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第十八話 秘伝の魔術

 Ⅵの扉の先に待ちかまえていた竪穴は薄暗かった。穴の直径は20メートルほどで、側面から螺旋階段の足場が張り出している。壁に取り付けられた魔法水晶は、誰かが近づいたときだけその足元に光を放つ仕組みらしい。故に階段全体を照らすことはなく、俺たちの周囲の空間だけが暗闇の中に浮かび上がっていた。

 規則正しく積み上げられた石造りの壁と床は、こっちの世界の人間に言っても通じないだろうが『(まさ)しくダンジョン』である。

 『暗視』の魔術で見てみるが、竪穴の深さも大体30メートルほどで平地にたどり着くようだ。その平地がBフロアなのだろう。つまり、1フロアの床から天井までの距離は、8階建てのアマルダの旅籠がすっぽり覆われるぐらいの高さでああり、バレーボールやトランポリンを楽しんでも充分な高さの天井だ。

 この高さに一つ一つのエリアに野球場が入るくらいのスペースが8つも確保されているのだから、無駄にだだっ広い。  


 俺達はネスタの血痕を辿り、薄暗い地下への螺旋階段を降りていた。

 メンバーは15人。結局、行方不明のザリッツとヒュージ、負傷離脱のネスタ以外の全員の受験者が参加することになった。リーダーは全員一致で、ヘルムートに決定した。

 ヘルムートより俺のほうが腕は上かもしれないが、さすがに8歳だしな。

 ヘルムートは受験者全員の特技や性格もひと通り把握していた。職業柄かもしれないが、指揮官としてかなり優秀な男ではないかと思う。


「暗いな」

「階段はまだいいんだ。Bフロアの各エリアはどれも真っ暗だった。幸い、エントランスには松明があって、そいつに明かりを灯して進んだんだ」


 ザリッツ組の案内役、ピーターが先導しながら、螺旋階段をたどる。


「それも、罠か?」

「そうかもしれん。俺たちはBフロアで一匹も魔物(ターゲット)を見つけられなかった。もしかしたら、明かりを点けると寄ってこない魔物だったのかもな」

「そんな奴、どうやって探すんだよ?」

「探知の魔術を使うか、五感を研ぎ澄ますかでしょうね」

「無理だよんなもん!!お前はできんのかよ。ロゼッタ」

「私は専門ではありませんから。賢者ウィズレイの書物にそうあっただけです」

 

 あの厨二……印税生活してやがったのかよ。羨ましい。


「はっ、相変わらずシッタカだけで、役に立たねぇなぁ」

「知らないより知ってたほうがマシでしょう!?」


 仲いいなこいつら。

 前々から気になってたことを訊いてみる。


「お二人は付き合ってるんですか?」

「「付き合ってねぇ(ません)!!」」

 

 そうですか。でも、ニヤニヤがとまりません。


「坊主……いや、タクミ・ファルカといったな」

「坊主で結構ですよ。ヘルムートさん。若輩ですから。で、なんです?」

「俺は小隊指揮の経験までならあるが、魔物狩りは素人だ。気がついたことがあれば言って欲しい」

「助言ですか?」

「そうだ」


 とはいえ、俺もそんなに経験あるわけじゃないからな。

 ()()()()()の魔物相手だと…


「でも、僕もこんな大人数で狩りをしたことはありませんので…」

「ベストを尽くしてくれればいい」

「わかりました」


 うむ、と頷くヘルムートのリーダーっぷりは堂に入っている。実に有能な現場指揮官である。


「ではまず、『黒い鎌のような腕を持つ魔物』に心当たりはないか?」


 さっそく質問されたが、俺の記憶には1つぐらいしか思い出せないな。

 

「うーん、昆虫系なら『魔王蟷螂』(デイモスマンティス)とかですかね?」

「伝説級の怪物ですね。それ一匹で城がひとつ陥落(おと)せます」


 ロゼッタからの冷静なツッコミが入る。

 だって、他に知らんもん。


「……敵の正体はわからんが、お前は勝算ありと考えているのか?」

「ええ、そうですよ」


 そんな俺をヘルムートは呆れた顔をして見ていた。俺が自信満々にこの下層へ降りたのは、敵の正体を知っているからだと勘違いしていたらしい。


「敵の正体を知りたいなら、まずロゼッタさんに聞いたほうがいいでしょう」

「私に?」

「僕はあのジュリア・フライアっていう人のことよく知りませんから。ロゼッタさんはお知り合いなんでしょう?」

「え、ええ………まぁ、親しくはありませんが。何度か仕事を依頼していますので」

「どういう人なんです?」

「『盾の英雄』シオン・アトレイアの直弟子にあたります。現役の冒険者では、ゼフィランサスでも、五本の指に入るほどの実力者でしょうね」

「ああ、あの技は『合気道』の派生だったわけですか…」


 『盾の英雄』シオン・アトライア。第七天子が遺した使徒の一人だ。

 彼女には物理と合気道の技について教えたことがある。もっとも、ケンカに強くなるためではない。咄嗟の時に身を守るために教えたのだ。護身術の基本は、かっこわるくてもいいから誰かに助けを求めることだ。そのことは何度も言い聞かせた。あの可憐な少女が、それを格闘技まで昇華させ、弟子をとる程にまでなっていたというのは驚きだ。しかも、この都市の英雄の一人に数えられているとはな。


 ただ、合気道にあんな技はない。

 柔道には相手の出足払いにさらに出足払いを被せる『燕返』というカウンター技がある。しかし、あれは駆け出したジェイスの足に、大内刈りのように内側から足を引っ掛けていた。大内刈りは身体を密着させて崩さねばならないが、フライアはジェイスの重心が前に移動し、足に体重が乗る寸前のタイミング足をかけ、引き手も釣りても使わずに倒していた。あれは前足が接地する絶妙なタイミングでなければかからないはずだ。

 まぁ、この世界の人間の身体能力は半端ない。筋力、持久力、反射神経、動体視力……どれをとっても地球人はかなわないだろう。まぁ、一般人はそうでもないのだが、それでも魔術で強化されたり、魔道具をつかったりすれば、誰でも容易にオリンピックレベルには達してしまう。


「弓術の試験なのに、なぜ『盾のシオン』の直弟子が監督するんです?」

「……そ、それは……………わかりませんが…」


 さっきは「専門じゃないから知りません」などと堂々と開き直ってた、ロゼッタの語尾がくぐもる。

 もしかしたら彼女には心当たりがあるのかもしれない。

 まぁ、彼女自身に確証がないなら無理に聞き出してもしかたないが。


「エルフなら弓が使えんということも無いだろうさ。彼らは天性の弓使いだ…」


 そういえば、イーヴァイもクオーターエルフだったっけか?

 非常に目のいいやつだったが、視力以外にもエルフの集中力はヒトとは根本的に違うのかもしれない。


「それが何か関係あるのか?」

「あ、いえ。話がそれましたね。要するに、他人を蔑ろにするような人かということです。依頼した仕事の進め方とかで、他人を謀略で陥れたりとかする人ですか?」

「たまに悪ふざけをする人だとは聞きますが、そういう悪い報告や噂は聞きません。計算高い方とも聞きます。キャリアに傷をつけるような真似はしないでしょう」

「なら、その『黒い鎌』は、僕らが頑張れば勝てるレベルの敵だと思います」


 正直、俺はもう確信しているのだが、ヘルムートは懐疑的だった。


「俺たちが勝てると確信してるってことか? ネスタは死ぬところだったんだぞ?」

「死なせない策があったんじゃないですかね?」


 すでに使い魔として使役してる、とかな。

 問題はジュリア・フライアの目的だ。もちろん、俺達を虐めたり殺したりすることが目的とは到底思えない。なにか別の目的があるのだろう。たかが10人そこらの冒険者の採用試験にしては、ものすごく金がかかっている。魔物一匹のコストがどのくらいかはしらないが、どう見ても採算割れではないだろうか…。たぶん、あのババァはギルドから特別な依頼でもあって、こんなことやってるのだと思う。


 そんなことを考えている内にB層の入り口までやってきた。

 扉を開けると、エントランスには暗闇が広がっていた。


「曇りなき心の月をさきたてて、浮世の闇を照らしてぞ行く」  


 ロゼッタが『照明』の呪文を詠唱すると、光の玉が浮かび上がり、飛散する。ソレと同時に上のフロアと全く同じ形、同じ大きさ部屋が朧気に照らしだされる。床にネスタの血痕が続いていた。


「ネスタさん、ここにいませんが、ちゃんと道標になってくれてるんですね」

「「「……………」」」

「血痕は『Ⅳ』の扉からですね?」

「ああ、ヒュージが滑落した場所はあの先だ。かなり、足場が悪い」

 

 今、せっかくいいこと言ったと思ったのにスルーされたよ!

 ちとKYだったか………ま…まぁ、いいけどさ。


「俺達はロープを使って降りた。幸いそこの木箱には、矢の他に、松明やロープ、斧が入っていたからな」


 A層にあったような約1.6メートル四方の立方体を男たち全員でひっくり返し、中を確認する。大量の鉄の矢が散らばった。

 上層のコンテナにはあった食糧や医薬品はなく、その代わりに入っていたものは斧とロープと松明である。

 一人が斧を手にとって訊いた。


「斧は武器として使っていいのか?」

「いいんじゃないんですか?ルールはあくまで『弓以外の武器は持ち込み禁止』です。『使用禁止』ではありません」

「まぁ、どっちでもいいさ。大事なことは合格不合格じゃない。ザリッツとヒュージを連れて帰ることだ」

「それもそうですね」


 以前のように、ありったけの矢を矢筒に詰め込んでヘルムートがピーターに尋ねた。


「防具も欲しいところだな。使えそうなものはないか?」

「ないなぁ…あとは弓矢ばっかりだ」

「ふぅ…こんなことなら甲冑を着込んでくればよかったよ」

「いつもは着てるんですか?」

「ああ…戦場ではな。だが冒険はそんな重装備ではできんだろう?」


 そりゃ、野山やダンジョンを歩きまわるわけだからな。

 アレックが着てた鎧も、鉄ではなく魔獣の甲殻を加工したものだった。


「『大きな鎌のような腕』とあれば軽装備では心もとない。全身甲冑とか贅沢はいわんが、大盾ぐらいあればとおもってな」

「無いなら、作ればいいじゃないですか」

「作るだと?」


 一応、提案してみた。


「このコンテナの蓋、盾に使えませんかね?」


 俺は蓋を外し、空っぽになった木箱に立てかけた。鉄矢を一本拝借し、一歩離れて、それに射掛ける。

 矢は狙いから寸分たがわぬ位置に突き刺さり、それを引き抜くと、厚さ1センチの板に見事な穴が空く。もう一つ穴を明け、それにロープを通して、把手にした。これで木製の盾の完成である。さらに、ロープを細く解して紐をつくり、山ほどある、鉄の矢を編んで簾状のものをつくり、木製の盾に巻きつける。

 

「な、なるほど……」

「あと、これに『強化』の魔術をかければ、大盾の完成です。不格好ですが…」


 と、ロゼッタに視線を投げかけた。しかし。


「……できないわよ?『強化魔術』なんて」

「え?…そうなんですか?」

「私は魔法使いじゃないし、『青き血』なんて高貴な身分でもない。限られた魔術しか訓練してないの。そもそも、ひとつの魔術を覚えるがどれだけ大変だと思ってるの?」


 ロゼッタが呆れたようにいう。「これだから素人は…」と。

 ああ、そうか。もともとロゼッタは戦闘タイプじゃない。

 『照明』にしろ、『治療』にしろ、冒険より実生活に役に立つから覚えたのだろう。

 ……ええい。なんてこった!大誤算だよ。

 そりゃあ、新しい魔術覚えるなんて、プロのピッチャーが新しい変化球を覚えるくらい大変だろうけどさ。

 強化って便利なんだぜ。

 

 さらに、できた盾を手にとって、ヘルムートも唸る。


「……うぅむ、アイデアは悪くないのだが、さっすがに盾としては重すぎる。それに矢を束ねただけでは、強度も心もとない」


 この中で、力持ちであろうヘルムートの評判もよくない。

 

「ま、子供の浅知恵だな」

「む……」


 ジェイスよ。そう言うか、そういうこと言いやがりますか。

 いまのはちょっと頭にきたぞ。


「貸してください。ヘルムートさん」

「ん、おう…」


 俺はヘルムートから盾を受け取り床においた。

 正直、チート臭い術はあまり使いたくないのだが、是非もない。


「いいですか?皆さん、昔のえらい武将が言いました。「一本の矢なら簡単に折れてしまう、だが三本の矢ならどうか?」と…」

「それ鉄だから曲がるだけだぞ?」

「ええい、シャーラップ!!」


 俺は、両膝をついて盾に両手を当てた。

 基本的に、魔術というものは誰でも使える。多少魔力(MP)は使うのだが、ロゼッタのように魔石を使ってスペックを底上げすることもできる。

 魔法が青き血の貴族にしか使えない一方、知識と道具さえあれば誰でもできるのが魔術だ。

 魔術とは、天子が人々のためにつくったものだ。

 天子は世界の(ことわり)にアクセスし、一部を書き換えることができる。つまり、コーディングが可能なのだ。

 もっとも、すでに天子でない俺には新たな魔術を作るなんてチートなことはできないがな。


 ただ、昔作った儀典(プロトコル)のうちいくつかは覚えているんだよ。

 魔力を満たす。編みこんだ鉄、一本一本に魔素を込める。より強く、より軽く、更に魔力の加護も与える。魔素の充溢を感覚で確認し、俺は唱えた。

 

 ――――― 百万一心!! ―――――


 その瞬間、14人に鮮烈なる魔素の輝きと、空気の弾ける音が聞こえたはずだ。

 巻きつけた鉄の簾はより強固に圧縮され、ミシミシと音を立て、木版に密着した。さらに、熱処理を加えて、材質を曲げ、盾の表面に曲面を形成する。


 そう。かつての『俺』が遺した魔術は魔術師ギルドが確認しているものがすべてではない。裏技があるのだよ。裏技が!!

 かくて、不格好な即席の大盾は、一時的とはいえ龍鱗並みの防御力を獲得したのである。

 時間制限有りだが、重量は約4分の1。これなら使えるだろう。

 軽々と持ち上げて見せて、ヘルムートに手渡した。


 その様子を皆、唖然として見ていた。


「はい♪」

「お、おおう……か、軽いな……」

「使えそうですか?」

「…あ、ああ、すうごいな。強度も十分そうだ」


 盾の表面をガンガンと叩いて強度を確認する。

 まぁ、現時点のゼフィランサスの技術力じゃどんなドリルでも穴の空かないレベルだろうさ。

 はっはっはっ!


 ジェイスもロゼッタも顔をひきつらせていた。


「お…おまえ、魔術使えたのか?」

「ええ」

「……そんな…あ、あんな短い呪文で、複合魔術なんて…」


 あ、さすがに魔術に心得のあるロゼッタだけは今の魔術のチートっぷりがわかったか。魔術師ギルドでも魔術は研究されているが、基本的に天子にもたらされた魔術を復元したり、今ある魔術の運用法を研究するにとどまるだけだ。うん、今の呪文たぶん魔術師ギルドにも知ってる奴はいないわ。

 教えてないから。


「い、一体、ど、どこで覚えたんですか?」

「ああ、祖父の蔵に第七天子の書き残した魔術書が残っていたんですよ」


 嘘だがな。


「そっそそそそれっ!!こ、こ、ここ、国宝級じゃないですかっ!!?」

「ちなみに家捜ししてももうありませんよ。祖父が焚き火で燃やしちゃったんで」

「えええええええ!!!!?」


 もちろん、これも嘘である。


「ま、魔術の秘伝書が……灰…に……」

「おーい、ロゼッタさーん」


 うつろな目で天井を仰ぐロゼッタ。


「あ、あなた…じ、じ、自分が…何をやったのかわかって…」


 狼狽しまくる彼女に、さらにびっくりするような提案をしてみる。


「内緒にしててください。そしたら、今の魔術、教えてあげますよ」


 これは、本気ということにしておこうか。

 その方がロゼッタのリアクションが面白い。

次回はボス戦です。

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