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(12)遺物の正体

 シゲルたちが部屋を出て行ったあとのミカエラとマリーナは、しばらくの間手持ち無沙汰で連絡を待つことになった。

 連絡自体は残っているラグから貰えると分かっているので安心だが、そのラグはただ黙ってその場で待っている。

 なにやら周囲にいる王国の役人たちに向かって、微妙に牽制をしているようにも見えたが、二人はそれを気にしないようにしていた。

 さすがに直接ちょっかいを出すような真似をすれば抗議もしたりするが、そうでない場合はいくらでも言い逃れされてしまう。

 以前魔族の領域で見かけたように、精霊を直接捉えられてしまうような真似をされれば、シゲルとラグの契約がどうなるかは分からない。

 ただしその場合は、その話を周辺国にするだけで、一致団結して王国を責め立ててくれるはずだ。

 それほどまでに、精霊に危害を加えることは禁忌とされているのだ。

 もっとも、だからこそ、その禁断の果実に手を伸ばす者も出て来るのだが。

 それはともかく、王国の役人たちは、ラグのことを気にはしているようだが、直接手を出すような真似をするようには見えない。

 それもあって、ミカエラとマリーナは、今のところ彼らを咎めるようなことはしていないのだ。

 

 シゲルからラグへの連絡は、一時間以上経ってから入ってきた。

 それでも城とアマテラス号の位置を考えれば、ミカエラとマリーナが想定していたよりも早かった。

 その時間であれば、町中を走っている辻馬車を使ったということはすぐにわかった。

 

 シゲル(リグ)からの連絡を受けて、ラグはミカエラとマリーナに向かってこう言ってきた。

「『これからそっちの遺物を見て、なにか変化がないか見ていて欲しいんだ』だそうです」

 シゲルそっくりの声で繰り返されたその言葉を聞いて、ミカエラとマリーナは思わず吹き出してしまった。

 ラグがこんなことをやったところを見たのは初めてだったので、意外な特技(?)を持っていると思ったのだ。

 もっとも、シゲルの言葉を自分の声ではなく、当人のものに似せて話すところは、ラグらしいとも言えなくはない。

 恐らくラグは、シゲルの前では絶対にやらないことだろうと考えたミカエラとマリーナは、このことは絶対に本人には言わないでおこうと決めていた。

 

 美形なラグの口からシゲルの声が聞こえてくるのは非常に違和感があるのだが、とにかく二人はラグからの指示に従って遺物に近寄った。

 待っている間は手持ち無沙汰だったのだが、遺物の調査も中断していたのである。

 その準備ができたミカエラとマリーナは、ラグを通してシゲルに大丈夫だという旨を伝えた。

「『それじゃあ、これからちょっと実験をするから、なにが起こっても驚かないでね』」

 シゲルの声でラグがそう言うと、ミカエラとマリーナは直接はなにも言わずにただ黙って頷いた。

 

 その様子も中継されたのか、目の前の遺物に変化が訪れるまでに一分もかからなかった。

 最初に気付いたのは、ミカエラだった。

「――あら? なにかここが光って……」

 それとほぼ同時に、遺物から聞こえるはずのない声が聞こえてきた。

『あ、あー。テステス。そっちに声は届いているかな?』

 紛れもないシゲルのその声に、ミカエラとマリーナは揃って驚いていた。

 いや、驚いているのはその二人だけではなく、王国の役人たちも同じだった。

 

 それでもマリーナが驚いていたのは数秒の間で、すぐに復活して問いかけた。

「もしかして、これって通信具だったの!? ……あ、これで通じているのかしら?」

 どう操作していいのか分からないマリーナは、困惑顔でそう付け加えた。

 そもそも目の前の遺物をどう操作すれば、相手に声を届かせるかが分からない。

 思わずシゲルに向かって聞くように話してしまったが、このままで自分の声が届いているのかも分からないのだ。

 

 ちなみに、この世界に遠方に声を届ける魔道具は、きちんと存在している。

 ただし、その魔道具も古代遺跡産の物で、現在の技術では作ることは不可能だ。

 それでも二人が驚いたのは、これほど大きな通信具を見たのは初めてだったからである。

 ついでに、目の前にある遺物は、複数個所からの通信も受け取れる仕様になっているのだが、この時点で二人はそのことには気づいていない。

 今のところ見つかっている通信具は、基本的に一対一での会話しか行うことができない物ばかりなのだ。

 

 マリーナの困惑が分かっているのか、しばらく間を空けてからシゲルの声が再び聞こえてきた。

『声が届いていることはラグを通して聞いたけれど、そっちの声を通すためには、ちょっと操作が必要なんだよね。――うーん。そっちの映像をこっちに映すなんて素敵魔法はないかな?』

 シゲルの言いたいことはすぐに理解したミカエラとマリーナは、すぐにラグに向かって頷いた。

 普通ならそんなに簡単に使える魔法ではないのだが、向こうにはフィロメナがいるので使うことができる。

 ただし、その魔法は映像だけで音声を送ることはできない。

 

 ラグを通してミカエラとマリーナの意図は伝わったのか、すぐに反応があった。

 ただし、シゲルがいる場所からは少し離れていたのか、遠くからフィロメナの慌てた様子の声が聞こえてきた。

『ま、待て。まさか、あの魔法をシゲルに使うのか!?』

「なにを今更恥ずかしがっているのよ。いいからさっさとやりなさい」

 ラグに自分の言葉を届けてもらうように頼みながら、ミカエラが呆れたようにそう返した。

 

 遠距離にいる相手に映像を送る魔法はあるにはあるのだが、基本的に術者が見たものを限定した相手に送ることしかできない。

 それだと今のところフィロメナにしか送ることができないのだが、そこからさらにシゲルの送る方法も存在している。

 ただし、それをするには、最低一度はお互いに額を合わせなければならないという難関(?)が待っているのだ。

 一度合わせてしまえばそれで済むのでいいのだが、やはり異性同士だとフィロメナのようになるのは当然と言える。

 ただし、シゲルとフィロメナの場合は、ミカエラが言ったように、婚約までしているのになにを今更といったところだろう。

 

 マリーナがさらに追い打ちをかけようとしたところで、遺物からさらにフィロメナの声が聞こえてきた。

『――わ、分かった。分かったから、そう急かすな!』

 そのフィロメナの声を聴いただけで、ミカエラとマリーナは状況がすぐに想像できた。

 シゲルがこの魔法のことを知っているとは思えないので、一緒について行ったラウラがさっさと魔法を行使するように言ったのだ。

 まだ映像は届いていないが、その状況が目に浮かぶようで、ミカエラとマリーナは同時に顔を見合わせて肩を竦めるのであった。

 

 

 ラウラに促されてフィロメナの覚悟が決まったのか、そこから先は早かった。

 シゲルにしっかり映像が届いたのか、遺物を通して適確に指示が届き始めたのである。

 そして、その指示を受けたマリーナが、いくつかの手順を行うと、ようやく相手シゲルから声が届いたという報告が来た。

『これで、もう魔法は必要ないかな?』

「そうね。きちんと声が届くことが分かったから大丈夫よ」

 マリーナは、遺物についているとあるボタンを押しながらそう返した。

 相手に自分の声を届かせるためには、そこを押しっぱなしにしておかないと駄目なのだ。

 ちなみに、シゲルもアマテラス号で似たようなことをしているが、そのことはこちら側には伝わっていない。

 

 とにかく、この遺物が通信具だったということが分かっただけでも大収穫だった。

 ただ、疑問がないわけでもない。

 すぐのそのことが思い浮かんだマリーナは、アマテラス号にも伝わるように、ボタンを押しながら言った。

「でも、なぜわざわざこんな大きなものを作ったのかしら?」

 今まで見つかってきた通信具は、基本的に小型の物ばかりである。

 敢えて、目の前にあるような大型な物を作った意図がわからなかったのだ。

 

 遺跡から見つかった魔道具をすべて一緒くたに考えているマリーナの言葉に、アマテラス号からのシゲルの返答は簡単だった。

『それは色々考えられると思うけれど……話が長くなりそうだからまた後で話そうか』

「そう。それならそうしたほうがいいわね」

 この通信具は、話をする際に一々ボタンを押さなければならず、言葉を重ねることもできないため、議論をするのには向かない。

 シゲルの言葉からその意図を読み取ったマリーナは、そう答えてから見えない相手に向かって頷いた。

 

 そして、その後も通信具の調子を確かめるため簡単な会話をして、マリーナは指示されたとおりに通信を終えた。

 どうせ女王からの質問もあるだろうと考えて、シゲルたちはもう一度城へと戻ってくることになったのである。

マリーナの疑問は次話で答えます。

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