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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第9章 XXXX

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(10)簡単な交渉

 ユリアナ女王との話し合いを終えたシゲルたちは、翌日には宿を出てホルスタット王国へと向かった。
 目的は、ユリアナに話した通りに写本用の本を遺跡に取りに行く――ためではなく、その前にフィロメナが見つけた魔道具の件について話をするためだ。
 今回は魔道具の作成と販売が主になるので、話し相手は王ではなくフィロメナの知り合いである商人だった。
 フィロメナには勇者をしていた時から懇意にしていた商人がいて、その人物に任せたほうがいいと判断したのである。
 最初から作り上げるのならともかく、すでにある物を作って売るだけなので、そこは既にそうした販路を持っている商人に任せたほうがいいのだ。

 サイミナ商会のアレフは、三代続いている商会の商会長である。
 初代会長は自身が優れた冒険者であり多くの魔道具を見つけてきた。
 それらの魔道具を元手に、商会を立ち上げたのが元になっている。
 初代は商売の腕はさほどではなかったのだが、二代目になって一気にその規模を大きくして、三代目である現在は上から数えたほうが早いほどにまで大きくなっている。
 三代目まで続く商会が一貫して行っていることが、冒険者のサポートであり、フィロメナも勇者として名乗りを上げる前からお世話になっていた商会というわけだ。

 
 サイミナ商会の本店を訪ねたフィロメナとシゲル、そしてラウラは、すぐに奥へと通されていた。
 勇者であるフィロメナに加えて、ホルスタットの王都においては名が知られているシゲル、さらには元王族が一緒となれば普通の対応などできるはずもない。
 そもそもフィロメナたちは、買い手として来たわけではないので、そういう扱いになるのは当然だろう。
 それに、三代目のアレフは、よく話に聞くような親から続いたものを食いつぶすような者ではなく、むしろやり手として評判の商人だ。
 そのアレフの指示を受けている従業員が、そんな基本的なところでミスするはずがないのである。

 規模の大きい商会の会長ということで、フィロメナたちは二十分ほど待たされることになった。
 アポなしでいきなり現れたのだから、それについて文句を言うつもりはない。
 むしろ、よくこの短時間で現れたとさえ考えていた。
 それだけアレフが、フィロメナを重要視しているということの表れだ。
 ちなみに、フィロメナが作った魔道具を卸しているのは、サイミナ商会になる。

 アレフは、フィロメナたちが待つ部屋に入ってくるなり、満面の笑みを浮かべて言った。
「ご無沙汰しております。今回はどういった物をお売りいただけるのでしょうか?」
「久しぶりだな、アレフ。いや実は、今回は魔道具そのものではないんだ」
 フィロメナがそう答えると、アレフはきょとんとした顔になった。
 フィロメナがサイミナ商会に来るときは、大抵が魔道具関連のことなので、今回もそうだと考えていたのである。

「どういうことでしょう?」
 首を傾げているアレフを見ながら、フィロメナは一度頷いてから続けた。
「そうだな。まずは、これを見てもらえるか?」
 フィロメナはそう言いながら、複数枚ある紙を取り出してアレフに渡した。

 アレフは、フィロメナが差し出した紙の束を丁寧に受け取り、フィロメナを見た。
「これは? ……魔道具の設計図でしょうか」
「そうだ。現物はこれになる」
 フィロメナは、アレフの問いに頷きつつ、今度はアイテムボックスからある魔道具を取り出した。
 その魔道具は、以前フィロメナがシゲルたちに見せた魔石に魔力を補填できる道具の改良版である。
 遺跡で見つけた魔道具そのものでないのは、現在でも利用できる素材で作られているからだ。

 簡単にその魔道具についての説明をしたフィロメナに、アレフは鋭い視線を向けた。
 その顔は、その魔道具が確実に商売のタネになると考えているものだった。
 自身の考えを表に出すのは商売人として失格と見られることもがあるが、この場合は逆にその顔を見せることで興味を持っていると示している。

 そんな顔を敢えて見せつけたアレフは、心を落ち着かせるように小さく息を吐きだしてから言った。
「――そうですか。魔石に魔力を補充できる魔道具、ですか」
「ああ。間違いなく売れるはずだろう? だからこそ、現物ではなく設計図を売りたいと考えている。――いくらで買う?」
 フィロメナは、最後にニヤリと笑いながらそう聞いた。
 自分から値段を言わなかったのは、アレフのことを信用していると同時に、気に入らなければ他のところに持っていくということを暗に示している。

 アレフもそのことが分かっているのか、十分に時間をかけて悩む様子を見せてから一つの値段を言った。
 そして、それを聞いたフィロメナは、先ほどの挑発的な(?)笑いとはまた別の笑みを浮かべた。
「さすがアレフだな。それで十分だよ」
「そうでしたか。それはようございました」
 フィロメナの答えに、アレフも商売人らしい笑みを浮かべて頷いた。
 ちなみに、アレフが提示した値段には、設計図そのものの値段と同時に、今後魔道具を作成するにあたって発生する権利――特許権料のようなものもきちんと含まれていた。
 作った魔道具をそのまま売るのではなく、設計図を出すのだから当然といえるかもしれないが、そもそも特許権など存在していない世界では誤魔化される場合も多々ある。
 というよりも、アレフのように最初から込みで言ってくるほうが珍しいと言えるかもしれない。

 とにかく、魔道具の件に関しては、双方が満足いく形で終えた。
 作れば売れることは分かっているので、アレフも本腰を入れて作り始めるだろう。
 魔道具職人の中には、腕はあっても発想があまり良くなくて、ぎりぎりの生活を送っている者も少なくない。
 そうした者たちに頼めば、喜んで作ってくれるはずだ。

 アレフ――というよりも、サイミナ商会はそういた魔道具職人を知っているはずなのだ。
 フィロメナは、そうした者たちのことを見込んでサイミナ商会にこの話を持ってきたのだ。
 国に渡してしまえば、間違いなく利権が絡む問題が起こるので、それを避けたということもある。
 もっとも、サイミナ商会にもそうした利権問題が全くないというわけではないのだが。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 無事にアレフとの交渉を終えたフィロメナたちは、城には寄らずにまっすぐにアマテラス号へと向かった。
 そして、一晩家で休んだあとで、すぐに森の遺跡へと向かう。
 目的はもちろん、事前に了承を貰っていた遺跡にある本を何冊か借りるためである。
 先にアレフのところに行ったのは、いくら交渉をするといってもかかっても数時間で終わるということが分かっていたためだ。
 ラウラが一緒にいる状態で城に寄れば、それどころでは済まないと分かっていたので、先に写本用の本も借り受けることにしたのである。

 ちなみに、魔の森の遺跡はメリヤージュの結界が張ってあるため、空から直接乗り込むことはできない。
 一度、空から街が見ることができるか確認をしてみたのだが、見つけることはできなかった。
 街一つを丸々飲み込む結界が、どれほどの力で支えられているのかはわからないが、相当の力だということがわかる。
 それだけを取ってみても、メリヤージュ及び大精霊の力が強大だということを示している。

 
 きちんと地下通路を使って遺跡に入ったシゲルたちは、また数日をかけて借りる本の選定作業に入った。
 水の町の時と違って数日で済んでいるのは、ある程度絞ってあったからだ。
 水の町で作業をしているときに、似たような本がある場合は省くようにしていたということもある。
 写本は一度ではなく何度も頼めると分かっているので、そこまで厳密に選ばなくてもいいという気にもなっているのだ。
 それでは、水の町の時はなんだったんだということになるのだが、賢明にもそれを口にする者はいなかった。
 男であっても女であっても、趣味(?)に口を出されると機嫌が悪くなるのは、どこの世界でも変わらないのである。
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