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(4)女性陣と

 カインとの話し合いを終えて、用意されている部屋にシゲルが戻ると、そこではフィロメナたちが心配そうな顔をして待っていた。

「あれ? みんな揃ってどうしたの?」

 シゲルが不思議そうな顔でそう問いかけると、フィロメナが気の抜けたような顔になって言った。

「シゲルが変な輩につかまったと聞いたから心配していたのだが、無事だったようだな」

「……ああ、そういうこと」

 正直なところ、シゲルにとってはカインとの話のほうが重要だったので、すっかりそのことは忘れていた。

「でも、部屋で待っていたということは、ちゃんと切り抜けられたことも聞いていたんだよね?」

「勿論です。ですが、カインと話をしているということも聞きました」

 シゲルの問いかけに、今度はラウラが頷きながらそう答えてきた。

 それでも心配そうな表情を崩していない以上は、カインに問題があったのだということがわかる。

 

 そのことに気付いたシゲルは、首をかしげながらさらに問いかけた。

「えーと? だったらその表情は何?」

「カインに助けられたからと言って、余計なことまで探りを入れられていないのかと心配しているのです」

 ラウラの説明を聞いたシゲルは、そこでようやくなるほどと頷いた。

 シゲルには、『精霊の宿屋』のことを筆頭に、まだ王家に話をしていないいくつかの秘密がある。

 フィロメナたちは、シゲルがそれらについて、カインに話していないかを心配していたのだ。

 

 シゲルは、フィロメナたちを安心させるために一度笑顔を見せた。

「大丈夫だよ。話をしたのは遺跡に関することとラウラのことだけだから」

「――わたくしの?」

 シゲルの言葉に、ラウラがそう言って一瞬目を丸くした。

 カインがシゲルに自分の話をしたということが、意外だったのだ。

 

 そのラウラの隙をついて、先にフィロメナが真剣な顔でシゲルに聞いた。

「遺跡については、どんなことを話したんだ?」

「大したことじゃないよ。超古代文明が滅んだ理由について」

 シゲルがそう言うと、フィロメナは力が抜けたように肩を落とした。

 自分が興味のある分野の話ではなかったので、一気に興味を失ったのだ。

 シゲルが考えていた通りに、フィロメナにとって文明の滅亡理由などは、二の次の問題なのだ。

 

 そのためシゲルは、今度はマリーナに視線を向けて言った。

「一応、宗教関連には注意をしておくように言っておいたよ」

「ええ、それでいいわ。こちらから言わなくても気付いているとは思うけれど、いずれは注意をしないと駄目だと思っていたから」

 マリーナは、今のところ遺跡の調査によって、フツ教の教義に反するようなことになるとは考えていなかった。

 ただ、もしかすると一神教であるソルスター教にとっては、認めがたい事実が出てくる可能性があるのではないかと考えていた。

 そのため、ラウラを通すなりして、ちょっとした注意を与えるつもりでいたのだ。

 その役目をシゲルがやったのであれば、わざわざマリーナが動く必要はない。

 

 問題ないという顔をしているマリーナに、シゲルが頷きながら言った。

「まあ、こっちが言わなくても、向こうも気付いてはいたみたいだけれどね」

「それはそうでしょう。宗教に関しては、特に神経をとがらせる問題ですから」

 シゲルの言葉に、ラウラが為政者側の視点として、そう言ってきた。

「なんとも面倒な話よね。遺跡なんてそこにある物なのだから、事実は事実として認めればいいのに」

 ミカエラが呆れたような顔でそう言うと、ラウラは苦笑しながら頷いた。

「全く同感です。ですが、これまで持っていた教えをなかなか捨てられないというのも人の習性ですから。特に宗教に関しては」

 全部が全部そうだと言えない面はあるにしても、そうした事実があることは否定できない。

 これは別にヒューマンに限ったことではなく、ほかの種族でも同じことなのだ。

 

 それぞれの教会がどう動くのかわからない以上、これ以上は話をしても仕方ない。

 シゲルから聞きたかったことも終えたので、この場での話し合いは終わり――となるはずだったのだが、ここでラウラが聞きづらそうな顔になってシゲルを見た。

「あの。カインは、私についてどんなことを……?」

 僅かに不安そうな色を見せているラウラに、シゲルはニンマリとした表情を浮かべた。

「色々と聞いたよ。例えば、昔のラウラは、今と全然違ってお転婆だったとか――」

「あの子は……!」

 さらに続けて言おうとしたシゲルを遮るように、ラウラは頬を赤く染めながらぎゅっと右手を握っていた。

 その顔には、不安が的中したと書いてあった。

 

 今にでも部屋を飛び出して、カインのところに行こうとしているラウラを見て、シゲルはまあまあと抑えながら言った。

「自分としては、知らなかったラウラの一面を聞けて嬉しかったよ?」

「そ、それは……」

 シゲルの言葉にさらに頬を赤くするラウラを見て、外野で話を聞いていた三人はチョロすぎじゃないかと考えるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ホルスタット王国では、王城にて季節ごとに定期的に夜会が開かれている。

 日本であれば、税金を無駄なことに使ってと非難されそうなことだが、この世界においては、王族の権威や富を示すためには必要なことである。

 ついでに、夜会に参加するために各地域から貴族たちが来るので、国内の経済を回すという意味においても必要なことだ。

 地方にいる貴族が夜会に参加するために、道中でお金を落とすというのは、以外に馬鹿にできない効果を生んでいるのだ。

 

 シゲルとラウラの婚約発表は、その夜会で行われることになった。

 季節の夜会は、すべてとはいえないが、大体の国内貴族が揃うので、発表をするのにはもってこいの場所なのである。

 ついでに、過去の王族の婚約発表も季節の夜会で行われてきた実績がある。

 参加している貴族たちも、すでにシゲルが城にきているという話は情報として聞いている。

 そのため、王家からの正式な発表はなかったとしても、今回の夜会で発表があるのではないかという予測を立てているというのが現状であった。

 

 

 パーティ会場に続々と貴族たちが集まり、思い思いに会話を始めているのを、シゲルは会場の貴賓室から見下ろしていた。

 ホルスタット王国内のほとんどの貴族が集まっているということを考えれば、緊張をするなという方が無理である。

 そんなシゲルを見かねてか、少し後ろにいたラウラが近寄ってきて、そっとシゲルの腕を取った。

「緊張されていますか?」

「それはね。さすがにこんなに大勢が参加するパーティなんて出たことがないから」

「そうですか。ですが、そんなに心配する必要はありませんよ。今回は婚約発表ですから、大きな失敗もしようがありませんから」

「そうだといいね」

 ラウラの慰めにも関わらず、気弱な様子を見せているシゲルに、今度はマリーナが話しかけてきた。

「よほどのことがない限り、私たちがきちんとフォローするから、シゲルはシゲルらしく話をしていればいいのよ」

「そうだな。シゲルの場合は、少しぐらい強気に出ても問題ないだろう」

 マリーナに続いて、フィロメナもそう言ってきた。

 

 実は、シゲルの緊張の一因には、大勢の貴族たちの前に立たなければならないということもあるが、それ以外のこともある。

 それが何かと言えば、今こうやってシゲルを慰めてくれているフィロメナたちの姿を直視できないということだ。

 簡単に言えば、着ているドレスが素晴らしすぎて、予想以上にシゲルに影響を与えている。

 はっきり言えば、見とれてしまっていつものように、気楽な会話ができないという、付き合いたての中学生のような心境になっているのである。

 

 フィロメナはともかく、マリーナやラウラは、きちんとそのことに気付いている。

 だからこそ、今のラウラのように、できるだけ近づいて慣れるようにしているのだが、残念ながらその努力(?)は実らなかった。

 シゲルたちが待つ貴賓室に、そろそろ出番だと告げる使者が訪ねてきたのだ。

 時間切れを告げるその訪問に、マリーナとラウラは内心でため息をつきながら、シゲルと一緒に部屋を出るのであった。

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