第32話 神様との食事会
「ええっとぉ……何事? 」
電車を降りてもまだ改札を通らずに物影に隠れています。
だって怖いじゃないですか、私まだ何もしてないのにこんなお迎えがあるなんて……皆さん服装は和風な感じですけど、もしかしたらいきなりバサァって脱いで黒服姿になるんじゃないかな?
おや? 誰かが遅れて来たようですね。何やら慌ただしい様子だけど……遅刻した人かな?
「ご、ごめんなさぃ~、ちょ~っとだけ遅れちゃった! 」
「一時間の大遅刻です……だから夜更かしは程々にと言ったでしょう。企画者が遅れてどうするんですか、駄姉」
「あら~? 字がおかしくなぁい? 」
「話を逸らさないッ! そもそも貴女は―――」
眼鏡を掛けた長髪の……多分男性ですね、声と体格から予想すればですけど。
身内には容赦なく言う方なのかな? その後も何やらクドクドと説教をしているようです。
「もぅ~だからゴメンナサイって謝ってるじゃないの。……つ~ちゃんはいつからそんな口が悪い子になっちゃったの? 」
「なら俺の仕事を増やさないでください、天照姉様。まったく、たかが土地神一人の為にこんな事をしなくても……」
「めっ! 『たかが』なんて言わないの、此方から転生した方がせっかく戻って来るんだもの。しっかりお迎えしたいじゃない」
……どうやらあの女性は天照大神の様ですね、陽光さんみたいに名前があるのかな?
そして【つ~ちゃん】と呼ばれていた男性、彼女を姉と呼ぶ辺りからおそらく月読命でしょう。
伝承通りの性別なんですね日本では。やはり大和が特殊なんですかね?
「どうやら彼女も警戒しているようですよ? 早く柱の影から出てきてくださいマコトさん、危害を加えるつもりはありません」
振り向いてこちらに聞こえるように話しかけてきました。
でもまだちょっとだけ信頼できないかな、だってあの細い目が怖い。
「つ~ちゃん? そんな目をしてたら怖くて出てこれないわ、もっと笑顔笑顔~」
「……そろそろ本気で怒りましょうか? 」
「しょうがないなぁ~、お姉さんがぁ手本を見せてあげましょう。ホラ、おいでぇ~」
白い幕の前に立って手を広げる女性……何て言うのかな、あのフワフワした感じ。
髪型はウェーブがかった黒の長髪。服装は白上着と濃紺の袴姿に赤の羽織を重ねています。
後ろから淡い光が溢れている気がします。暖かくて、どこか懐かしい光……
「そんな、相手は猫じゃぁ―――」
「あらあら? 出てきてくれたわよ~」
そう言うと彼女は私に駆け寄り、ふわりと優しく抱きしめてくれました。
気が付いた時には自然と身体が動き、駅から出ていましたよ。ホントです。
「おかえりなさい、マコトさん」
「……ふぁっ?! 私いつの間に―――」
「だって故郷の光だもの、魂が自然と引き寄せられたのよ~」
フムフム、この言葉からやはり彼女は天照大神で合っているようですね。
太陽の香りがします。なんというのかな……天気の良い時に干した布団の匂い?
「驚かせてしまってゴメンナサイねぇ、私は天照大神。気軽に天ちゃんって呼んでねぇ」
「て、天……ちゃん? 」
「そうッ♪ 素直な子でお姉さん嬉しいわぁ~」
どうやら此方の天照大神は想像以上にフワフワしてそうです。
そして眼鏡の男性は眉間に手を当ててます、苦労人なんですね。
※※※
場所は移って歓迎会場、抱き着かれた後そのまま連行されました。
とは言っても3~5人ほどで食事をするような部屋です。
座っているのは正面に天照大神の天ちゃんさん、右には眼鏡の男性……月読命(仮)さん。
左には体格の良い男性座ってます、和服の二人とは違って工事現場で働くような恰好です。ランニングシャツに作業着ズボン、頭には安全第一と書かれたヘルメットを装着してます。
「さてさて~、それでは改めて自己紹介をしましょうか。私は天照、天照大神。眼鏡を掛けている子が……」
「月読命です、呼ぶ際は月読で良いので以後お見知りおきを。くれぐれも此方の世界に滞在中は問題を起こさないようお願いします、仕事が増えるので」
「こんな時まで仕事の話はしないの、つ~ちゃんの悪い癖よぉ? コホン、それで彼の正面に居るのが―――」
「グゥ……ガフッ…………ガァ~」
ヘルメットの男性は絶賛お昼寝中の様ですね。首がカックンカックンなって今にも頭部を机に打ち付けそうで、内心少しハラハラしてます。
おや、月読さんが立ち上がって後ろに立ちました。何処からともなく取り出したのは……ハリセン?
「いい加減起きろ、建速須佐之男」
スパァーンッ
ハリセンは頭部が上がりきった所を正確に捕らえ、彼の頭部を机に打ちつけました。
まだ寝ぼけているようですが表情がその衝撃の強さを物語ってます。おでこと鼻が真っ赤です、あれは痛い……痛いですよ。
「イッ……デェ、お? おおお? 何だ姉さんに兄さん、やっと来たのか。遅すぎて寝ちまってたよ」
「店を確保したところまでは褒めよう。しかしだ……自身の仕事を放棄してまで確保しろとは―――」
「まぁ良いじゃないか、こうして皆で座れ―――おおっ!? アンタがマコトってヤツかぁ! よく帰って来たなぁ!! 」
そう言うと須佐之男さんは手を伸ばし私の頭をワシャワシャと撫でてきました、背が縮みそうな勢いです。
話を遮られた月読さんはプルプル震えながらハリセンを構えていますが、振るわれる事もなく後ろにしまいました。ズレた眼鏡の位置を直すと静かに自分の席へと戻られましたがその表情は不機嫌そのもの……眉間にシワを寄せてムスッとしてます。
「どうした兄者! そんな顔じゃせっかくの美味い飯も台無しになるぞ? 」
「……もういい。まぁ、お前の言う通りだな。せっかく久しぶりに姉弟がそろったんだ、それで持って彼女が帰ってきた事の祝いの席でもある」
月読さんの表情が一転しました、眉間のシワもなくなり鋭かった目つきも穏やかな雰囲気となりました。
そして手に持っているのは……一升瓶と4つの桝? トクトクと注いでいくとそれぞれの席に渡していきます。
「さてこのお酒ですがが少々特殊なモノを用意させていただきました、我々もこの後仕事があるのでね」
「もしかしてそのお酒は、ノンアルコールですか? 」
「フム、成程。酔わない酒の事を【のんあるこーる】と言うのですか。神界でも最近出来たものでして、酒蔵から試飲の依頼があったので持ち込ませてもらいました。店の許可は取ってあるのでご心配なく」
ん? なんだか違和感のある言い方でしたね。ノンアルコールという単語を初めて聞いたような……まぁ今回は雰囲気を楽しむという事で、用意してくれたのでしたら飲むとしましょう。
「ん……わぁ、ほのかな甘みが良いですね」
「ホント美味しい~、コレだったらお酒が苦手な人も一緒に楽しめそうねぇ」
対面の天照さんも高評価の様です、しかし残りのお二人は少々物足りない様子……まぁお酒は好みが分かれますし仕方がないでしょう。
丁度1杯目が飲み終わったころを見計らって料理が運ばれてきました。
「今回は日本食を主に献立を組ませてもらいましたぁ、マコトさんもたくさん食べてねぇ」
「現代の日本の都合上異国の文化も取り入れていますが、まぁそれは明日から楽しんでください」
「はぁ~魚か、嫌いじゃないんだけどな……こういまいち力が入らねぇんだよな」
どうやら須佐之男さんはお肉を食べたい様子、しかしその小言を月読さんも逃さず注意します。
そして天照さんは月読さんを注意する……なんだろう、いつもこんな感じなのかなこの三人は。
神様と言うよりもごくごく普通な姉弟にしか見えませんね。
とりあえずはこの食事会を楽しむとしましょう、天ぷらや刺身なんて大和じゃ滅多に食べれませんから。せっかくの長期休暇、存分に羽を伸ばそうっと。
8月です……最近の暑さに脳がショートしかけています。
ど~もKUMAです。
今回の話では日本の神界の天照、月読、須佐之男を出させてもらいました。
大和のように名前があるわけではないのですが登場人物としてしっかりと記録は残しています。
天照はゆるっとしたキャラにしたくて、台詞の後ろに顔文字を入れながら進めてたのですが……コレジャナイ感がMAXだったので語尾を伸ばすようにしました。月読は仕事(だいたい姉の後処理)に追われている人、胃薬や頭痛薬は常備。須佐之男はスカッとした感じのおっちゃんをイメージしてもらうと良いかもです。
まぁお盆の時期と言う事もあって、マコトには日本に戻ってもらいたいなぁと思い帰省してもらいました。しっかり休んでもらいましょう……休めるのかな彼女?
とりあえず今回はここまで、また次の機会にお会いしましょう。
ではでは~
皆さんも熱中症にはお気を付けくださいね?




