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走光バタフライ

 目をつむると、あの時の光景がまだ消えずに浮かび上がる。

 もう去年のことなのに。

 

     ===


 うす暗い森の中、一人で彷徨うように歩いていた。

 家族で山を越えた向こうの伯父の家に歩いて行く途中だった。

 気づかないうちにはぐれ、迷ったのか。

 思い出せない。

 もう何時間も歩いている。

 日は出ているが、こうも木が多いとなかなか暗い。

 ・・・近くで草を分けながら、近づいてくる気配。

 振り返ると、いやあの時振り返らなければ良かったのかも知れない。

 闇が視界を覆った。

 体に纏わりつく湿った気配。

 押し寄せる得体も知れないモノの大群のような感じが。

 空気が、気配に押され何十倍にも圧縮され、僕の身体を押しつぶす。

 痛みに耐えかねて、俺は叫んだ。

 だけど、声が出ない。

 そして手のひらには、血。

 暗闇の中でも、それは綺麗な深紅を浮かび上がらせていた。

 逃げ出そうと思っても。

 恐怖が重金属と化し、足を硬直させる。

 視界はすでに紅色に染まる。

 俺は死を覚悟した。


  「―――――!」


 誰かが近くで叫んでいる。

 どこからか手が伸び、自分の左手を掴む。

 恐怖すらも沸騰させる、温かい手だった。

 

    ===

 

 気が付けば、伯父のいる町に着いていて一人で歩いていた。

 手は血で汚れておらず、あの痛みもなかった。

 ただあの手の温もりは残っていた。

 

 伯父の家に着き、その話をするとみんな『狐にでも化かされたか』と笑った。

 俺のことを一番心配していた伯父が、一人だけ深刻な顔をしていた。

 あれは何だったのか、誰に助けられたのか、伯父は答えなかった。

 

 その三日後、家で俺と将棋を指していた時、伯父は倒れた。

 

 昏睡に陥る少し前に伯父は、俺に重箱大の包みをくれた。

 薄情な俺は、現実から目をそむけ、それを押入れの奥し仕舞ったままだ。

 


 そして、365回目の暁が閉じていた俺の眼を灼くように輝いた。




最初から、ちょっと暗くなりすぎたかな感が否めない;

あ、これはプロローグですので本編はもっと明るく静かな話ですよ?

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