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(7)初期精霊

本日二話目

 シゲルが『精霊の宿屋』の仕様を確認していると、探索に出していたリグとシロが戻ってきた。

 一時間くらいは探索するようにと言ってあったのだが、それよりも三十分ほど早い帰還だ。

「あれ? どうしたの? モンスターにでも襲われた?」

 シゲルがそう確認すると、リグとシロはそれを否定するように首を左右に振っている。

 リグの顔を見れば、何となく困ったような顔になっているように見えた。

 

 どういうことか意味が分からずに内心で首を傾げていたシゲルは、それぞれの状態を確認してみた。

 すると、すぐにその原因がわかった。

「ああ、なるほど。そりゃそうだわな」

 わかってみればごく当たり前の理由に、シゲルは納得の声を上げた。

 

 リグとシロの状態を確認する画面のある部分には、『満杯』という表示があったのだ。

 その部分というのは、精霊が標準装備している拡張袋という項目だ。

 そもそも体が小さい精霊たちは、それがないと自然物を持って帰ってくることなど不可能だ。

 探索から帰ってきたリグとシロが手ぶらに見えているのも、採取してきた物は全て拡張袋に入れてきているためである。

 

 シゲルはリグとシロをねぎらったあとで、早速それぞれの拡張袋の中身を確認した。

 すると、ご丁寧にすべての項目の横に『New!』という表示がされていた。

 これは、手に入れてきた物が、『精霊の宿屋』では初めて入手したということを示している。

 そもそも採取自体が初めてのことなので、これは当然の結果といえる。

 

 シゲルはその結果に納得しつつ、リグとシロが集めてきた物を改めて詳しく確認してみた。

 今の拡張袋には、三十種類の物が入るようで、どちらの袋にも異なった物が入っている。

「うーん。リグは植物系が多くて、シロは鉱物系が多いのかな? ……単に偶然って可能性もあるけれど」

 それぞれが拾ってきたものを確認したシゲルは、首をひねりながらそう呟いた。

 全てがそうだというわけではないが、見た感じでは今言ったような感じになっている。

 ただし、たまたまという可能性もあるので、何度か繰り返さないと結論は出ないとシゲルは考えた。

 

 結果を確認したシゲルは、拡張袋から採取物を取り出して、『精霊の宿屋』への登録を行った。

 登録をしてしまうと採取してきた物は無くなってしまうが、これをしておかないと『精霊の宿屋』の環境整備のために使えない。

 何をするにも『精霊の宿屋』の環境を整えなければならないのだから、シゲルは躊躇なく全ての採取物の登録作業を行った。

 そして、登録作業後に設置可能物の確認をしてみると、今まで何も表示されていなかったところに、リグとシロが採取してきた物が一覧で表示された。

「よしよし。これで、芝だけの環境からは脱することができるな」

 一覧に表示された項目を見て、シゲルは満足げにそう言った。

 まだまだ種類としては少ないが、それでもようやく第一歩を進めることができる状態になったと言えるだろう。

 

 

 リグとシロのお陰で設置物を得ることができたシゲルは、早速『精霊の宿屋』の環境を整えることにした。

 実は既に、リグの拾ってきた物を確認したときに、何を置くかを決めておいたのだ。

 まず、画面の表示位置を中央に持ってきたシゲルは、そこにシロがとってきた土(腐葉土含む)を置いた。

 このとき、土はわざと均さずに小山になるように置いておく。

 

 直系三メートルほどの小山ができた後に、リグが取ってきたとある木の枝を設置した。

 すると、画面上に『木の枝が設置されました。精霊力を使って成木にすることができますが、どうしますか?』というメッセージが出て来た。

 そのメッセージを確認したシゲルは、迷うことなく『Yes』を選択する。

 すると、小山の中心にメッセージ通りに、一本の桜の木が生えた。

 精霊石(極小)一つ分の精霊力しか用意してなかったため、かなりの量の精霊力が使われてしまったが、それでもシゲルにとっては満足がいく出来だ。

 

 桜の木ができたところで、全体の決定をすると、続けて新しいメッセージが出て来た。

『初期状態から環境の変化がありました。維持をするためには、契約精霊が必要になります。設定しますか?』

 慌てて『Yes』をタップしたシゲルは、精霊たちの管理画面でラグを管理用精霊に設定し直して、ほかの二体をシゲルの護衛にした。

「環境の維持をするのに精霊が必要になるということは、もっとたくさん契約精霊が必要になるなあ……。どうやったら増やせるんだろう?」

 契約精霊の数は、箱庭世界の大きさによって決まっていて、現在の大きさでは最大五体までしか契約できない。

 

 現在はすでに三体契約しているが、『精霊の宿屋』の維持に一体とシゲルの護衛で一体必ず必要になるので、自由に探索させることができるのは一体しかいないことになる。

 これでは新しい設置物を集めるのが遅くなってしまうが、箱庭世界の仕様上どうしようもない。

 早急に新しい契約精霊を手に入れたいところだが、そもそもどうやれば手に入れることができるか不明なため、これから調べていくしかない。

「まあ、こればっかりは文句を言っても仕方ないか」

 せめてチュートリアルで説明をしてくれればと思わなくもないが、そこまで親切にするつもりはないと言われればそれまでなので、納得するしかなかった。

 それに、文句を言える相手がいるわけではないので、いつまでもそのことを考えてもどうしようもないのである。

 

 

 桜の木を植えて、次は何を設置しようかと考えていたシゲルは、画面上に点滅している項目があることに気が付いた。

 その点滅している場所は、契約精霊についてまとめられている場所だった。

「あれ? さっき見た時は何もなかったはずだけれどな?」

 そう呟きながらもすぐにその項目をタップして、内容を確認してみた。

 すると、ラグたちがそれぞれのランクを上昇させることができることが分かった。

 

 精霊たちは、筋力や精神といった細かいステータスは持っていない。

 ただし、下級精霊や上級精霊といったランクは持っている。

 先ほどまでのラグたちのランクは、初期精霊のCランクだった。

 それをBランクに上昇させることができるようになったのだ。

 ランクを上昇させれば、精霊は出来ることが増えるので、成長させない手はない。

 ランク上昇によるデメリットがあるかどうかは不明だが、今は成長させるメリットが大きいので、三体とも成長させておいた。

 

 さらに、精霊たちはスキルを所持している。

 スキルは、基本的に初めから持っている物を成長させるか、普段からの行動で覚えることができる。

 ラグたちはいまのところ初期探索と初期護衛、そして初期管理のスキルしか持っていない。

 三体とも揃って最初から持っていたことと、基本的な作業のためのスキルであることから、契約精霊だと最初から持っているスキルだと思われる。

 あくまでもシゲルの想像でしかないのだが、勝手に間違いないだろうと判断していた。

 

 それはともかく、初期精霊のCランクからBランクになったことで、ラグたちの活動範囲と時間が増えた。

 これで、さらに遠くの場所の探索や時間を指示することができる。

 契約精霊は、護衛か箱庭世界の管理状態にしているときは、ずっとその状態でいられるが、探索やそれ以外の作業を指示したときには、時間単位で指示をすることになる。

 そのため、作業時間の延長は地味に嬉しいのである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ラグたちや『精霊の宿屋』の状態を確認していたシゲルは、隣の部屋から音が聞こえてきたことに気付いた。

 どうやらフィロメナが自分の部屋から出てきたようだと判断したシゲルは、『精霊の宿屋』を閉じて隣の部屋に向かう。

 勿論、護衛状態にあるリグとシロは、シゲルの後にくっついて来た。

 そして、シゲルが扉を開けると、目の前に少し驚いたような顔をしたフィロメナが、今にもノックしそうな状態で立っていた。

「ああ、すまない。私の作業が終わったから呼ぼうと思ったんだが……邪魔だったか?」

「いいや。こっちも特にすることはなかったからちょうどよかったよ」

 この日は、後で街に向かって冒険者登録をすることは決めていた。

 だからこそシゲルは、追加で精霊を探索に出すことはしていなかったのだ。

 

 シゲルの答えを聞いたフィロメナは、頷いてからさらに続けた。

「そうか。だったらそろそろ準備をして街に向かおうと思うが、どうだ?」

「それは勿論お願いしたいところだけれど……準備って何?」

 魔物が出る森を歩くことになるので、フィロメナは昨日で会ったときのように装備を身にまとわなければならないが、シゲルはそうした装備も持っていない。

 自分が用意しなければならない物が思いつかずに、シゲルは思わずそう確認した。

「むっ……そうか。確かにシゲルはなにも用意する物が無いな。……では少し待っていてくれるか? すぐに用意するから」

「うん。わかったよ。それから、有難う」

 わざわざ自分の為に準備をしてくれるフィロメナに、シゲルは頭を軽く下げつつお礼を言った。

 

 そのシゲルに対して、フィロメナは笑みを浮かべながら首を振った。

「気にするな。先ほどもらった精霊石だけでも十分おつりがくるからな。礼はもう昨日から十分すぎるほどもらった」

 フィロメナがそう言うと、シゲルは曖昧な笑みを浮かべながら頷いた。

 何かあるたびに礼を言いたくなるのはシゲルの癖のようなものなので、もう十分と言われてもつい言ってしまうかもしれないと考えたのである。

 そのシゲルの表情を見て小首を傾げたフィロメナだったが、すぐに準備すると言って、自分の部屋へと向かうのであった。

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