ワンちゃんどうしたの? 」
「茂みに何かいるの? 」
『お前等、すぐに逃げろ! 物ノ怪がいる! 』
しかしこの子達は危機感がないのか物ノ怪と聞いてもキョトンとした表情でその場から動かない。
犬の形態だったのが悪かったのか? もしかしたら唸り声にしか聞こえてなかったのかもしれない。
すると此方の威嚇に反応したからか、茂みの中からアチキよりも一回り大きい蜘蛛が飛び出してきた。
牙をガチガチと鳴らしながら鋭利な前脚を上げて威嚇してくる。
『ギシャァァァッ! 』
『うるさい、吠えるな』
「うわぁぁぁぁッ?! 」「ば、化け物だぁぁぁッ!! 」
……どうやら川に飛び込んで逃げてくれたようだな、河童であれば水中で敵う者はまずいないだろう。
では始めるとしよう、武器もない状態だがアチキには牙と爪がある、何とかなるだろう。
手始めに相手は鋭利な前脚を振り回してきた、当たれば酷い裂傷にもなりそうだが大振りな攻撃が当たるわけもない。アチキは回避し、隙を見極めて体当たりで体勢を崩した。
『……?! 』
『その脚、貰ったぞ! 』
押さえこみながら銜えて引きちぎろうとしたが、この時のアチキには力が足りていなかった。
硬い甲殻にヒビは入れれたが、相手は身体を大きく揺らす事で無理やり引きはがされる。
左の後ろ脚を一本使えなくしたが、相手の機動力に大きな影響は与えていないようだ。
アチキを振り落としてすぐに、此方へ糸を射出してきた。
『甘い! 』
しかしアチキも難なく回避、糸はその場に残されているが下手に触らない方が良いだろう。
粘着質な糸は動きを束縛するに効果的だが、アチキが使おうとすればあちこちに絡みついて糸団子になってしまう。使う為には何か工夫する必要がある。
蜘蛛は糸をどんどん吐き出して来るようになった……次第に逃げ場は無くなり、周囲に無数の糸溜まりが出来ていた。相手が糸を引くと後方の茂みが動き、此方目がけて飛んでくる。
『ッ、罠を作り出したのか!? 』
茂みだけではなく、岩や丸太まで飛んでくるとなると回避が困難になってくる。
乱雑に生えている枝はアチキの身体に傷をつけ、舞う砂埃と木ノ葉は視界を遮る。
その中でヤツは木々を糸で渡りながら数々の罠を起動して攻撃を仕掛けてくる……こちらは避けるので精いっぱいだ。せめてもう一人仲間がいれば何とかなるのだが、無いモノを強請っても仕方がない。
だがアイツも徐々に動きが単調になってきている、脚を傷つけたのは無駄ではなかったようだ。
『ギィッ?! 』
そら隙が出来た、傷ついた脚で踏ん張って痛みが奔ったらしいな。
木に着地しようとしたところで失敗して落ちてきたぞ、このまま仕留めたいが武器は―――
「犬っころ! コイツを使うだ!! 」
なんと河童の老人が竹やりを投げてきた、アチキの目の前に突き刺さる。
人型に変化し手に取るとひっくり返った蜘蛛に深々と突き立てた。
脚でアチキを探っていたが動きは次第にゆっくりになり、そして動かなくなった。
正直とても良いタイミングで武器を手に入れられて良かったな……このまま長引いていたらアチキがやられていた。恐らく子供たちが伝えてくれたんだろう、下流から上るのも大変だったろうに。
「また、助けられてしまったな。爺さん」
「武器も持だねで行ったからなお前さんは、しかし竹やりで仕留められる相手で良かっただ」
「たしかにそうだな、アチキが倒せる程度で良かった」
「よし、戻って茶飲むべ」
この時アチキは気づいていなかった、この蜘蛛を完全に仕留めていたわけではなかったことを。
そしてアチキの衣服に付いた子蜘蛛……のちに絡新婦となる存在を集落に連れて行ってしまった事を気付く事が出来なかった。
そしてその次の日、土地神が迎えに来た。
「あ~、ウチの神使が世話になった。帰るぞ、シロ」
「……はい」
「シロ、今度来たら一緒に釣りをするべ」
「だが―――」
「なぁに、河童は長生きなんだ。ほれ」
そう言うと老人はアチキに釣り具一式を渡してきた。
どうやらコイツを使って腕を磨いておけと言う事らしい、やれやれ中々強引な人だ。
それから時は経ったが、この約束は果たされる事はなかった。
マコトの前任者である土地神は姿を消し、ヒノモト村は荒れた……その影響はカワゾイ集落まで出ていたのだ。戦えるモノは多少いたがすぐに絡新婦の手に落ちてしまったようだ。
後は大体現在につながる。あの老人は喰われてしまったとの事、悲しいが既に起きてしまった事は変えられない。だからアチキは前に進むしかない、新しい命を守るためにも……
はいはい、ど~もKUMAです。
気が付けばこの土地神ライフも投稿数が50を超えていました。
あっという間の様な気がします。
今回もシロの過去話、完結編ですね。
大昔に約束した釣り……でもそれは叶わずに終わってしまう、一人で形見の釣り竿を使って釣りをする彼女はどんな心境なんでしょうね。たまにはシロもシリアスにはなるのです、え? ”たまに”は余計だって?
コホン、シロの話はこれくらいにして、そろそろクロの話も書きたいなぁと考えている所です。
彼女に対してクロが幼い時は泣き虫な感じになるから少し難しいかもしれないけど、いずれね。
とりあえず今回は短めですが此処まで、また次のお話でお会いしましょう。
ではでは~




