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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第6章 遺跡の扱い

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(12)ラウラの本領

 幸いラウラの病(?)は、数日のうちに治った。
 フィロメナたちの準備が終わる前に収まったのは、ビアンナの保証があったとはいえ、安心できることではあった。
 勿論、病が治まったからといって、熱視線などが無くなったわけではない。
 シゲルはその理由を十分に理解していたが、今のところ答えは出していない。
 気持ちの整理は既にできているのだが、もう少しだけ自分自身の気持ちをしっかりと確かめようとしていた。
 フィロメナとマリーナの二人をさっさと受け入れておいて、なぜラウラの時は違うのかと思わなくはないが、この先のことを考えれば、勢いだけではなくきちんと自分の中で整理をしておいた方がいいとシゲルは考えているのである。

 そんなシゲルやラウラの葛藤はともかくとして、遺跡の公表に関する準備は着々と進んでいた。
 その準備が整ったのを待ってから、アマテラス号を使って前もって決めた各国へと向かった。
 ホルスタット王国、ゲルリオン帝国に続いて、三カ国目四カ国目は、特に問題が起こらずにことは進んだ。
 それぞれの国で対応は違っていたが、それでも「検討する」というお役所的答弁はもらうことが出来ていた。

 そして、問題が起こったのは、五カ国目のバクラット王国に入ってからのことだった。
 遺跡を担当している部門で、前史文明についての話をしたところまでは、他の国々と同じだ。
 だが、その後に折角だからと案内された部屋について行ったのがいけなかった。
 部屋には、複数の貴族たちが集まっており、事前に想定されたことを口々に言ってきたのである。
 その貴族たちの言い分を要約すると、次のようなものになる。
「風の都はわが国の資産であり、当然そこから産出されたアマテラス号は、わが国で扱うべき物である」と。

 貴族たちの言い分を一通り聞いたフィロメナは、盛大にため息をついた。
 こういう輩が出てくるのは最初からわかっていたが、まさか風の都のおひざ元であるバクラット王国で大精霊に反するようなことを言われるとは思っていなかったのだ。
「あなた方の言い分はともかくとして、大精霊の言い分はどうなるのでしょうか?」
「そんなものはあなた方の虚言だ!」
 きっぱりとそう言い切った貴族のひとりを見て、逆にシゲルたちはなるほどと納得していた。

 そもそも風の都があるオネイル山脈では、大精霊が発見されたという目撃例はほとんどない。
 大精霊の話は噂で知っていても、まさか本当に自分たちに関係するとは思ってもいないという顔をしている。
 アマテラス号は既に何カ国か訪ねていて、そこでチンピラやら小物がちょっかいを掛けてきたりしているが、大精霊そのものが目撃されたことはない。
 精霊がやったのではという事例はいくつか確認されているが、大精霊そのものが目撃されたという話は伝わっていないのだ。
 それらのことからも、目の前にいるこの貴族たちは、フィロメナたちの虚言だと勝手に決めつけてしまったようだ。

 貴族の立場で威圧をしてくる相手に、シゲルを除いた他のメンバーはどこ吹く風という顔をしていた。
 シゲルはシゲルで、怯えていたとかではなく、本当にこんな貴族っているんだと感心していたのだが。
 それはともかく、貴族に指を指されたフィロメナは、ため息をついてから答えた。
「あなた方がそう思われるのは勝手ですが、だからといってアマテラス号をはいそうですかと渡すわけには行きません」
「やはりそうだ! あれが大精霊の持ち物だというのは、君たちの嘘なんだろう」
 なぜそうなるのかさっぱり理解できないが、他の貴族が満足気な顔でそう言ってきた。

 はっきりいえば、付き合い切れいないというのがシゲルたちの本音だが、この場で騒ぎを起こして逃げ出すわけにもいかない。
 今のところ言葉で攻め立てられているだけなので、こちらから手を出せば、それが不利な状況を招くことになりかねないのだ。
 とはいえ、今目の前にいる者たちは、口で言っても理解してくれるような相手ではないことは、皆が理解していた。
 さてどうしたものかと少しだけ考えたフィロメナは、視線をラウラへと向けた。
 下手に自分がつついて刺激をするよりも、こうした相手になれているラウラに任せたほうが良いと判断したのだ。

 その意図をしっかりと汲み取ったラウラは、一度頷いてから口を開いた。
「ではお伺いしますが、大精霊の持ち物ではないとするあなた方の言葉の根拠はなんでしょうか?」
「ふん! そんなものは簡単だ。 我々は、長いときを掛けてあの遺跡を調査して来た。だが、これまでそんなものは発見したことがない!」
「そうだ。どうせどこかで作ってもらったものを、大精霊だと言い訳をしているだけだろう?」
 あれほどの船を作れる者がいれば、それだけで大騒ぎになってもおかしくはないはずなのだが、貴族たちの間では既にそれが規定事項となっているらしい。
 その貴族の言葉に、ほぼ全員が頷いていた。

 さすがにフィロメナが呆れた顔をしていたが、ラウラは特に顔色を変えずにいた。
「なるほど。では、それほどの技術者はどこにいらっしゃるのですか?」
「何を言っている! それは、あの船を手に入れた其方たちが一番よく知っているだろう。そうだ、この際だから、その技術者を紹介してもらってもいいんだぞ?」
 ラウラは、あつかましくもそんなことを要求してきたその貴族に、視線を向けて言った。
「残念ながらそんな技術を持った者は、わたくしは寡聞にして知りません。それは、彼女たちも同じでしょう。紹介しろと言われてもできませんよ」
 ラウラがそう答えると、貴族たちが喚きだした。

 さすがにうるさすぎてラウラは少し顔をしかめてから続けた。
「出来ないことをやれと言われても、出来ません。ここでいくら騒いでも、それしか答えようがありませんよ」
 粘り強くそう答えるラウラに、それでも貴族たちは収まらなかった。
 さすがにフィロメナたちが、呆れを通り越してそろそろ怒りに変わりそうだったので、それをシゲルが抑えておいた。
 ラウラが、我が儘を言っている子供のような貴族たちを相手にこんな話を繰り返しているのは、きちんとした理由があると考えてのことだ。

 しばらくの間、ラウラは貴族たちの騒ぎを黙って聞いていた。
 十人近い貴族の暴言に近い言葉をじっと聞いているだけでも、かなりの苦痛のはずだが、ラウラは特に気にした様子もなくそれを黙って見ていた。
 傍で見ているシゲルは、それを見ながら流石王族教育を受けただけはあると感心していた。
 ラウラは、こうした相手を前にしても、自分を見失わないように、きっちりと教え込まれているのだ。

 貴族たちの勢いが減じたところで、ラウラはふと思い出したというような顔を作ってから聞いた。
「ところで、貴方たちのその意見は、この国を代表してのものと捉えてよろしいのでしょうか?」
 その問いを聞いて、シゲルは心の中でなるほどと納得していた。
 横を見れば、フィロメナたちもシゲルと似たような顔になっている。
 ラウラはその問いがしたくて、わざと貴族たちが騒ぐように仕向けていたのだと理解できたのだ。

 その問いの意味をきちんと理解できたのか、騒いでいた貴族たちが一瞬黙り込んだ。
 そして、その中のひとりが、わざとらしい笑みを浮かべながらすぐに応じてきた。
「何を仰っているのかわかりませんな。なぜ、貴方たちがそのようなことを気にするのだ?」
「いえ、単に、大精霊の怒りに触れた場合に、被害がどれほどになるのか確認しておきたかったのです。さすがに一国が潰れるような事態になれるのであれば、周辺国に知らせておかなければなりませんから」
 今までと変わらずに、表情を変えずに淡々とそう答えたラウラに、目の前にいる貴族たちは今度こそ完全に黙り込んでしまった。
 これまでの主張を完全に肯定するのであれば、ラウラの言ったことなど虚言だとして無視をすればいい。
 だが、頭のどこかで、もし大精霊が後ろにいるのであれば、という考えが浮かんでしまったのだ。
 あの船に大精霊がついているのであれば、そして本当に大精霊の怒りに触れればどうなるのか、それは御伽話として親から教え込まれているのだ。

 三十秒ほど黙り込んでいた貴族たちだったが、その中のひとりが口を開いた。
「我々は、独自に動いているだけだ。だからこそこの場所まで来てもらったのだ」
 少しだけトーンダウンしたその声に、ラウラは変わらず表情を変えないまま頷いた。
「そうですか。でしたらこの先何が起こっても、貴方たちの責任でことを収めるという事ですね」
 貴族に向かってそう言ったラウラは、今度はフィロメナに視線を向けた。
「そういうことだそうです」
 そこまで言われて視線の意味に気付かないフィロメナではない。
 フッと笑みを浮かべたフィロメナは、「そうか」とだけ言って頷いた。

 ラウラがここで確認というよりも言質を取っておきたかったのは、後ろに国がいるわけではないという言葉だ。
 それならば、フィロメナたちがどれだけ暴れたとしても、貴族たちとシゲルたちだけの騒ぎで済む。
 いくら厄介な話を持ち掛けられたとしても、フィロメナたちは国全体を滅ぼすような事態にはしたくなかったのである。
 ついでにいえば、国ではなくただの貴族が相手であれば、勇者であるフィロメナに同調してくれる者はいくらでもいる。
 あっさりと自分たちが簡単に勝負できる舞台に貴族たちを引きずり落としたラウラに、シゲルたちは内心でさすがだと関心をするのであった。
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