第33話 翁の求める物
「あ~……このクソ暑い日に石段を上るのは酷だぞ」
主殿が休暇に入ってから神社の仕事をクロと交代で行っている。
今日はいつも以上に日の光が強い……木陰があるとはいえ暑いモノは暑いのだ。
「せめて風があればなぁ……」
こんな日に限って無風。普段ならば心地よい風が吹いているはずなのだが、主殿が休みに入られてから気候が若干だが変わった気がする……イカンな、あまりの暑さで頭が変になっているのかもしれん。
まずはサッサと石段を上りきってしまおう。
「ヨッ……ホッ……ハイなッと! 」
2~3段飛ばしで軽快に上る……なに? 初めからそうすればよかったじゃないか、とな?
まぁそうなんだが……疲れるし暑いじゃないか、皆も分かるだろう?
実は荷物に菓子があったのを思い出してな、すこ~しだけ頑張ってみた。
氷山シズクからの差し入れ……誰って、いやスマン。説明は後だ。
「ふぅ、これで大体は片付いた―――」
「お~いっクロ、交代の時間だぞ~」
言葉を遮ってしまったがクロは倉庫の修理と片付けをしていたらしい。今の衣装はさすがに仕事服、神主様の格好で作業をしている。自分たちは体毛を変化させてるから自由に変えられるんだが……ソコ、”黒柴なのに白い服になれるの? ”とか言わない。アチキもクロと同じ格好、では芸がないので巫女の服装で仕事をするとしよう。
「珍しく速いね、シロ。それどうしたの? 」
「”珍しく”は余計だ、差し入れを食わせんぞ」
クロはアチキが持ってきた岡持に気づいたらしい。上蓋があるのではなく、前面の板を上に滑らせて中からモノを取り出す種類のようだ。主殿が生きていた世界では”あるみごうきん”と呼ばれる金属で作られている……と言っていたな。
「ごめんごめん、それより岡持……だよね? 変わった形してるなぁ」
「少し前に大工に頼んで作ってもらった、主殿から絵を描いてもらって良かったよ」
共に主殿の住居へ移動し縁側へ座ると岡持を開けてみた。
中からはヒヤリとした冷たい空気が流れてくる……内部は二段構造で一段目には白い大福が3つ、二段目には木の器に入った餡子がある。
「冷たっ!? 」
「こんな暑い日にはぴったりだろう? あまてるの新作菓子だそうだ」
コレを作ったのは冬に主殿を誘拐した妖怪、氷山シズク。あれから力の使い方を教えたら雪女の力を自在に扱えるようになってだな……おばちゃんの店と協力して【冷大福】というモノを売り出しているそうだ。
大福特有のモッチリ感を残しつつ冷やす……そしてその大福を餡子に付けて食べるものらしい。
「へぇ、シズクさんが……上手く村に馴染めているみたいだね」
「うむ、良い事だ。ではさっそく食べてみようじゃないか」
「「たのもぉ~うっ! 」」
大福を餡子を付け、さぁ食べようと思った矢先に訪問者が来おった……大声に驚いたクロは一気に飲み込んでしまって喉を詰まらせたぞ。胸を強く叩いているが、効果はあるのだろうか?
「ガフッ、ゲホッゲホッ! ……み、水~っ!! 」
「やれやれ、食事を邪魔するのは誰だ? 」
大福を皿に置き、訪問者の様子を見に行く。石段の途中にある平坦な道から大きな声を出しているらしく姿は見えないが……が声は二つ。年老いた男性と若い女性、どちらかが妖怪である事までは分かった。とりあえず返事をしてみる、すると今から此方へ向かう事を告げられた。回答したのは男性の方、今ので彼が人間であることは分かった。
さてさて、訪問者の目的は一体何だろうか……単なる訪問なのかはたまた物の怪退治なのか、祈祷を頼まれた場合はクロに手伝ってもらわんとな。
「コレ天目、早うせんかッ」
「少々お待ちくださいお師匠様、さすがの私でもこの大荷物では―――」
先に辿り着いたのは男性の方。混じりっ気のない白髪に口周りには立派な髭、先端は胸元まであるほど立派なモノだ。そして遅れてくるのは巨大な風呂敷……を背負った一つ目の妖怪。種類までは分らんが一つ目小僧の系統だろう。
「よくぞ参られたお客人、本日はどうされた」
「まずは名乗らせてもらおうかの、ワシは鉄心カジバラと申す。君はこの神社の巫女さんかね? 神主様はどちらにおられるかな? 」
「あいやコレは失礼した。土地神様に用があったか? あいにく不在でな、代理として彼女の神使であるアチキが承ろう」
「不在……い、いやそれよりも巫女さんや、神使と言ったか? 」
「ああ言ったとも。神社の主であり村の土地神であるマコトの神使、名はシロと申す」
「……」
名乗ったはいいがこのカジバラと言う爺さんはまだ理解が追いついていないらしい、ポカンとした表情でこちらを見ているぞ。さてさて、どうしたもんかな……とりあえず一つ目妖怪の子にも話を聞いてみるか。
「背負った荷物なら置いても大丈夫だぞ、この御方の代わりに用件を教えて貰えないだろうか? 」
「は、ハイッ! では失礼して、よいしょっと……」
いったい何が入っているのだろうか、中からは金属同士がぶつかる音も聞こえてくる。それ以外に木材や石……色々とごちゃ混ぜらしい。置いた時の音で爺さんの方も正気に返り”コレッ! もっと丁重に扱わんか! ”と怒鳴っていた。
~数分後 マコト宅にて~
「神社に奉納された刀? 」
「その通り。ワシの先祖、初代鉄心の打った刀。この書物に記されているのだが大半は野党に盗られたやら、大昔の火事で失われた等々……残りはこの神社にある刀だけなのです」
そう言うと爺さんは懐からボロボロにすり切れた書物を取り出し、アチキへ見せてくる。
初代と呼ばれた男、鉄心一振が今まで作った刀を記した書物……何度も読み返したからか所々すり切れ、読める貢はほとんどないが今開いている所はまだマシな方だ。刀の名前こそは不明だが絵は残っていた。淡い朱色の刀身には波打ってみえる乱刃……この形状は互の目と呼ばれる刃文に近い。
「失われた霊刀、技術をこのままにはしておけん。親父にはできなかったがワシは必ず蘇らせたいと思っている。何かきっかけをつか―――」
「お師匠様の打つ刀は綺麗なんですよ! ご先祖様の刀を見ればきっと……! 」
「ええぃッ、静かにせんか! お前の刀好きは分かったから少しは―――」
ふぅ……また始まってしまった。この妖怪の娘、鍛冶の話が出るたびに話を遮ってしまいほとんど進まないのだ。口を開くたびに”この刀の良い所は~ ”や”この刃文を見てください! とても綺麗でしょう? ”と自慢してくるのだ、この感じ……どことなくクロと似ている気がするぞ。
たしかにこの爺さんの打つ刀は見事だと思う……しかしだ、どの刀にも微かにだが恐怖や迷いの様なモノを感じる。残念ながら霊的な力は全く備わってはいない。
「フム、見せるくらいなら特に主殿から許可を貰わなくても大丈夫だろう。少し待たれよ」
※※※
刀はすぐに見つかる。白木で作られた鞘と柄に収まり、本殿に勾玉と転移の鏡と一緒に置かれていたのだが……所々黒茶色の汚れの様なモノが浮かびあがっていた。初めからこのような状態だったかは不明だが、微かにだが不思議な力を感じる。カジバラの言っていたのはこれで間違い無いだろう。
「自分で刀を抜き、その目で確かめるといい」
「う、ウム……では、フンッ! 」
刀は抜けなかった。何かしらの力はあるようだが呪いの様な類ではなかったぞ?
カジバラは一度深呼吸……”緊張して上手く抜けなかった”と言ってもう一度柄を握る。
最初は一人で頑張っていた、そりゃあもう後半は額に血管が浮き出るほど力を込めていたさ。
次第に弟子の天目と協力して抜こうとするが、一向に抜ける気配はなかった。
「ぜぇ……ぜぇ……何故だ? 何故抜けん?! 」
「ヒ~……ハヒ~……か、固すぎますよぉ」
「そんなにか? どれ……おっ」
どれ程固いのか確かめるためにアチキも試してみると刀はあっさりと抜けた、柄を軽く上下に動かした後に引いてみたらスッと動いてくれたぞ。
しかし鞘に納められていたのはボロボロに錆びた刀であり、書物に描かれていた淡い朱色の刀身の輝きは見る影もなくなっていた。先ほどまで感じていた不思議な力も消え失せている……あ、アチキの所為なのか?
「な、なんと……これは、これは―――」
「し、師匠、落ち着いてk――――」
「イカァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!! 」
響き渡る凄まじい雄叫び、そしてアチキから刀を奪い外へ飛び出すカジバラ。
遅れて聞こえてきたのは金属の砕ける音……ん? 金属だと?
ガギィンッ!
「何の音……んなぁっ?! 」
追いかけてその光景を見たアチキも素っ頓狂な声を上げてしまったよ……この爺、求めていた刀が錆びていた事に耐えられず、刀を地面へ叩きつけて折りおった! 宙を舞った刀身はそのまま地面に落ち、更に割れる……最初よりも無残な姿となってしまった。
何故アチキはこう面倒事に巻き込まれるのだ。
主殿にどのように報告するべきか……ふぅ、頭が痛くなってきたぞ。
さて平成最後の夏8月が終わり、平成最後の秋がやってきました。
最近の天候に振り回され、体調が絶不調に向けて下降しております……KUMAです。
今回はマコトが休暇中という事でシロとクロ、そして新しい人物で話を構成しました。
爺さんは苦労して見つけた刀を折ってしまいましたがどうするのでしょう……そして折る際に出た彼の雄叫びに関しては知っている方は一瞬で分かるかもしれませんね? 鉄心カジバラとその弟子、天目……ヒノモト村がまた一段と賑やかになりそうです。
今回はここまで。
お話はまた次の機会にでも……ではでは~




