第34話 師と弟子は犬猿の仲?
バキンッ
アチキが外に出た時には既に手遅れ……叩きつけられた刀身は宙を舞い、石畳の上に落ちてさらに折れてしまった。
「……ハッ?! 」
「ッ……こ、この、大馬鹿者!! 」
「フゴォッ?! 」
突然の事で言葉を失ってしまったが、やっとの思いで発したのはこの一言と後ろからゲンコツを一撃。
容赦なく拳を振り下ろしてしまったが……この爺さん頭がとてつもなく硬い、こちらの拳が痺れるほどだ。
「自分のした事を分かっているのか!? 自ら折ったんだぞ、先祖の作った刀を! 」
「言われんでも分かっておる! ワシは……ワシには―――」
分かっていながら言い返すというのも中々できん事だぞ……今度は何を言うつもりだ?
「ワシにはぁぁぁ―――」
「お師匠は刀を見ると”折刀病”の発作が起きてしまうんです!! 」
「……なんだその病気は? 」
天目曰く、この爺さんの一族にしかない奇病との事。
質の悪い刀を見ると折らずにはいられなくなるらしい、しかし錆びているとはいえ先祖の打った刀……ましてや霊刀だぞ。何故折る必要がある? 折らねば死ぬというわけでもなかろうて。
まさか自分の方が良い刀を打てるという自信の表れか?
「だからお師匠様は―――」
「違うわぁッ! 何を早とちりしとる、”声”が聞こえたのだ」
「……”声”だと? 」
『お、やはり聞こえていたのか。そいつは重畳』
……待て待て、いつから其処にいた? 折れた刀の上あたりに幽霊がいるぞ、無精ひげを蓄えた浪人のような男だ。口には葉っぱを咥え、髭をいじりながらアチキ達を見下ろしている。
『ん~、丁度奇病の話をしていた頃から見とったぞ? 確かに俺はその爺に言った、”俺を打ち直せ”とな。まさか折るとは思わなかったが……こうして外に出れたんだ、良しとしようではないか』
「良し、とはいかないだろう。この爺は―――」
『まぁ犬の嬢ちゃんの言いたい事は分かる。だがどのみち俺の身体は限界だったんだ、もうこの村を守る力なんざぁすっからかんよ』
「守る? まさかお前の力が弱まったから……」
『その通り、神無月の時もあっただろ? あの時にはもう錆まみれ、俺が張る結界なんざ鎌鼬にとっては紙同然……嬢ちゃんの結界も同じだったがな。斬り裂かれた時の衝撃は堪えたねぇ』
なんと……最近もそうだが物の怪の出現頻度が多い原因は霊脈の流れ弱まっている以外に、この刀にもあったという事か。土地神が不在の頃からずっと一人で守ってきたのだろうな……、それならばあの錆も納得だ。
「しかしだな、打ち直すといってもどうやるんだ? この爺さんは霊刀は一度も作った時はないそうだが……」
『あぁソレは問題ない、此処で打てばいい。丁度霊脈の真上、後は鍛冶をできる妖怪がいれば万全だ』
「妖怪……? 」
それを聞いたアチキはある天目を見ると、何を言うか察したカジバラは首を横に振る。
そのまま背を向けると風呂敷の元へ向かい、漁り始める。
「お主はコイツに打たせろと言うのだろう? この刀を見てみろ」
「……これでは紙すら斬れんぞ? 」
鞘から抜いた時の見た目、それはもう立派な刀だ。しかし刃を触ってみると……丸い。
目で分かるほどではないが確かに丸みがある。言った通り斬る事は出来ない、紙すらも……ただの鈍器だ。
殴られたら相当痛いだろう。
「ワシに隠れて打っておったらしい、できるのはどれも鈍らでな」
「み、見つからないようにしていたのに……」
「分かるに決まっておるだろう! その熱意に免じて目を瞑っておっただけだ」
それもそうだろうな。結構な音も鳴るし、材料も減る……ツッコむ気すらおきん。
さてこの妖怪が無理となるといったいどうするのだろうか?
……刀の霊もあまり良くない顔をしている。
『それは困った、俺はかつて鉄心一振も一人の妖怪と共に打った刀でな……妖怪とは刀へ霊力を込めるためには欠かせない存在なのだ』
「だが貴方様も見ただろう? 天目の打った刀では話にならん。そもそも霊力が込められている筈がない、それよりも他の―――」
「いや、鈍らではあるが霊力はある。アチキには分かるぞ?」
「ほ、ホントですか?! 」
「ウォ……」
今度はアチキに喰いついてきた……流石に単眼がズイッと近づいてくると怖い。
やはりコイツはクロに似ている。とりあえずは押しのけて話を戻すとしよう。
「少しは落ち着け。でだ、弟子が未熟なのであればお主が鍛えてやればいいだろう? 」
「……ワシに弟子などおらん! ましてや女子なんぞに―――」
「おっと、それ以上は言わん方が良いぞ? 主殿であれば声を荒げるだろうが、アチキは先に手が出てしまう」
寸止めだがカジバラの口元にはアチキの薙刀が……いつ出したのかとな?
まぁ細かい事は気にするな、この爺にこれ以上言われると本当に当ててしまいそうだからな。
どの時代でも差別というのはあるが……この手の話題は難しいのでな、解答は勘弁してほしい。
「事実、現状で霊刀を打てる可能性があるのは彼女だけなのだ。他に手は無いだろう? 」
「だが―――」
「いや、お前さんはやるしかないのだ。この折った刀を目にしても同じことが言えるのか? 」
「……ならば村の―――」
「事情を話したところで手を貸すと思うか? 」
「グ、ムムム……ええぃッ! 分かった分かった! コイツに教えれば良いのだろう? 天目! 準備するぞッ」
往生際の悪いカジバラ……そこまでして彼女へ打たせたくないのだ。
天目はやる気、しかしカジバラはそれを拒む……人間ゆえに普通の刀しか打てず、妖怪にしか霊刀を打てない嫉妬からか?
考えていると、刀の霊は小声で話しかけてきた。
『今の二人ではまともな刀は打てんだろうな、互いを信頼していない』
「お主からもそう見えるか? 」
『爺の方は明らかに嫌っている。まぁ嫉妬だろう……コイツは多少時間が掛かるぞ』
「アチキが神界から職人を連れてくるか? 」
『いや、それでは駄目だ。霊刀には巡り巡って出来た”縁”ってのも重要になってくる。人と妖怪の、そして土地もな』
出来れば主殿が戻られる前に済ませたいのだが……これは中々骨が折れそうだ。
クロか? 奴は宿の方へ行かせたよ。毎回気絶されると面倒だからな、アチキの仕事量も倍になるしな。
※※※
~一週間後~
カジバラ達がこの村に来て早くも一週間が経った。
とりあえずは主殿の家に住ませている……アイツ等、一銭も持っていないとはどういうことだ?
別のところで銭を使い切ったと言っていたが、賭け事でもしてたのだろうか……。
鍛冶に必要な物は全て天目が背負っていた風呂敷に収納されていたらしい。刀を折った次の日には神社からカンカンと鉄を叩く音が聞こえている。そして、あの声もな……
「イカァァァァァァァンッ! 」
「ハイッ! 」
「その打ち方ではまた鈍らが出来るではないか。打つ時は槌に己の魂を込めろ! そして鉄に打ち込めぃッ!! 」
現在は銭稼ぎかつ天目の練習。村人の農具や包丁等の新調、研ぎ直しを行っている。
まぁ一歩ずつであるが彼女も成長しているようだ、作るのはほとんどが鈍らであるが稀にちゃんとした刀を作る事もある。その度にカジバラは怒鳴り、目の前で打ち直している……あれほど毛嫌いしていたのにどんな心境の変化だ? そしてアチキはカジバラの言っている事はサッパリ理解できない……
「こうですか、師匠! 」
「……イカァァァァァァァッン!! 」
「ハイ師匠ッ! やり直します!! 」
そして天目は理解しているのだ……?
もうすっかり寒くなり、より秋らしい気候となってきた気がします。
ど~もKUMAです。
十月突入と同時に台風直撃ってひどくないですか? Jアラートが鳴ったとしても会社は休みにならないんですよねぇ……まぁ現実の話はこれ位にしましょうか。
今回から霊刀作成、と言うより鍛冶の練習開始と言う形で話が終わりました。勘の良い方であれば一つ目妖怪と鍛冶で天目が何の妖怪かが分かると思います。色々と調べてて面白かったんですよね、刀の部位や刃紋について、そして鍛冶云々……自分でも楽しく書けていると思います。
創作は自分が楽しむ、コレをモットーに頑張っていきたいと思います、そしてマイペースにね。
ではでは今回はこれで失礼します、また次の機会にお会いしましょう~




