(11)予想外の結果
マリーナとラウラが交渉をしている間、残されたシゲルたちはアマテラス号の中で缶詰――というわけではなく、適度に王都の中を散策していた。
船が見張られているのは分かっているが、なにかを言われたとしても適当にあしらうつもりで外に出ていたのだ。
ところが、当初の予想に反して、外に出たシゲルたちに接触してくるような者たちはいなかった。
これにはフィロメナとミカエラも首を傾げていたが、マリーナとラウラの交渉が上手くいっているのだろうと結論付けていた。
その答えは、二人が戻ってきさえすれば、ある程度判明するだろうということもだ。
とにかく、シゲルたちはしばしの間、ヨーデリア王国の王都の様子を楽しむことができていたのである。
肝心のマリーナとラウラは、アマテラス号を出て行ってから三日後には揃って戻ってきた。
それだけの日数がかかったのは、交渉が難航したというわけではなく、それくらいかかるのが普通だからである。
これは前もって予想していたので、不思議に思うようなことではない。
むしろ、予想以上に早く終わったと皆が考えていた。
そして、肝心なその内容といえば、こちらは予想外の結果となった。
「随分とあっさりと許可が下りたわよ」
「わたくしもです」
マリーナ、ラウラの順にそう言うのを聞いて、留守番をしていたシゲルたちはほぼ同時に顔を見合わせていた。
それぞれの顔を見てから、シゲルが代表して口を開いた。
「もしかして、パフォーマンスに付き合わされた?」
王国に入ってすぐのときに、騎士と神官たちがもめていたのは、紛れもない事実である。
ところが、あっさりと話し合いが終わったとなれば、上の方では最初から話がついていたと考えざるを得ない。
フィロメナとミカエラも同じように考えているのか、答えを待つかのようにマリーナとラウラに視線を向けていた。
直接話をしたときの感触はどうだったのかと無言で問いかける三人に、マリーナは首を振りながら答えた。
「残念ながら直接の答えは、もらえなかったわ。ただ、恐らくそうだろうとは思ったけれど」
「わたくしも同じです。一応、国の外交官にも確認を取ったのですが、やはり国と教会の連絡は密で、この件に関わるものが含まれていたかは分からないとのことでした」
マリーナとミカエラの答えに、残りの三人は揃ってため息をついた。
予想とは違った方向で物事がうまく進むと、裏でなにかがあるのではないかと疑いたくなる。
それでも、折角許可を貰えたのだから、遺跡に行かないという選択肢はないのだが。
「それだけ私たちが見つけるものに期待をしているということもあるだろうが……まあ、裏の意図を今考えても仕方あるまい。とりあえず、許可がもらえたことを素直に喜ぼう」
「そうね。変に勘ぐっても仕方ないわね」
フィロメナに続いて、ミカエラも何度か頷きながらそう応じた。
シゲルもそれには同意できたので、ほかに気になったことを聞くことにした。
「ところで、やっぱり王とか教皇とか出てきた?」
シゲルがそう聞くと、マリーナとミカエラが同時に首を振った。
それを見たシゲルは、少しだけ納得した顔になって頷いた。
「なるほどね。それぞれの顔を出さないことによって、失敗しても大丈夫なように保険を掛けたかな?」
「そうだろうな。まあ、こっちも過剰な期待をされていなくて、気楽でいいだろう」
シゲルの言葉を聞いたフィロメナは、そう言いながら少しだけ笑っていた。
変に期待をされたとしても、結果が出ないときは全くでない。
遺跡の探索というのはそういうもので、むしろこれまでが上手くいきすぎていたというのが、フィロメナの考えだった。
それはマリーナやミカエラも同じ考えだったのか、何度か頷いている。
それを見て、シゲルも頷きつつ答えた。
「それもそうか。とりあえず、許可を貰えたんだったら、さっそく遺跡に行くってことでいいのかな?」
「そうなるわね。むしろ、さっさと行けという雰囲気さえ感じたわよ」
マリーナがそう言うと、ラウラが少し考えるような表情になってから付け足した。
「それは、わたしくも同じでした」
ラウラがそう答えると、ほかの面々が同時に顔を見合わせた。
単に、早く事が決まったというだけではなく、厄介払いのように進んだということは、それはそれで別の意図が出て来る。
それが、協会側だけではなく、国側も同じだということは、その予想に現実味が出てくることを示していた。
「…………もしかして、色々利権が絡みすぎて、まとまるはずのものもまとまらなくなってきた?」
代表してシゲルがそう言うと、フィロメナが盛大にため息をついてから頷いた。
「その可能性は高いな。ここで変に争っても、被害が大きくなりすぎると判断したか……」
変に権力争いを繰り広げて、自分自身も立ち直れないくらいに被害を受けては目も当てられない。
そう判断が下されれば、あっさりと身を引くことも十分に考えられる。
ただただ傍観を決め込んで、落ちてくるだけの利益を得るほうがましだと考えれば、そちらを選択する権力者も多いのだ。
逆にいえば、シゲルたちに下手に手を出せば、大やけどでは済まないと判断されたということになる。
喜んでいいのか悲しんでいいのか微妙な空気になってしまった船内で、ミカエラがわざとらしく音を立てて両手を合わせた。
「まあ、いいじゃないの。とりあえず、最初の目標通りに遺跡の調査ができることになったんだから。権力争いなんて、勝手にやらせておけばいいのよ」
「それもそうですね」
ミカエラの同意するように、ラウラがすぐにそう答えた。
シゲルとしてもまったくの同意見だったので、言葉には出さずに頷き返すのであった。
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マリーナとラウラが戻ってきた翌日は、遺跡調査のための事前準備のための時間にあてて、さらにその翌日にはヨーデリア遺跡へと向かった。
徒歩でも一時間程度で着くその遺跡は、アマテラス号だとあっという間に到着した。
ちなみに、空から見たかぎりでは、遺跡自体はさほど大きくは見えなかった。
ただし、フィロメナの説明によれば、本来はもっと大きい町だったらしく、風化や劣化によって現存している場所が狭くなっているということだ。
それでも、今残っている遺跡部分は、きれいに保存されている。
長い間教会が管理することで、状態を保ったまま維持できるノウハウが蓄積されている。
そのお陰で、この数十年は目立った劣化は見られないのである。
いつものように端にアマテラス号を泊めたシゲルたちは、すぐに外に出て遺跡の入口へと向かった。
そこにいる門番に、マリーナとラウラが得た許可証を見せれば、あっさりと遺跡へ入ることができた。
「――門番は、あくまでも人を通すか通さないかを判断するだけで、上の争いは関係がないからな」
というのは、門番を通った後のフィロメナの弁だった。
とにかく、無事に遺跡へと入ったシゲルたちは、その中央へと向かった。
ヨーデリア遺跡がフツ教の聖都とされているのは、中央にとある建物が建っているためである。
その建物は、初期の神殿に見られるような建築様式をしていて、さらにそれがフツ教のものだと考えられているのは、代表的なシンボルがその建物に掲げられているためである。
建物の目立つ位置にあるそのシンボル――五芒星を見たシゲルは、少しだけ感嘆したようにため息をついた。
「なるほど。これだけ立派な建物とシンボルがあれば、聖地だと主張したくなるのもわかるね」
以前いた世界の大聖堂のような立派な建物を前に、シゲルは感心しきりだった。
これまでシゲルが見てきた大精霊が保存している遺跡にあったとしても、なんら違和感のない威容さを誇っている。
シゲルたちが真っ先にその建物に向かったのは、やはりヨーデリア遺跡を象徴するような建物であるからだ。
まずは、それを調べることによって、なにかわかることがあるのではないかと考えたのである。
そのためシゲルたちは、外観の観察は後回しにして、まずは中に入るのであった。
対面の場面を省いたのは、あっさりと決まったからです。
(会うのに時間がかかったのは別)




