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メッセージ・オン・ザ・ティー~二度見するほど不器用な恋~  作者: 畠山ゆな@姉弟で小説共作✏️


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第一章:四月のルーティンと「謎の看板娘」


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## 新生活、始まりました(心の声:全然実感ない)


 四月というのは、どうしてこうも残酷なのだろう。


 桜は満開で、風は穏やかで、世界は新しさに満ちている。なのに僕の心は、支給されたばかりのスーツの裏地みたいに——ごわごわと、どこかぎこちなかった。


「……まあ、なんとかなるか」


 海沿いの小さな町。人口は多くなく、駅前に信号がふたつ。商店街には昭和の匂いが残っていて、夕方になると猫が電柱の根元で丸くなる。


 そんな町に、僕——神代ハルキ、二十二歳——は配属された。


 会社の寮でも借り上げマンションでもなく、自分で選んだ古いアパートの一室。月六万二千円、風呂トイレ別、壁薄め。「一人暮らしくらい自分らしくやりたい」と意気込んでいた四月一日から、すでに十日が経過していた。


 自炊の戦績:七敗三分。コンビニ弁当との同棲関係は、どうやら長引きそうだった。


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## コンビニのチルド棚と、衝撃の出会い


 その日の夜も、僕はコンビニのチルド棚の前にいた。


 仕事終わり、クタクタな状態で店内に滑り込み、今日の夕食を棚に選んでもらうスタイル。それが新社会人・神代ハルキのリアルな日常だった。


 豚キムチにしようか、それとも親子丼か。


 迷いながら棚を眺めていたとき——視界の端に、何かが引っかかった。


 女性だった。


 チルド棚のさらに奥、飲料コーナーの前に立っている。年頃は僕と同じくらいだろうか。ポニーテールを無造作に結んで、透明感のある横顔はどこか高嶺の花っぽい雰囲気を漂わせていて——


 そこまでは、よくある話だ。


 問題は、彼女の胸元だった。


 白地のTシャツに、でかでかと筆文字で書かれていた。


 **「こんなにも元気なんです」**


「……」


 僕は豚キムチを棚に戻した。


 いや、待ってくれ。それは何の宣言なんだ。こんなにも元気です、ではなく「こんなにも元気なんです」。この「なん」に込められた圧は何なんだ。誰かに元気を疑われたのか。それとも自分に言い聞かせているのか。


 心の中でツッコミを入れながら、結局また同じ棚の前に戻ってきてしまった。


 気づいたら彼女はいなくなっていて、レジには打つ音だけが響いていた。


 その夜の夕食は、なぜか豚キムチではなくプリンだった。


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## 日常に紛れ込んだ「移動する看板」


 それきりで終われば、ただの記憶だったと思う。


 でも彼女は——また現れた。


 翌週の水曜日、駅前のスーパー。野菜コーナーで、もやしと人参を真剣に見比べている彼女の背中に書いてあったのは——


 **「お酒がガソリン」**


 二十二歳(推定)でそれはいいのか。という話ではなく、前回と雰囲気が違いすぎる。あの「こんなにも元気なんです」の人と同一人物なのか? でも顔立ちは確かに同じで、ポニーテールも同じで——


 Tシャツだけが違う。


 まるで毎日違うメッセージを選んで出勤しているみたいだ。


 木曜日の商店街では、**「定時退社希望」**。


 金曜日の踏切待ちでは、**「低速走行中」**。


 いや、低速走行中はわかる。なんか気持ちはわかる。でも服に書く必要はあるのか。


 僕は彼女のことを、心の中で「看板娘」と呼ぶようになっていた。


 町を歩くたびに違うメッセージを発信し続ける、謎の移動看板。そのシュールさがなぜか脳裏に焼きついて離れず、仕事中ですら「今日はどんな文字を着てるんだろう」と思ってしまうようになっていた。


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## 新社会人の日常(主にコンビニと後悔)


 仕事は、順調とは言い難かった。


 会社は小さなシステム開発の会社で、海沿いの町には似つかわしくない地味なビルの三階にある。同期は二人。先輩たちは悪い人ではないが、みんな忙しそうで、質問のタイミングを計るだけで午前が終わる。


 スーツは相変わらずごわごわしていた。


 アパートに帰れば、誰もいない。自炊しようと買ったキャベツが、冷蔵庫の中で時代の終わりを迎えていた。それでも僕は捨てられなくて、毎日「明日こそ」と思いながらコンビニのサンドイッチを食べていた。


 そういう日々の中で、看板娘のTシャツだけが——なんというか、息継ぎみたいな存在になっていた。


 疲れて帰る途中、踏切の前で彼女を見かける。今日の文字を読んで、心の中でひとりでツッコミを入れる。それだけで、少し足が軽くなる気がした。


 僕には発信できない、なにか。


 あの筆文字には、そういうものが詰まっているような気がして——


「……ただの変なTシャツだろ、普通に考えて」


 僕は踏切が上がるのを待ちながら、そう独り言ちた。


 アパートに帰ると、キャベツはまだそこにあった。


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 名前も、素性も、何も知らない。


 ただ、次の看板が読みたくて——気づいたら今日も、同じ道を歩いていた。

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