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(11)特級精霊と『精霊の宿屋』

 森の遺跡から帰る途中でのこと。

 出会った魔物を相手にリグが戦闘する様子を見て、フィロメナが呆れた様子でシゲルに言った。

「やれやれ。完全に抜かされたんじゃないか?」

「そうかな? ……そうかもね」

 一度は疑問を呈したシゲルだったが、リグたち(・・)の様子を見て、肯定することにした。

 

 フィロメナとシゲルがなんの話をしているかといえば、リグがその配下(?)の精霊とともに魔物を相手に戦っている様子を見ての感想だった。

 特級精霊になったリグは、単に配下を持てるようになったというだけではなく、きちんと戦闘能力も向上していたのだ。

 もっと正確に言えば、配下の精霊に出す指示が適確になったというべきだろうか。

 とにかく、リグとその仲間たち(?)だけで、森の中に出てくる魔物を倒しきっているのだ。

 

 危なげなく魔物を倒していくその様子を見ながら、ミカエラが半ば呆然とした様子で言った。

「これ、どう考えても完全に私の戦いの上位互換よね?」

 精霊を使うという意味では、リグもミカエラも同じ戦闘方法である。

 ただ、ミカエラ一人では、このあたりの魔物を倒しきることはできないので、上位互換という表現も間違いというわけではない。

「まあ、そうなるわね」

 言葉を失っているミカエラに、マリーナがそう言いながら肩をポンと叩いていた。

 

 シゲルたちがそんな会話をしている間に、リグは出てきた魔物を完全に倒してしまった。

「シゲル、倒し終わったよ? 残ったやつはどうするの?」

「あ~……ご苦労様。それはこっちで処理するからいいよ」

 さすがに全部を任せると答える気にはならずに、シゲルはそれだけを返した。

 フィロメナたちは、リグの言葉を聞いて、すでに解体の作業に取り掛かっていた。

 それを見たシゲルは、リグに休んでいるように言いながら、同じように作業に加わるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 特級精霊になった初期精霊三体は、戦闘能力だけが向上したわけではない。

 周辺探索にしても、『精霊の宿屋』の管理にしても、その能力は大幅に向上していた。

 単純に使える手が増えたので当然ともいえるが、その変化はシゲルにとっても劇的に感じるものだった。

 周辺探索の場合は、大陸の端っこまで移動することができ、しかも配下の精霊たちを使ってその周辺を探索できる。

 もはや、大陸内の資源に関しては、場所を気にすることなく採取することができるようになったといえるだろう。

 これまでは、国内での探索がせいぜいだっただけに、まったく次元が違う状態だ。

 

 さらに『精霊の宿屋』の管理に関しても、同じような状況になっている。

 単純にアイテム作成の手が増えたということもあるが、『精霊の宿屋』に広がっている自然に関しても細かいところまで手が伸びるようになったようだ。

 これは目に見えるような変化ではなく、契約精霊が報告してきたことから分かったことだ。

 管理でよくなった点は、それだけにはとどまらず、外敵の対処についても同じことが言える。

 今までは、『精霊の宿屋』に来ていた精霊にも手を借りることがあったが、その数が激減していた。

 もっとも、遊びに来ている精霊の希望で、敢えて頼むこともあるとも言っていたが、シゲルはその辺のさじ加減については契約精霊たちに丸投げしている。

 

 ちなみに、精霊たちが『精霊の宿屋』内で作っているポーションの消耗品の類は、戦闘中に使われている。

 そのため、作った物すべてが売りに出せるというわけではなくなっていた。

 もっとも、すでにポーションの売り上げに頼る必要もないくらいにシゲルの名は広まっているので、敢えて外に出す必要もない。

 ただし、これまで流通させていたということからも、いきなり数を減らすようなことはしていない。

 それらは、これから徐々に数を減らしていく予定になっていた。

 

 

 これだけを並べると、特級精霊に進化させたことが良かったことだらけのように思えるが、残念ながら良くないことも起こっていた。

 それがなにかといえば、外敵の強さに変化が出てきたことだ。

「……うーん。一応今のところは余裕をもって対処出来ているけれど……この先どうなるかはわからないかな?」

「そうですね。どの程度の敵が来るのかわからない以上、あまり楽観視はしない方がよさそうです」

 シゲルの呟きに反応して、ラグがそう言ってきた。

 

 現在『精霊の宿屋』に来ている外敵は、数も質も以前のものとはまったく違っている。

 初期精霊が特級精霊になったからそれらの敵が来るようになったとは限らないのだが、タイミング的にはラグたちの変化を待ってきたようにしか思えない。

「そう考えると作為的にしか思えないんだよなあ……」

 シゲルは、僅かに顔をしかめながらそう言ったが、それに対するラグの答えはなかった。

 ここで変に回答をすると、シゲルの考えが乱れると思ってのことである。

 

 その気遣いが功を奏したのか、シゲルの中である考えが芽生えてきた。

「『精霊の宿屋』は、ある程度の外敵を引き受けるために用意されたもの……なのかな?」

 考えすぎかもしれないが、そう考えるとしっくりとくるのも間違いない。

 シゲルたちが存在している世界に来ている精霊の外敵をある程度『精霊の宿屋』が引き受けることで、本来の(?)世界での外敵処理の負担を減らす目的があるということだ。

 ついでに、精霊たちの避難場所という役目も果たしている。

 

 『精霊の宿屋』がそのために用意されたと考えれば、色々と説明できることもある。

 例えば、契約精霊の成長に合わせて外敵が出て来るようになったりしていることなどだ。

「考えすぎかもしれないけれど……まあ、それならそれでいいか」

 考え込んでいたシゲルだったが、途中であっさりとそう決断をした。

 『精霊の宿屋』が、外敵を処理されるために用意されたものであったとしても、シゲルがこの世界で生きていくために大いに役に立っているのは紛れもない事実である。

 それに対して文句を言うつもりは、シゲルには全くない。

 むしろ、外敵を倒すことでそのお礼になるのであれば、出来る限りは引き受けようとさえ思える。

 

 

 そんなことを考えていたシゲルは、ちらりと隣に立っているラグを見た。

 シゲルからのその視線を受けて、ラグは小さく首を傾げた。

「いいや、なんでもないよ」

 もしかしたらラグであれば答えを持っているかもしれないと考えたのだが、どう見てもそれはなさそうだった。

「もしかしたら大精霊辺りなら知っているかもしれないけれど……どうせ聞いても答えてくれないだろうな」

 シゲルがそう呟くと、ラグは困ったような顔になった。

 

 そのラグに、シゲルは気にしないでと言いつつ、再び考えに耽った。

 シゲルに対しては親し気に接してくれている大精霊たちだが、特に『精霊の宿屋』に関しての情報は、微妙に隠されている気がしている。

 隠しているというよりは、敢えて話す気がないというべきか。

 そもそも、シゲルのことを《導師》と呼んでいる理由も、今のところなにも教えて貰えていない。

 一応、『精霊の宿屋』で精霊たちを成長させているからという答えは貰っているが、それだけではないようにも感じているのだ。

 

 それ以外にも思い当たることは多々あるが、今のところそれらに対する明確な回答は貰えていない。

 シゲルもどうせ答えはもらえないからと諦めているわけではなく、既に何度か問いかけていたりはしている。

 時期やタイミングが悪いのかと考えて、いろいろと質問の仕方も変えているのだが、残念ながら全く進展していないのが現状だった。

 あるいは、『精霊の宿屋』の状況に変化があれば、また貰える回答もあるかも知れないと考えているが、それも微妙なところだ。

 結局、自分自身で探し出して答えを見つけるかも知れないと考えているシゲルなのであった。

リグたち大成長!

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