第25話 妖狐覚醒
私の嫌な予感ってよく当たるんです。
クロと璃狐さんの合わせ技で炎の竜巻で相手を閉じ込めてからまだ五分も経っていませんが、妙な胸騒ぎがします。念のためシロとクロに指示を出しておきましょう。
「二人とも警戒は解かないでね、嫌な予感がする……」
「ハイッ、わかっていますマコト様」
「……主殿、どうやらその予感は当たっているみたいだぞ」
シロが話し終わると同時に炎の竜巻に黒い風が混じり始める。
その様子を見てすぐ、クロへ璃狐さんのフォローを頼みました。
ビシッ……ビシビシビシッ! バァンッ!!
『ギャォォォォォォォッ! 』
「―――きゃぁぁぁぁぁっ?! 」
竜巻が破裂……内側から黒い風が吹き出してきました。
鎌鼬は所々切り傷と火傷を負っているようですが、どれも致命傷には達していないようです。
むしろ閉じ込める前より動きが俊敏になっている気が……相手は吹き飛ばされた璃狐さんに狙いを定めています。
「シロ、援護を! 」
「あい分かったッ、一ノ段 繊月……乱れ打ち!! 」
鎌鼬に向けて薙刀を振り回すシロ、刃からは霊力の刃がビュンビュンと飛ばされています。
注意が彼女へと向けられ、技の隙間を縫いながらジリジリと近づいていく……一方クロは空中で璃狐さんをナイスキャッチ。幸いにも深い傷は負っていないようですが瘴気に穢されています、これは早急に対処しないと彼女も物の怪化してしまいますね。
「クロ! 彼女を私の近くまで―――」
「分かりました! 」
おおっ?! 一瞬で目の前まで来てくれました。
シロには申し訳ないのですがクロに援護をお願いして、私は瘴気を浄化しちゃいましょう。
一応周囲にお札を仕込みます、緊急時用です。
さて、クロの援護もあって鎌鼬の動きは止まり、シロの技が直撃したようですが相手は無傷……あ、火傷の場所から血が出てる。そういった所は脆くなっているのかな?
「シロッ、相手の傷を狙ってください! 血が出てる!」
「無茶を言うな主――― 」
『ジャァァァァァッ!! 』
うわ、ちょっと失敗……大きな声を出したらコッチに来ちゃいました。
まさかこんなに早くから仕込んだものを使う事になるなんて思いませんでしたよ。
動きは速いけど真直ぐ来てるしタイミングが合えば……
「こっちは大丈夫、さん……にぃ……いちっ!! 」
最後の掛け声は鎌鼬が目の前に現れた瞬間。
ベストタイミングです、私が右手を前に出すと前方の地面が勢いよく突き出してきました。
土壁が相手の鎌を防ぎ、深々と刺さった鎌を抜こうとする相手は隙だらけ……
「もう一度ッ! 」
すかさず手の平を返してクイッと軽く上げる……今度は鎌鼬のちょうど腹部辺りの地面が同様に突き出しました。避ける間もなく直撃し、そのまま空へと押し上げていきます。
私が仕込んでいたのは【土壁の札】。本来は防御用なのですが、攻撃に転用してみました。
実はお札各種、一度は効果を試しててですね……酷い目に遭ったんです。
この札は相手に当たったり時間が経過しても効果が発揮せず地面に落ちてスゥっと消え、その場に印を残すお札でした。そう……その印の位置に立った時に事件は起きたのです。
物事が上手くいかない時の癖で頭を掻いた瞬間、地面が勢いよく突き出し私を打ち上げました。
初めてこの地に来た時の事を思い出しましたよ。空高くから落ちるあの感覚、まさかもう一度味わう事になるとは……その後は私の危険を察知したクロに助けてもらいました。
さて、地面に落ちた鎌鼬は随分と苦しそうな仕草をしていますね。
相手はフラフラ立ち上がると何とかその場に踏ん張り、嗄れた声で精一杯の威嚇をこちらにしてきます。
腹部には紫色の円が浮かび上がり、硝子球の様な光沢も見えてきます。不吉な輝きをするあの球体は……
「怨珠……だっけ? 」
「ええそうです、マコト様。あれを砕けばこちらの勝利―――」
「あの大きさだと砕いた後もしばらく動き続ける。油断はできんぞ、クロ」
体勢を整えるためにシロも一旦戻ってきたようです。璃狐さんは気を失っているようですので、私は此処を離れる訳にはいかない。前衛にシロ、クロは弓と刀を使い分けて戦ってもらいましょう。
式神を出せば前衛は増えますが、それ以外のお札を使用できなくなるので今回式神さん達はお休みです。
「璃狐さんの治療を行いつつ援護します、このまま一気に押していきましょう! 」
二人は此方を見て軽く頷き鎌鼬の元へと向かっていきました。すかさず私も土壁の札を周囲に展開……このお札、意外に便利なんですよ。起動した時のみ霊力が消費される仕組みなので、展開するだけならいくらでもできます。出現する印も相手に見えていない……ようです、鎌鼬の様子だとね。
やっと見せた弱点である怨珠、この機を逃してしまうとおそらく私達が押し負けるでしょう。
……贅沢を言えばもう一手、圧倒的な火力を出せる人が欲しいのですがね。
「グッ……イツツツ、アタシは一体……そうだッ! アイツはどうなったの?! 」
「無理をしないでください、今治療しますので」
思っていたよりも早く覚醒されましたね、瘴気の進行も遅いみたいです。
……一度物の怪になりかけた事で耐性ができたのかもしれませんね。
でも浄化はしないと、せっかく完治したのに再発したら大変ですから。
「少しだけですが他の傷も治療されます、後々痒くなりますが絶対に掻いちゃ駄目ですよ? 痕が残るかもしれないので絶対に―――」
「それ今言う事なの?! いいから早くアタシの治療を進めて、やられっぱなしじゃ一狐としてやっていけないわ」
たしか鼬の天敵は狐でしたか。でもあの大きさだと逆に食べられてしまいそうなんですが、そこはどうなんでしょう?
「せめて尾がもう一本あれば……」
「……あれば? 」
「あんな鼬ぐらい一捻りなのにッ……何よ? ホントに一瞬で終わるのよ!? 」
いや、確かに璃狐さんの変化技術は凄いです。短い時間でしたが相手を覆いこむほどの竜巻になるほどですからね。話しながらですが治療を進め、彼女の身体を蝕んでいた瘴気も浄化する事が出来ました。
それを察知したのかすぐに立ち上がり、周囲に狐火が灯り始めましたよ……どうやら本気で怒っているようです。
……え、瘴気が蝕む感覚ですか? 聞いた話では身体が重く感じ、傷を負っている場合はそこを中心に鈍い痛みが襲ってくるらしいです。
「マコト、アタシが狐火を使ったら一番強力なお札を使いなさい」
「で、でもあの風だと雷光の札は吹き飛ばされちゃいますよ? 」
「いいからッ! アタシを信じなさい。行くわよ! 」
そう言い残すと走っていきました、途中すれ違ったクロへ「弦が切れるまで撃ち続けなさい!」と指示を出し、鎌鼬へ狐火を三発放つ。きりもみ状に飛んでいき相手の発生させている風を掻き消してます。
徐々に大きくなり、火は炎へと変化。鎌鼬より小さいようですが、身体に当たると一瞬で燃え広がりました。
「今よ! 放ちなさい!! 」
持ち札全て……を使ったら私が倒れてしまいます。
雷光の札は強力な分消費が相当大きいので現状の私の力では単発が限界。
この土地の事も考えると……ね。
取り出して投げると真直ぐ飛んでいき、途中蒼白い光を纏い始める。
璃狐さんの位置を通り過ぎた時には全体が発光していました。
「これで何とか―――えッ?!」
よ、予想外の事が起きて言葉を止めてしまいました。
鎌鼬へ直撃すると思っていたお札は姿を消し、何故か璃狐さんが持っています。
蒼白い光は限界まで輝き、起動直前……あのままでは彼女が危ない!
「璃狐さ―――」
バチ、バチチッ!
次の瞬間。空を真二つに裂いたかと思われる程の音を立て、光が弾ける……視界も白く染まり思わず身を竦めてしまいました。前に使用した時より威力が上がっている気がします。
やってしまった。
威力云々よりも私の脳内は視界と同じように真っ白に染まってしまいましたよ。
枯狸さんにどのように伝えるべきか、おばちゃんには? グルグルと思考を巡らせますが答えは出てきません。璃狐さんは私の所為で―――
「効ッ……く~ッ!! 」
「は? だ、誰ですか? 」
聞き覚えのない声、耳鳴りも少し残ってますがハッキリと聞き取りました。
恐る恐る前方を覗いてみると狐耳と二本の尻尾を生やした女性が立っていた。
尾や髪の色は蒼白く輝き、全身に時折荒々しい稲妻状の火花が散り、バチバチと音を立てています。
「マコト、アンタの霊力を借りたわ」
「なんで私の名前を……も、もしかして―――」
「そっ、璃狐よ」
「……うえぇぇぇェェェェッ?!」
か、借りたと言っても無茶があるでしょう?! でも言われてみれば璃狐さんが大きくなったらこんな感じになるのかな? 服はお札が起動した時の衝撃で所々裂けていて少しセクシーに……コホンッ、大胆なモノに仕上がっているようです。
たしかに霊魂世界で治療した際に小狐さんが似たような事をしましたが、まさか本人でしたか?
「さてと……鼬ごときがまぁ随分とアタシの縄張りを荒らしてくれたわね? 」
火花を散らしながら一歩、また一歩と鎌鼬に近づいていきます。圧に押されているのか相手は後退り……クロとシロもその様子を見て手を出さない、いや出せないのかな? 少し表情が強張っています。
『ギ……ギギッ?! ジャァァァァァッ!! 』
両腕を振り回す鎌鼬。乱雑に飛ばされたと思われた黒い真空刃は軌道を変え、璃狐さんの元へと集まっていきます。しかし彼女は避けようともせず、目を閉じてその場に立ち止まりました。
「カアッ!! 」
当たる直前に目を見開いて一喝、真空刃は彼女が創り出した霊力の壁に掻き消された。
少し遅れて衝撃波も発生し、周囲の草木を揺らしていました。
その様子を見た鎌鼬は璃狐さんとの距離を詰め、形状を変化させた腕を振り下ろした。
『ギッ?! 』
「何よ、それで本気なの? 」
巨大な鎌を指二本であっさり受け止めています、無理やり動かそうとしていますが微動だにしない。
痺れを切らし、もう片方の腕で横薙ぎを行うも―――
ズドンッ……メキメキメキ、ボギィッ!
『ギャァァァァアアアアッ?! 』
「ホラ、どうした。さっきまでの威勢は何処に行ったのかしら? 」
あ、脚で左腕を地面に叩きつけ、そのままへし折ったみたいです。
相手の怯えた表情を見て軽く溜め息をつくと指に力を込め始めました。
巨体が持ち上がり、私の方へと向きを変えます。
「時間もないから決着をつけないと……マコト、投げるわよ! 」
「ひゃ、ひゃいッ?! 」
「土壁の札は其処等一帯ね、合わせなさい」
ブワッと投げられた鎌鼬は徐々に近づいてきます。
合わせろって事は……仕掛けた札を起動させろって事ですよね?
ええっと札の数はひぃ、ふぅ、みぃ……十はありませんが私倒れますよコレ。
「ああもうっ! この際ありったけ持っていってください!! 」
両手を前に出すと次々とお札が起動します。
鎌鼬程ではありませんが若干軌道修正は可能……これを行うと確実に気絶しますね。
後の処理はシロとクロに任せましょう。
八つの土壁は一直線に鎌鼬の元へと向かっていき、一つ……また一つと身体にめり込み空へと押し返していきます。視界がぼやけてきましたがもう一踏ん張り、せめて最後まで見届けないとね。
いつの間にか璃狐さんは鎌鼬の真上まで上昇していました。
地上から彼女のいる場所にかけて青白い軌跡が繋がっていますね、言葉のとおり空を蹴って上昇したのでしょう。
「これで……終いよッ!! 」
攻撃態勢の整った彼女は鎌鼬目がけて急降下、その軌跡はまさに雷の様でした。
蒼白い光が相手と接触した瞬間、再び轟音が周囲に鳴り響き渡る。
薄れる意識の中鎌鼬の身体から紫色の煙が出ているのを確認。
どうやら怨珠を砕くことが出来たようですね……後は、二人に任せましょう
※※※
この後すぐにマコトは倒れた。原因は霊力の使い過ぎによる疲労、物の怪との戦闘にて全て出し切ってしまったようだ。璃狐はしばらくの間二尾の状態であったが、神社に戻る頃には一尾に戻り身体も元に戻っていた。同時に強烈な睡魔に襲われその場に倒れる、起きたのは丸一日経過した後で全身筋肉痛に布団から動けず、動けるようになったのはさらに二日後であった。
マコトが覚醒したのは物の怪討伐から一週間後……筋肉痛は無かったが倦怠感が凄まじかったらしい。
その間クロとシロはしっかりと役目を果たしていた。
今回出現した物の怪、鎌鼬の身体は璃狐の一撃によって怨珠ごと消滅……吹き出た瘴気は西の空へと向かっていったがこの事を知る者はいない。
もう今年も終わってしまうのですね、ありがとう2017年。
ど~もKUMAです。
前回の後書きにて一筋縄では~と言いましたが、璃狐の二尾覚醒によって勝っちゃいましたね。
さすがに常時とはいかないので、限定的な状態になります。覚醒の条件は限りなく霊力が無くなっている状態である事、もう一つ……それはまだ秘密という事で。
そしてマコトの霊力の回復方法ですが、信仰される以外にも担当となっている守護地の霊脈から自動供給される仕組みとなっています。しかし一回で全回復してしまうと土地がどんどん瘦せていってしまうので、ジワジワとゆっくり回復……一~二割程度の消費なら丸一日経過でもとどおり、マコトも土地も霊力は全回復となります。
今回乱用してた? ……彼女も成長してるんです。具体的な数字までは言えませんが、もうじき召喚できる式神の格も上がるんじゃないかな? まぁ今回はすっからかんになるまで消費したので、復帰にも時間が掛かりそうですね。
とりあえず今回は此処まで、また次の機会……2018年ですね。そこでお会いしましょう。
来年もチマチマと書いていきますよ~、ありがとうございました!




