騎士団の訓練場
翌朝、俺たちは、王都の外れにある、騎士団の訓練場へと向かった。
「随分と、活気があるな」
ガロが、周囲を見渡しながら言った。
広大な敷地に、幾つもの訓練場が設けられ、多くの騎士や、その候補生たちが、汗を流していた。剣を交える音、号令の声が、絶え間なく響いている。
俺は、その光景に、静かな懐かしさを覚えた。前世で、何百回と、この場所に足を運んだ記憶が、鮮明に蘇る。
「―外部の者は、立ち入り禁止のはずだが」
門番の兵士が、警戒するような視線を向けてきた。
「実力を示せば、入団希望者として、一時的な立ち合いが許可されると聞きました」
俺が、静かに申し出ると、兵士は、しばらく考え込んだ後、頷いた。
「ふむ…規則上は、そうだが……お前たち、腕に覚えは」
「ある程度は」
俺の答えに、兵士は、興味深そうな表情を浮かべた。
「なら、試してみるといい。……ちょうど、今日は、指南役の代理が、立ち合いの相手をしてくれる日だ」
指南役、という言葉に、俺の心臓が、僅かに跳ねた。
「指南役、ですか」
「ああ。……もっとも、正式な指南役の座は、長らく空席のままだがな」
その言葉に、俺は、静かに息を呑んだ。
俺の後任は、まだ、決まっていないのか。
俺たちは、案内されるまま、訓練場の中央へと進んだ。多くの騎士候補生たちが、こちらに興味深そうな視線を向けてくる。
「お前が、立ち合いを希望した冒険者か」
低く、しかし確かな威厳を感じさせる声が、俺たちを出迎えた。
振り返ると、そこに立っていたのは、壮年の騎士――鍛え上げられた体躯と、鋭い眼光を持つ人物だった。
俺は、その顔に、微かな見覚えを感じた。
(―もしや)
「名を、名乗ってもらおうか」
「リドです」
「私は、この訓練場の指導を任されている、副団長のロヴェルだ」
その名を聞いた瞬間、俺は、確信した。
かつて、俺自身の下で、鍛錬に励んでいた、若き騎士の一人。あの頃はまだ、未熟だったロヴェルが、今や、副団長という要職を任されている。
胸の奥に、静かな感慨が込み上げてきた。
「随分と、感慨深そうな顔をするな」
ロヴェルが、怪訝な表情を浮かべた。
「初対面の相手に、そんな顔をされる覚えはないが」
「……失礼しました。噂に聞く、副団長の威風に、少々気圧されただけです」
俺は、慌てて言葉を取り繕った。ロヴェルは、しばらく訝しげな表情を浮かべていたが、やがて、静かに剣を構えた。
「よかろう。まずは、その実力、見せてもらおうか」
俺は、静かに剣を構えた。
かつての教え子と、まさかこのような形で、剣を交えることになるとは。俺は、内心で、静かな運命の巡り合わせを感じながら、目の前の立ち合いに、集中していった。
「―始め!」
号令と共に、ロヴェルが、鋭く踏み込んできた。
その動きには、確かに、俺が教えた技術の土台が、根付いていた。だが同時に、俺の知らない、彼自身が積み重ねてきた、新たな進化も感じられた。
(強くなったな)
俺は、静かな感慨を抱きながら、その一撃を、正確に受け止めた。




