挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第8章 広がる名前

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

145/174

(5)シゲルの真価

 王家が主催する夜会では、通常は王が最後の登場となる。
 だが、この日の夜会に限って言えば、主役は王ではなくそのあとに登場してきた一人の男性と三人の女性だった。
 特にその男性――シゲルが登場した時には、会場に集まっていた者たちの視線を集めていた。
 王国一の美姫と名高いラウラ姫に加えて、その実力のみならず美しさでも有名だった勇者とその仲間を手に入れた者として、注目されることになるのは当然のことだろう。
 夜会に集まった貴族の中には以前に顔を見ている者もいるが、初対面となる者も多くいる。
 ある方面では、国内で一番噂に上っている者に注目するのは、貴族として当然のことであった。

 それらの視線の中心にいるシゲルは、様々な感情を読み取っていた。
 嫉妬交じりのものやただの興味本位なものまで、逃げ出したくなるような視線をぶつけられていたが、ここで逃げ出すわけにはいかない。
 ラウラを受け入れると決断したのは自分自身なのだから、お披露目の時くらいは我慢する覚悟は持っていた。
 さらにいえば、ラウラからは事前にここで逃げ出すような真似をすれば、後から舐められるということを、遠回しに言われている。
 先のことを考えれば、いまの面倒な状況はいくらでも受け入れる腹積もりになっているのだ。

 内心では腰が引けまくっているシゲルを余所に、アドルフによる紹介が続いていた。
 シゲルにとっては数十分にも感じられる時間だったが、実際には数分も経っていなかった。
「――というわけで、吾は数々の功績をあげているシゲルとわが娘であるラウラの婚約を、ここに正式に認めようと思う」
 アドルフがそう宣言したことにより、シゲルとラウラの婚約は正式に整ったことになる。
 ついでに、フィロメナとマリーナも同時に認められることになったが、そこに注目する者はほとんどいなかった。

 その代わりにと言ってはなんだが、王の言葉が終わるとほぼ同時くらいに、会場の一角から声が上がった。
「異議あり! その者がいかなる力を持っていたとしても、あくまでも市井にある者。姫との婚約が相応しいとは思えませぬ!」
 そう声を上げたのは、貴族の中でもそれなりの地位にいる者だった。
 そして、最初からそうすることが分かっていたかのように、その者を中心にして立っていた貴族たちが同意するような表情で王を見ていた。

 そもそも王家が主催する夜会で、しかも王の決定に反することは、不作法だと眉をしかめられても仕方のない所業である。
 だが、この時ばかりは、周囲の誰もその貴族の不作法を咎める者はいなかった。
 そのことからも、この場に集まっている貴族の多くが、シゲルとラウラの婚約に対して、何らかの思惑を持っているということがわかる。

 それが分かっているからこそ、アドルフはその貴族をその場で咎めるようなことはしなかった。
 というよりも、こうした者が出てくることは、最初から予想していたのだ。
「ほう。吾の意に反するということか」
「そのような大それたことは考えておりませぬ。その者が国にとっての利益になるとは思えないと、そう申しているのです」
「さて。この者がすでにあの特別な船を含めて、多くの大発見をしているということは、すでに皆の耳にも入っていると思うが?」
 ついでに言えば、先ほどの紹介でもアドルフはそのことをきちんと説明していた。

 それでもその貴族は淡々とした様子で、首を左右に振った。
「それでは足りませぬ。そもそも、例の話が事実であるかどうか、まだ正式に認められたわけではないはずです」
 超古代文明については、一応国家として認める方針で動いてはいるが、それはあくまでも前提条件でしかない。
 実際のところは、超古代文明があったと考えて、これから様々な研究を行っていくというのが、現在の動きなのだ。
 シゲルたちからすれば、何を今更という言い分ではあったが、相手の多少のほころびをついて自らの主張を認めさせるのが政治である。
 その貴族に賛同する別の貴族がいる以上は、ただの戯言だと切って捨てるわけにはいかない。

 貴族のその言葉を聞いたアドルフは、少しだけ残念そうな表情を浮かべて首を左右に振った。
 勿論、あえてその表情を皆に見せているのだ。
「そうか、残念だ。吾としては、できればこのことは表に出したくなかったのだが…………」
 アドルフはそう言ってシゲルに視線を向けた。
 事前にこういう流れになる可能性があると伝えられていたシゲルは、アドルフに見られても狼狽えるようなことはしなかった。
 その代わりに、アドルフに小さく頷き返してから、隣に立っているラウラから見て一歩前に出た。

 そして、わずかに騒めいている貴族たちをできるだけ視界に入れないようにしていたシゲルは、そのまま予定通りに三体の精霊に呼び掛けた。
「ラグ、リグ、シロ。出てきていいよ」
 シゲルがそう言うと、それまで姿を隠しながら護衛をしていた初期精霊三体が姿を見せた。
「じょ、上級精霊?」
 そう言ったのは誰であったのか、会場の中の一人であったのは間違いないことだった。
 その言葉を皮切りに、何事かと見守っていた貴族たちが、口々に「上級精霊」と言い始めた。
 その中には、信じられないものを見るように、シゲルと周囲にいるラグたちを確認してくる者もいた。
 一般的に考えて、複数の上級精霊を従えるということは、それほどのことなのだ。

 だが、そんな貴族たちの反応に対して、アドルフは一度首を振って見せた。
「勘違いしているようだが、シゲルの――いや、シゲル殿のことを知るのには、この程度では足りないぞ?」
 わざわざシゲルに「殿」を付けて言い直したアドルフに、貴族たちは何事かと息を呑んだ。
 一国の王であるはずのアドルフが、ただの一介の冒険者に、そんな敬称を付けることなど普通ではありえない。
 それこそ、シゲルのすぐそばにいる勇者であるフィロメナくらいだろう。
 もっとも、両者の関係がそれなりに良好であるがために、そんな機会は数えるほどしかなかったが。

 上級精霊でもまだ足りないという王に向かって驚きを見せる貴族たちを無視するように、アドルフは再びシゲルへと視線を向けた。
 そしてシゲルは、親しい親友に呼び掛けるように、その名前を口にした。
「ディーネ。来てくれるかな?」
「ええ。喜んで」
 シゲルの呼びかけに、すぐにディーネが応じてその場に姿を見せた。
 この場にディーネを呼んだのは、もともと水の大精霊が人々の前に姿を見せやすい性格をしていると知られているためだ。
 そのため、大勢の人の前に姿を見せても大丈夫だろうと判断したのだ。

 そのディーネは、自分が現れたことによって静まり返っている会場を見回してから言った。
「あらあら。しばらく見ないうちに、人の貴族というのも随分と偉そうになったものね」
「水の大精霊、ご冗談は……」
 ディーネの言葉に、アドルフが何とかそう言い返すことができた。
 王としての立場がそうさせたということもあるが、大精霊に対してそう返せただけでも十分に働いたと言えるだろう。
 現に、会場にいた貴族たちは、魔法で動けなくされたかのように、一言も発せずにその場で固まったままだった。

 王という立場にいながら自分に対して頭を下げているアドルフに、ディーネはクスリと笑った。
「あら。勿論、ただの戯れよ? 私の大事な契約者であるシゲルに対して、余計なことさえしなければ、わざわざ動くようなことはしないわ」
 言外にシゲルに手を出せば自分が動くとあっさりと言ってのけたディーネに、アドルフはこれほどまでの関係なのかと思いつつ別のことを言った。
「そうであることを願います」
「ディーネ。あまり脅かすのもよくないと思うよ?」
 恐縮しっぱなしのアドルフを助けるように、ここでシゲルが話に混ざった。
 ディーネが来たことにより貴族たちの視線がそちらに向いて、多少の余裕ができたということもある。

 臆することなく窘めてきたシゲルに、ディーネは先ほどアドルフに向けた物とはまた違った笑顔を浮かべた。
「あら。ごめんなさいね。これほど大勢の人の前に姿を見せたのは久しぶりだから、つい張り切ってしまったわ」
「まあ、自分のためだから嬉しいことは嬉しいけれどね」
 きちんとそうお礼を言ってきたシゲルに、ディーネは目を細めて喜びの表情を浮かべた。
 その顔を見れば、両者の関係がどういったものであるのかは一目瞭然であり、それを疑う者は出てくることはないだろう。
 そう思わせるほどの顔であり、ディーネはそれを狙って敢えてそういう顔をしたのだ。

「私の役目は十分に果たせたようだからそろそろ行くわ。これ以上いても皆が息苦しくなるだけだから。――それじゃあ、シゲル。また何かあったら呼んでね」
「うん。こちらこそ頼むよ」
 シゲルがそう返すとディーネはもう一度笑顔を返してきて、その場から姿を消した。

 そして、意図せずディーネを見送ることになった者たちは、大きくため息をつくことになるのであった。
大勢の人の前に出て、ディーネがはっちゃけています。
シゲルは内心で冷や冷やものですw
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ