(21)情報共有
学園長から話を聞いたシゲルとフィロメナは、他の三人に話をするべくすぐにアマテラス号に戻る――ことはなかった。
現在アマテラス号は、マリーナたちの情報収集活動のために別の場所へと行ってしまっている。
シゲルとフィロメナがいくら慌てたところで、話のしようがないのだ。
勿論、シゲルとフィロメナの間で軽く話をしていたが、決まったことはまずはマリーナたちの帰りを待とうということだった。
事が事だけに、簡単に学園内で話せるような内容ではないということも関係している。
落ち着いて秘密の会話ができるアマテラス号が戻ってくるまでは、迂闊なことはしないということにしたのだ。
恐らくこの時間には戻って来るだろうという時間に待ち合わせをしたシゲルとフィロメナが戻ると、まだアマテラス号は戻っていなかった。
「――まだ早かったかな?」
「話が予定よりも長くなる場合もあるからな。多少の遅れはあるだろうさ」
現在マリーナたちは、集めてもらった情報の回収に行っている。
ただ、情報を貰って「はい、さようなら」とは行かないのは仕方のないことである。
今後の予定も含めて、ある程度の打ち合わせは必須なのだ。
シゲルとフィロメナがそんなことを話していると、途中でリグが上空を指しながら言った。
「戻ってきたよ」
「うん? ああ…………全く分からないな」
少しの間リグが指す方向を見ていたシゲルだったが、目を凝らして見ても普通の空の光景が広がっているだけで、アマテラス号の姿は全く見つけられなかった。
これはシゲルの目が悪いというわけではなく、アマテラス号が姿を隠して移動しているためである。
アマテラス号を使って情報収集するにあたって、あまり派手に動き回ると組織側に警戒されるのではないかと考えてのことだ。
もっとも、停泊しているアークサンドから動いている時点で何かやっていると教えるようなものだが、第一の目的はどこに向かっているのかを知られなくするためだ。
それによって、情報を集める側の動きを悟られないようにするのである。
ついでに、逆の意味でシゲルたちが動いていると敢えて知らせるという目的もある。
あからさまに目立つ動きをすることによって、敢えて敵が警戒するように仕向けているのだ。
効果があればそれで良し、無かったとしても大勢にはあまり影響を与えない程度としか考えていない。
目視で探すのを諦めたシゲルとフィロメナがその場でしばらく立っていると、目の前から不自然な風のようなものが吹くのを感じた。
その直後、何もなかったはずの場所に、アマテラス号が姿を現した。
外からは初めて見るその光景に、シゲルは内心で関心をしつつ、フィロメナを誘って中へと入るのであった。
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シゲルとフィロメナが艦橋へと向かうと、そこではミカエラ、マリーナ、ラウラの三人が待っていた。
二人が先に戻っているのは初めてのことだったので、既に何か起こったのかと理解しているのか、それぞれ真剣な眼差しを向けている。
そんな三人に、フィロメナが先んじて言った。
「もう察していると思うが、グラノームから重要な話が聞けた。だが、それを話す前に、まずはそっちの報告から聞こうか」
「……二人の表情から察するに、そっちのほうがよさそうね」
フィロメナの言葉に頷いてから、少しだけ間を空けてそう言ってきたのはミカエラだった。
さらに、そのミカエラに続いてマリーナが言った。
「といっても、こちらはあまり報告することはないわ。地の大精霊様の話を裏付けるような情報が集まっているということだけね」
マリーナたちが各国を回って回収できている情報は、グラノームから聞いている話とほとんど同じような内容だけである。
違う方面からの情報が同じということは、それはそれで意味があることなのだが。
又、そうであるからこそ、シゲルたちは多方面から情報収集をするようにしているのだ。
ここで、ミカエラとマリーナに同意する形で頷いていたラウラが付け加えるように言った。
「一つ新しい情報があるとすれば、相手側の動きが少し見えたことでしょうか」
その情報は、元から例の組織が怪しいと感じていたとある国からもたらされたものだ。
その国では怪しい組織があるということまでを掴んでいて、まさか精霊の強制契約に関わっているとは考えていなかったのである。
担当者は、もしそこまで情報を掴んでいれば、もっと踏み込んで捜査をしたのにと悔しがっていた。
「ほう。それは?」
興味深そうな表情になったフィロメナに、ラウラが続けて言った。
「どうやらあちら側も、こちらの情報を集めているようですね。シゲルさんのことに関しては、半信半疑といったところらしいです」
ラウラのその言葉に、フィロメナは少しだけシゲルの顔を見てから苦笑をしていた。
大精霊や特級精霊を常に呼び出しできるシゲルのことを正確にわかっていれば、敵にしようとは誰も考えないはずである。
もしそんなものがいたとすれば、この世界では破滅願望を持っていると思われても不思議ではない。
そんなシゲルを相手にして対抗しようとしているのは、出回っている情報を信じ切れていないからだ。
大精霊を呼び出せると口にすれば、普通は白い目が憐みの目で見られるだけである。
シゲルの場合は、常に傍にいる勇者のフィロメナやいくつかの国が公表しているからこそ信じられているところがある。
その噂が政治的な思惑で流されているものだと考えられても何の不思議もない。
さらに、シゲルに関する噂が半信半疑だと思われている理由はもう一つある。
「リグたちは姿を見ただけでは特級精霊だとは分からないようにしてあるし、大精霊を呼び出すところは王族の前か闘技場くらいでしか披露していないからな。そう考えるのも仕方ないか」
「必要がなかったから結果そうなっているだけだけれどね」
フィロメナの言葉に、シゲルは苦笑しながらそう応えた。
大きな話の割にはそれを証明するための状況証拠のようなものが少ないために、なかなか事実として浸透しにくいということなのだ。
だからこそ、一般の間でも半信半疑の状態で伝わっているのである。
そのこと自体はたまたまの結果でしかないが、今回の場合においてはそれが良い方向に働いたというわけだ。
勿論、シゲルの噂が半信半疑の状態だからといって、例の組織が油断しているというわけではない。
何しろ勇者パーティが直に動いているのだ。
シゲルのことを除いたとしても、十分に警戒する理由になる。
今のところその動きはないが、下手をすれば活動を自粛して今以上に闇に紛れてしまう可能性もある。
「もう情報も出そろっていると思うわ。そろそろ仕掛けてもいいと思うのだけれど?」
既に船の中でその話をしていたのか、マリーナが代表してそう言ってきた。
そして、その言葉を聞いたフィロメナは、一度シゲルの顔を見てからすぐに向き直って首を左右に振った。
「残念ながらそう簡単にはいかない情報が地の大精霊からもたらされた。決行するかどうかはその話を聞いてから決めよう」
フィロメナがそう言うと、シゲルが頷き残りの三人は続きの言葉を待つような態勢になった。
三人は、既にシゲルとフィロメナが何かを抱えているということは分かっていたので、驚きは少なかった。
ただし、その余裕もフィロメナの説明を聞くまでのことだった。
それほどまでに、魔族との繋がりがあるという情報は予想外の出来事だったのである。
情報の共有は大事です。
といっても話し合いばっかりしていても仕方ないので、そろそろ直接対決に……!
…………行きたいです。




