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日常+  二

 「ここの鍵を・・・こう、こう、っできた。」


 重い灰色のドアが外開きに開く。

 瞬間に、強い風が後ろの階段へと吹き抜けた。

 

  「気持ちいいな、褒めてつかわす。」

 

  「鍵は俺のおかげだからな。」

 

 あいかわらずだな、志摩は。

 思えばコイツとはもう小学校からの付き合いだ。

 もう大体なにを求めているかは想像がつく。


  「わかったわかった、明日は購買のオムそばwithオーロラソース弁当おごるよ。」


 


 ここは4階の屋上。

 右サイド下には生徒に開放している3階屋上がある。

 正面には中庭の緑公園。

 風が涼しげ、中庭も見え、人もいない。


  「いいとこだな。飯にしようぜ。」


 座る場所を探して志摩を呼ぶ。


  「・・・。」


 何も答えない。


  「どうしたんだよ。腹減ったぞ。」


  「・・・いやあちょっとイッチーに言わなきゃならないことがあって。」


 少し悪びれて志摩が言う。

  

  「朝転校生の話したろ、」

 

  「ああ、ええと・・・」 


  「清水しみずかえでさん。それでさっきアタックしに行ったら、」

 

 なんだほんとにアタックしたのか。

 もうコイツの行動力には感動だな。


  「かえでさん、真っ先に『神代さんと話がしたい』って言うんだもん。困っちゃって、」


  「え、それで・・」


  「今ドアの前の階段で待っててもらってる。」


 凍る空気。

 周りに流れていた時が一瞬止まり、風がマイナス100度で瞬間冷凍された。


  「はぁ!?」


  「お、落ち着きたまえ、今からここは君たち二人だけのプライベートな空間だ。存分に楽しんでくれ。あ、明日のオムそばは私がおごろう。」


  「おい、ち、ちょっと待ってくれ!」


 志摩は光速の速さでドアを開け、下の階へと逃げて行った。

 

  「あーあ・・・。」


 その時、入口に人影が見えた。

 少し茶色が入ったショートヘアにすらりとした四肢。

 160前後の身長、大きな瞳、すっきりした小顔。

 可愛い人だな、と思った。

 それと同時にどこか大人の綺麗さをも兼ね備えている感じ。


  「えーと、清水さん?」


  「・・・あの、かえでって呼んでください。」


 ホームルームで紹介されたけど、そこまでまじまじと見ていなかった。

 休み時間も女子に質問ぜめに会ってたからなぁ。 

 ってか、いきなり名前で呼べと。

 なかなか積極的な人だな。


  「じゃあかえでさん話したいことって?」


 彼女は少しうつむき、すぐ何か考えたように顔をあげた。

頬を少し紅潮させ、思い切ったように言葉を紡いだ。

 

  「今はあまり時間がないので、放課後、この学校の特別教室棟の裏で待ってます。」   

 そう言って逃げるようにさっきのドアから去って行った。



      ===


  「それで?どうだった?」


 5時限目の始まる少し前、志摩が呆けた顔で聞いてくる。

 

  「どうだった、じゃねえ!!」


 ニヤついたその横顔に必殺の掌底をお見舞いしてやった。

 数秒その場にうずくまり、また唸りながら頬をおさえ立ち上がった。


  「いてて、・・・それでかえでさんとはうまくいったのか?」


  「うまくいった、ってか放課後にしてと言われた。」


 待ち合わせ場所がこの学校随一の告白にふさわしい場所なのは黙っておく。死んでもだ。

 


  

  「ふーん、少し嬉しそうなのは見逃してやろう。いやそれよりあれを見たまえ。」


 志摩の視線の先には、ひと際輝く女子グループ。

 その中心にはこの学校でもかなりの人気を誇る3組の相川花織あいかわかおりさん。 少し茶色が入ったロングヘアでスタイルもよし、性格もお淑やかな美人さん。

 まあ、そのなんというか彼女たちは下界の俺たちからは霞んで見える高嶺たかねの花だ。

 

  「お前・・・いやなんでもない。」


  「ああ、まだお主はガキであったか。見ろあのこの学校有数の美人たちが戯れる姿をっ!!」


 正直なところ、あのような完璧で美しい人はなぜか好きになれるような気がしない。

 四方を美徳で固めたら、どこからも近づくことができない。俺はそこまで綺麗な人間じゃあないから。

 何だろう、言葉で言えないような感じ。


  「ガキな俺は等身大の幸せで満足さ。」


  

  『キーンコーンカーン』


 5時限目、始まってしまう。

 急いで教室に戻る俺と、振り返った彼女の目があったような気がした。

 全てを見透かすような、澄んだ目だった。

   

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