(25)学園祭の終わり
「へえ。それじゃあ、あの方たちは各年代の代表的な研究生ってことか」
「そういうことだ」
シゲルの言葉に、イヴァーノがいつもの真面目な表情で頷いた。
なんのことかと言えば、先ほどヤコミナが連れてきたミナをはじめとした者たちのことである。
二十年近く続いているヤコミナ研究室だが、その歴史の中にはそれなりの数の研究生を輩出している。
研究生は平均すれば四~五年ほどで修了して研究室を去っていくことを考えれば、それぞれの年代にそういった者たちがいてもおかしくはない。
そして実際に、先ほどのまでいた者たちがそれぞれの年代の代表的な人たちというわけだ。
とにかく、毎年行われる学園祭の最終日には、こうして各代表が集まって顔見世が行われるのである。
「研究室としての結束を高めるため、だっけ?」
「そうだな。……だが私は、それは表向きの建前であって、実は別に理由があるのではないかとにらんだいるがな」
なにやらイヴァーノの確信めいた物言いに、シゲルは首を傾げた。
「別の理由?」
「それがなにかは分からないが、そんなものがあってもおかしくはないと思わないか? それに、そっちのほうが面白いだろう?」
「それは、確かに」
最後の方は悪戯めいた表情をして言ったイヴァーノに、シゲルは楽しそうな表情になって頷いた。
楽しいかどうかは別にして、それなりに長い間存在しているヤコミナ研究室の修了生たちの結束が固いままなのは、なにか理由があってもおかしくはない。
あくまでもイヴァーノの想像でしかないのだが。
シゲルがそんな話をイヴァーノと一緒にしていると、クリストフが近寄ってきながら言った。
「そんなことよりも、早く片付けてしまおうぜ。どうせこの後で打ち合わせがあるんだから、その時にでも聞けばいいじゃないか」
学園祭は既に来ていたお客も引き始めて、そろそろおしまいという様子になっている。
厳密には終わりの時間まではまだあるのだが、周囲にあるほとんどの屋台は片づけを始めていた。
クリストフの言葉に、シゲルとイヴァーノが一度顔を見合わせてから答えようとしたが、それよりも早くシンディーがそれに反応した。
「片付けはまだよ! もう少しで売り切れるんだから、最後まで頑張るのよ!」
なにやらその目にはお金のマークが浮かんでいそうなシンディーだったが、クリストフは諦めた様子で肩を竦めた。
この状態になっているシンディーになにかを言っても無駄だということは、今までの経験で十分にわかっているのだ。
その様子を笑いながら見ていたイヴァーノは、最後に付け加えるように言った。
「まあ、話し合いの場で聞いても答えてはくれないのだがな」
「そうなの?」
その呟きを拾ったシゲルは、首を傾げながらそう聞いた。
「ああ。前に聞いたことがあるのだが、見事にはぐらかされた」
「なるほど。だからこそ何かあると確信しているのか」
なにもないのであれば、はぐらかすのではなく無いものは無いときっぱり言えばいい。
そうでないということは、なにかあると言っているようなものだ。
勿論、なんの目的も無しにわざとそういう答えを返しているという可能性もあるのだが。
結局、研究室の屋台は、シンディーの粘り勝ちで用意した肉はすべて売り切ることができた。
例年に比べて仕入れた魔物の肉の質が良かったということもあるが、お客の入りが良かったのも影響している。
実は裏の理由として、噂のシゲルの姿を見ようと来ていたお客の数が一定数いたためなのだが、現時点でシゲルも含めて研究室の面々でそれに気付ている者はいない。
とにかく、ここ数年と比べて一番の売り上げをたたき出したヤコミナ研究室の屋台は、無事に閉店を迎えることとなったのである。
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屋台を片づけて研究室へと戻ったシゲルたちは、ミナたち修了生に見守られながら売り上げの計算を始めていた。
ここで、ミナたちが手を出すことはしない。
こうした売り上げの計算をしっかりと身に着ける必要性があることは、皆が分かっているのだ。
もっとも、シゲルを除けば、すでに何度か学園祭を経験しているイヴァーノたちにそれが必要であるかは微妙なところなのだが。
まあ、元研究生だとはいえ一応立場上は部外者ということになるので、手を貸すわけにはいかないという表向きの理由もあったりはする。
共用のテーブルに稼いだお金を広げて計算をし始めるシゲルたちを見ながら、ミナが感心した様子で頷いていた。
「へえ。随分と稼いだんじゃない?」
「そうみたいだね。随分と珍しい魔物でも狩れたのかな?」
ミナの言葉に応じたのは、先ほどシゲルと会話をした優男だった。
優男は、この中で唯一ミナと研究生時代がかぶっていたことがあり、随分と気さくな感じで話をしている。
シゲルがいたお陰で遠い場所での魔物を狩れたことを話しながら、無事に清算は終わった。
シンディーが張り切った甲斐があったのか、実際の売り上げもここ数年では一番のものとなっている。
それでも、シゲルの個人屋台に比べれば少なかったのだが、それは言わないのが花である。
完全に片づけを終えたシゲルたちは、改めて六人の修了生たちと話をすることになった。
といっても、特別な話をするというわけではなく、今の研究室ではどんなことを研究しているのかを修了生たちから聞かれるくらいである。
シゲル以外のメンバーは去年から在籍しているので、質問がシゲルに集中することになったのはある意味で当然だ。
それらの質問を受けながら、シゲルはこうして研究室の結束を深めていくのかと納得していた。
そんな質問タイムが終わったところで、シゲルがふと思い出したようにミナへ聞いた。
「そういえば、初日の時に謎めいたことを言っていましたが、なにか確信でもあるのでしょうか?」
「あら。そんなものはないわよ。単に、私にとっては大事な学園で、大きな騒ぎが起きなければいいかなと思っただけよ」
そう答えたミナは、フフフと笑いながら目を細めた。
その顔を見たシゲルは、隠し事をしているというよりは、事実を言っているように感じていた。
それでも気になることはまた別に出てきたので、シゲルはそれを聞くことにした。
「大きな騒ぎが起こるような可能性でもあるということでしょうか?」
「あら。それは私にも分からないわよ。私は預言者じゃないもの」
微妙にはぐらかされた感じだったが、その顔はこれ以上は聞いてくれるなと言っているように見えた。
とはいえ、場合によっては戦闘になることを言われているので、シゲルとしてもここで引き下がるわけにはいかない。
「その割には随分と確信めいたように言っているように聞こえますが?」
「そうかしら? そんなつもりはなかったのだけれどね」
ミナはそう答えながらわざとらしく大きくため息をついた。
それでもシゲルは、真っ直ぐにミナを見て弾く様子を見せずにいた。
それを確認したミナは、首を左右に振った。
「本当に確信があるわけではないのよ。ただ、あのミランがいる限りは、そういう可能性もあるのかなと思っただけよ」
ミナがそう答えると、研究室にいたほぼ全員から「ああ」という声が漏れてきた。
ミラン研究室がヤコミナ研究室を目の敵にしているのは、どの年代でも同じことなのだ。
それを考えれば、余計な騒動が起こる可能性があると予想するのはそう難しいことではない。
結局、ミナの忠告は、具体的ななにかがあるようではないとわかっただけでもシゲルにとっては十分な収穫だった。
それが本当かどうかは、実際に騒動が起こってみないと分からないのだが。
いずれにしても、なにも心構えがない状態でいるよりはましなはずである。
そんなことを考えていたシゲルは、あとの会話を無難にこなしつつ学園祭の最後の日を終えるのであった。
これにて学園祭話は終わりです。
次は新章スタートになります。




