(12)余計な同行者
大聖堂の中に入ったシゲルたちは、すぐにその歩みを止めることとなった。
「……おお」
天井を見上げたシゲルは思わずそう声を漏らしたが、ほかの面々も声は出さなかったものの同じような顔で天井を見ている。
何故そんな状態になったかといえば、大聖堂の天井には見事な天井画が描かれていたのだ。
さらに、シゲルたちがその天井画に驚いたのは、はっきりとどんな絵かわかるようにきれいに残っていたからだけではない。
「古代文明の名残……か」
フィロメナが絵を見ながらそう呟いた。
そこに描かれていた絵は、まさしく魔の森の遺跡や水の町で見た絵画と同じような構図で書かれていたのである。
天井画を見てひとしきり感動したシゲルたちは、そのままほかの部屋も見回った。
すると、最初に入った広間だけではなく、ほかにもいくつかの絵画が残されていることがわかった。
大聖堂だけではなく、それらの絵画がヨーデリア遺跡をフツ教の聖地と定められている要因であることは、ほぼ間違いないだろう。
なにしろそれらの絵画には、フツ教のシンボルとされている五芒星がそこかしこに描かれているのだから。
一通り部屋を見回ったシゲルたちは、最初に部屋に入ってそこに置かれているベンチに座りながら話をしていた。
「――どう思う? ……と、聞いてみたものの、改めて確認することではないか」
フィロメナがそう言いながら苦笑をすると、ほかの面々が頷いた。
「そうね。これだけの証拠があれば、まず間違いなく二つ前の文明の名残と言ってもいいでしょうね」
「ここにある絵が、五芒星のものしかないのが気になるけれど、ほぼ間違いないかしら」
ミカエラとマリーナがそう言ったが、シゲルとラウラもそれに反対するつもりはない。
ただし、この遺跡が超古代文明の名残だとするならば、一つだけ大きな問題がある。
「どうすれば、こんなに綺麗な状態で保存できる?」
フィロメナがそう呟いたが、それに答える者はいなかった。
――ただし、シゲル以外には。
フィロメナのその呟きを聞いたシゲルは、驚いたような顔になってミカエラを見た。
そして、ミカエラの顔が同意するような顔になっていることに気付いたシゲルは、今回の護衛についていたラグを見た。
「――ラグ?」
「ええ。シゲル様が考えている通りだと思います」
ラグからその答えを得たシゲルは、間違っていなかったかと内心で胸をなでおろしていた。
そのシゲルとラグのやり取りを聞いたフィロメナが、不思議そうな顔をしながらシゲルを見た。
「なにかあるのか?」
「なにかというか、考えればすぐにわかると思うけれど――」
「シゲル様」
途中まで言ったシゲルだったが、ラグの声に止められた。
どうしたのかと聞こうとしたシゲルだったが、ラグが別の方へ視線を向けたのを追ってそちらを見た。
ラグの視線は大聖堂の入り口を向いていて、さらにそこからは複数人の者たちがちょうど入って来るところだった。
ラグはそのことに気付いたので、シゲルが話をするのを止めたのだ。
ラグは、その話をほかの者に聞かせていいかどうかが分からなかったので、とりあえず止めてから判断を仰ぐつもりだったのだ。
大聖堂に入って来る者たちを見たシゲルは、ラグに感謝しつつ素早くフィロメナたちと視線を交わした。
話の途中だが、ここで一度話を止めるという合図である。
フィロメナたちもそのシゲルの視線を受けて、同意するように頷いた。
入り口からシゲルたちのいるところに向かってきているのは、騎士と神官たちだったのだ。
下手に話を聞かせていい相手ではないと、すぐに判断したのだ。
シゲルたちのあからさまなやり取りに気付いているのかいないのか、それぞれ三人ずついる騎士と神官たちは、何食わぬ顔でシゲルたちに近付いてきた。
勿論、騎士はヨーデリア王国の騎士鎧を、神官はフツ教のローブをその身に纏っている。
その騎士と神官たちを立って出迎えたフィロメナが、代表して問いかけた。
「これは皆さまお揃いで、なにかありましたか?」
聞きようによっては慇懃無礼に聞こえるそのフィロメナの言葉に、騎士の一人が少しだけ眉をひそめてからそれに応じた。
「勇者として名高いフィロメナ殿が、この遺跡に入ったと聞けば、挨拶に伺うのは当然のことでしょう」
「最近では、遺跡の研究者としても名を馳せているようですからな」
騎士に同意するように、神官の一人がさらにそう言ってきた。
フィロメナに話しかけた騎士と神官は、それぞれの代表でもあるようで、ほかの者たちは黙ったまま頷いている。
それをしっかりと確認したフィロメナは、さらに続けて言った。
「そうですか。それで、まだ調査を始めたばかりで、まだなんの成果も得られていないのだが、ほかになにか聞きたいことでもあるのか?」
フィロメナは、騎士と神官になにか言われるよりも先に、敢えてそう言った。
騎士と神官たちが、なにかの成果を期待していることは考えなくてもわかるが、それをわざわざこの段階で教えることはない。
そもそもフィロメナにしても、なにかを掴んでいるらしいシゲルから詳しい話を聞けていないのだ。
そんな状態で、彼らに話せるようなことはなにもない。
そんなことを考えていたフィロメナを引き継ぐように、マリーナが神官たちを見ながら言った。
「私たちは、まだこの大聖堂を軽く見ただけです。それだけでは、まだなんの結論も出せませんよ。出せたとしてもこれまでと同じようなことしか出てこないです」
マリーナの言葉を聞いた神官は、少しだけ言葉に詰まってから頷いた。
「それは確かに、そうでしょうな」
その顔は不満がありそうなものだったが、それでもそれ以上は言えることはない。
フィロメナたちがなにかを隠しているという可能性もあるのだが、遺跡に来てからたった数時間しか経っていないのも事実なのだ。
それでなんらかの結論を出せというのは、無茶だということはその神官もよくわかっている。
では何故、ぞろぞろとフィロメナたちのところに来たかといえば、上から彼女たちの行動を監視するように言われているからである。
騎士たちもそれは同じのようで、来る途中でばたりと会ったときは、お互いに気まずそうな表情になっていた。
それでも上の命令である以上は、なにもせずに帰るという選択肢はなかったのである。
そんな雰囲気を感じ取ってか、ラウラが少し前に進み出てから言った。
「わたくしたちはこれから遺跡全体を見て回る予定ですが、あなたたちはどうされますか?」
「勿論、一緒に同行させてもらおう」
真っ先に騎士代表がそう言うと、神官も慌てて付け加えてきた。
「許可がもらえるなら私たちもそうさせてもらいたい」
それぞれの回答を聞いたフィロメナは、それぞれ顔を見た後で、肩をすくめながら答えた。
「私たちが拒否する理由はなにもないな。そなたたちの好きにすればいいのではないか?」
遺跡を見て回る分には、大した重要な話をするわけではない。
シゲルの話は聞きそびれてしまったが、それはアマテラス号に戻ってから聞けばいいだけである。
どちらにせよ、一日見て回るだけで結論が出せるわけではないので、騎士や神官たちについて回られたとしても問題はない。
シゲルたちは、少しの間にそう判断して、フィロメナが代表してそう答えるのであった。
結局、騎士と神官たちは、シゲルたちが遺跡全体を見て回る間、ずっとついてきていた。
勿論、フィロメナたちは、その間余計なことはなにも話していない。
ただ、超古代文明の名残だと思われるような個所を見つけては、ちょっとした議論をしていただけである。
騎士や神官からすらば、まちがいなくそうだと断言して欲しかったのだろうが、そんなうかつな真似は誰もしていない。
そもそもたった半日でそんな結論を出すほど、フィロメナたちも甘くはないのである。
シゲルの精霊に、ちょっかいをかける神官――というテンプレ展開も考えましたが、止めておきました。




