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そういえば、万永さんはどうしているのだろうか?
なぜか彼女のことを喪失していた。彼女は今日、学校に来ているのだろうか?
「万永さんは、どうしてるんでしょうか?」
松前先輩と平先輩を交互に見て提起した。
「万永さんか? 彼女も学校には来ていない。クラスの中ではその話題で持ちきりさ」
松前先輩が答える。……あれ? 確か同じ二年生の平先輩はその話をさほどされなかったと言っていたが……。
「そうか。万永さんって松前くんと同じクラスだったわね」
平先輩は不敵に笑んだ。こんな表情は初めてだ。これが“怪人”の由来であろうか?
「……なんだよ、平」
珍しく松前先輩はたじろぐ。
「いえ、なんでもないわ」
含みのある笑みを浮かべる平先輩。高圧的な御嬢へと変貌。
「万永さん、休んでるんだ」
そりゃあ、そうだよな。程度はどうあれ、死ぬ思いをしたことに変わりはないんだから。
――……うん? 死ぬ思いをしたのか。
階段から突き落とされれば普通死を連想するよな。……犯人は、万永さんに怪我をさせるのではなく、殺そうとしたのだろうか?
昇降口の階段には中間にステージがあったりはしない。だから勢いが殺されるようなことはない。一度転げたら、途中でそれに抗う外的な力が働かない限りそのまま転がり続けるだろう。
――そう考えると、万永さんが無事だったのは奇跡だったんだな。
と同時にありえたかもしれない最悪の事態が脳裏に浮かび、寒気を覚えた。
――いや、無事でもないのか……。
誰かに突き落とされた。これは恐怖だ。万永さんの心にどれほどの影を差し込んだのかは指し計れないが、学校を休むほどの衝撃ではあったのだろう。軽度では少なくともない。
――……本当に崇城さんが犯人なのかな。
朝よりも気分が鬱になった。どうにも彼女が犯人でない根拠がない。それどころか、犯人である根拠の方が出ている。
――直接本人に聞ければな……。
そんな無理なことを夢想しながら、部屋の窓から街を眺めた。
――家に、行ってみようかな?