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(2)祠

 精霊が見つけたという人工物は、人が四、五人も入ればいっぱいになってしまうような大きさの祠……のようなものだった。

 石造りのそれは、明らかに人の加工技術でなければ出来ないような形になっており、それを見て自然にできた洞窟だと主張する者は、まずいないだろう。

 少なくともシゲルは、一目見て人が作った建築物だと感じた。

 そして、シゲルと一緒にその祠を発見したフィロメナはといえば、少し呆然となっていた。

「……まさか、こんなところにもあるとはな」

「うん? てことは、フィロメナはこれが何かわかるの?」

 シゲルには、小さな建物があるということくらいしかわからない。

 それこそ元の世界のように、何かの祈りをささげるような場所だとも見えなくはないが、確信できるようなものは、少なくとも表側には見当たらなかった。

 

 疑問の表情を向けて来たシゲルに、フィロメナは小さく頷いた。

「ああ。間違いなく、古代文明の名残だろうな。同じようなものをいくつも見て来た」

「古代文明……?」

 現在の常識や近代の歴史に関しては、ある程度の話をフィロメナから聞いていたシゲルだったが、古代文明についての話は聞いたことがなかった。

 そう思って首を傾げたシゲルだったが、なぜかフィロメナがジト目を向けて来た。

「魔法を教えるときに話しただろう? 今の魔法技術は、過去の文明のものを復活させたものだと」

「あっ!」

 フィロメナの説明に、シゲルはようやくそのことを思い出した。

 確かにフィロメナは、魔法についての話をしたときにそんな話をしていた。

 そのことをシゲルは、すっかり忘れていたのである。

 

 そっぽを向いて誤魔化しているシゲルにため息をついたフィロメナは、すぐに視線を祠へと向けた。

「まあ、それはいいとして、この大きさの建物であれば、たいしたものはないだろうな」

「というか、あっても朽ち果ててるとかじゃないかな?」

「それもあり得るな」

 シゲルの言葉に、フィロメナも同意するように頷いた。

 

 

 フィロメナは、長い年月人の手が入らずに、今にも朽ち果てそうな木造りの扉を慎重に開けた。

 祠の外観や周囲の様子から見ても、よくぞ今まで残っていたと言われてもおかしくないほどに、木の扉はぼろぼろになっている。

「何かありそう?」

「いや、残念ながら空っぽだ」

 シゲルの問いかけに、フィロメナがそう答えて来た。

 実際、狭い祠の中には、長い年月の間にたまった土ぼこりがかぶっているだけで、それ以外のものはなにもなかった。

 かろうじて、机かテーブルとして使っていたのか、壁の一方に仕切りがついているだけで、その上下には何も置かれていない。

 

 何も残されていない祠に、シゲルは多少がっかりした声を出した。

「なんだ。何かあればよかったのに」

 そう言ったシゲルに、フィロメナがクスリと笑った。

「まあ、そう言うな。この祠だけでも資料的価値としては十分にあるのだぞ? 研究者がここまで来るのは難しいだろうが」

「え? なんで?」

「あのな。すっかり忘れているかもしれないが、ここまで来るのに、どれほど苦労したと思っている? しかも十分に研究するには滞在する日数も多くなる。費用だけでどれだけ莫大なものになるか」

 こんな小さな祠のためにそんな予算は出せるはずがないと続けたフィロメナに、シゲルは納得して頷いた。


 研究者は非戦闘員であることがほとんどだ。

 となれば、当然のように護衛を雇う必要がある。

 その他もろもろの費用のことを考えれば、確かにフィロメナの言う通り、何も残されていない祠の為にわざわざ足を伸ばす研究者はまずいないだろう。

 フィロメナのように、自身に戦闘力があって興味を持っている者くらいしか、こんなところには来ないはずだ。

 そもそも、冒険者以外で、多くの魔物が生息している魔の森に自ら入ろうとする者はいない。

 

 

 祠は小さいので、フィロメナが中を調べている間、シゲルは外観の様子を見ていた。

 といっても、実用的に使っていたのか、華美な装飾があるわけではなく、見るべきところもほとんどなかった。

 勿論、専門家が見れば、簡単に施されている装飾からどのあたりに建てられたのかも分かるのだろうが、シゲルにそんなことが分かるはずもない。

 すぐに見るべきところを見終えたシゲルは、入り口側に回ってフィロメナが出てくるのを待っていた。

 

 フィロメナもさほど見るべきところが無かったのか、すぐに出て来てシゲルと交代となった。

 だが、ここでシゲルが予想もしていなかったことが起こった。

 シゲルと一緒に入って来た三体の精霊が、一直線にとある場所へ向かったのだ。

 流石に精霊の様子がおかしいことに気付いたシゲルは、思わず声をかけた。

「あっ、こら。壁を壊したりしたら駄目だからね!」

 今までの精霊たちの行動を見る限りでは、そんなことをするとは思えなかったが、念のためだ。

 その精霊たちは、シゲルの声が聞こえているのかいないのか、スピードを緩めることなく、一直線に入り口から向かって右側の壁に飛んで行った。

 

 そんな精霊たちの行動を見て、シゲルも首を傾げながら近づいて行った。

「そこに何かあるのかな?」

 シゲルがそう言うと、精霊たちはパッとその場所から離れる。

「んー……? 特に何も……って、あれ?」

 精霊たちが特に気にしていた場所を手で触れてみると、何やら違和感があった。

 それに気付いたシゲルは、こびりついている埃を振り払うように、手でそっと拭ってみた。

 

 すると、壁に触れていた手がとある箇所に行くと、いきなり切手くらいの範囲で壁の一部が光った。

「おわっ!? 何だ、これ? ……こんな大きさの仕掛けなんて、そこにあるとわかっていないと、気付かないだろうなあ、普通は」

 びくっと手を放したシゲルは、光ったままの壁を見ながらそんな感想を漏らした。

 とはいえ、この状況がいつまでも続くかわからないので、慌ててフィロメナを呼ぶことにする。

「フィロメナー! ちょっと来てー!」

 外にいるフィロメナにきちんと聞こえるように、なるべく大きな声を出した。

 

 幸い、シゲルの声はフィロメナに届いたのか、すぐに入り口に姿を見せた。

「何かあったのか? ……って、何だ、それは!?」

 すぐに気付いてもらえるように、光っている壁の一部を指したシゲルに、フィロメナは驚いた表情を向けた。

 フィロメナが室内を調べたときには、そんなものはなかったのだから驚くのも当然だろう。

「いや、何か精霊たちが気にするから、少し拭いてみたらいきなり光った」

「精霊が……? そうか……」

 フィロメナはそう言ったっきり、少し考え込むような顔になる。

 

 それを確認したシゲルは、少し慌ててフィロメナを止めた。

「ちょっと待って、考えるのは後にしよう。いつもまでもこれが点いているとは限らないんだし」

「あ、それは確かにそうだな」

 シゲルの言葉に、フィロメナも慌てた様子で近寄って来た。

「といっても、私もこんなものを見るのは初めてだからな」

 フィロメナはそう言いながら、光っている場所に向かって手を伸ばした。

 

 だが、フィロメナがその場所に手を触れても、何かが起こることはなかった。

「うーむ。ただ光るだけなのか? とりあえず、シゲルがもう一度触れるとどうなるか、やってみるか」

「わかった」

 フィロメナの言葉に頷いたシゲルは、右手の人差し指でその部分を触れてみる。

 すると、フィロメナには何も起こらなかった光が、いきなり赤い色に変化した。

 そして、それと同時に、部屋の中央部分に音を立てて下へ向かう梯子(のようなもの)が姿を現した。

 

 シゲルとフィロメナは、それを見て少しの間口をポカンと開けていた。

「……なかなか先進的な仕組みだけれど、古代文明の遺跡って、全部こんなものがあるのかな?」

 シゲルがそう問いかけると、フィロメナは慌てた様子で首を左右に振った。

「そんなわけがあるか! こんなものを見るのは初めてだ!」

 若干興奮した様子になっているフィロメナを見ながら、シゲルはフーンという相槌を打った。

 古代文明のことを詳しく知らないシゲルにしてみれば、その程度の感想しか持てなかったのだ。

 ただし、当然だが、いきなり梯子が現れたことには驚いている。

 

 そんなシゲルの感想はともかくとして、いきなり現れた梯子を見て、フィロメナが若干興奮状態になっている。

「まあまあ、すぐに梯子が消えるわけでもなさそうだし少し落ち着こうか」

「いや、だけど……!」

 勢いよく振り返ってシゲルを見たフィロメナは、落ち着いたままのその顔を見て、少しばつが悪そうな顔になった。

「……すまない。少し興奮しすぎたようだ」

「いや、別に謝る必要はないよ。新しい物を見つけて気分が上がる気持ちはよくわかるからね」

 シゲルでも専門分野で新しい発見を見つければ、今のフィロメナと同じような反応をするだろう。

 それがわかっているだけに、フィロメナをどうこういうつもりはない。

 それどころか、よくすぐに落ち着いたなと感心しているほどだった。

 

 落ち着きを取り戻したフィロメナを見て、シゲルが確認するように聞いた。

「それで、当然だけれど、この先にも進んでみるんだよね?」

 シゲルもフィロメナほど興奮はしていないが、この先に何があるのかは興味がある。

「そうだな。一応危険が無いことを確認してから、慎重に入ってみようか」

 シゲルの問いかけに、フィロメナは小さく頷きながらそう答えるのであった。

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