『理不尽』は爪痕を残しつつ、『モニア』の地を去る。
今週も投稿が少なく、申し訳ない。
どうぞ
「──おめでとうございます。イリスさんは『Bランク』の『昇級試験』を受ける権利を得ました」
後日、しばらくしてから『冒険者組合』に赴いた二人は、受付嬢に開口一番そう言われた。
「『昇級試験』?……『冒険者』になってから、『ゴブリン討伐』以外、ほとんど受けてない」
イリスの言うことも確かなのだが、これにはしっかりとした理由があった。
「『大発生』の対応に参加した『冒険者』は、その間の討伐した魔物を『依頼』と同じように評価しています。なので、イリスさんはかなりの魔物を倒した記録がありますので、そういったことになりました」
「ん、それなら理解。でも、零刀は?」
「レイトさんに関しては……申し訳ないのですが、まだ『仮登録』のままとなってしまっているので……評価にはならないのです」
「……ん?てことは、だ。俺が今回倒した魔物は意味が無い、と?」
「『街を守る』という観点から見れば、大いに意味はあったのですが……『ランク査定』という観点からですと、無意味ですね」
「マジかー、今後の査定に関わってきたりとかは……」
「無いですね。更に追い打ちをかけるようですが……前回の『仮登録』期間が昨日まででしたので『入会試験』からやり直しです」
「マジ、か……」
ズバリと受付嬢が放った言葉に、零刀は思わず地に膝をつく。
「めんどくせー、てか、やっと一段落して俺も稼げると思ってたのによ……」
「一応聞きますが、もう一度『入会試験』を受けますか?発行自体は以前したものがあるので、それを使えばスグに準備できますが……」
「よし、やろう。すぐに終わらせてくるから、『試験官』は用意しておいてくれ」
そう言って手続きを終えると、『冒険者組合』から飛び出した。
──三十分後。
「終わったぞ」
「……早くないですか?確か受けたのは『建築物解体』と『薬草採集』、『魔物の間引き×15』でしたよね?」
「ああ、『薬草採集』はそういうのがわかる『技能』があるし、何より壊したり殺したりは得意だからな。これが『薬草』と『仮証明』だ」
「ん、これからどうする?」
それらを提出し、確認している内にイリスが問いかける。
「あー、とりあえず『選定試験』が終わり次第この街から出ようと思っている」
「ん、やっぱり?」
その言葉にイリスは驚いた様子は無く、ある程度予想していたようだ。
──『大発生』が終わってからというもの、零刀は周囲からワレモノを扱うかの様な空気を感じていた。
『大発生』による襲撃を退け、【神話最悪の邪龍】を討伐し『モニア』の街を守ったのだが、たったひとりでそれを成してしまったことが問題なのだ。
【神話最悪の邪龍】を放っておけば、被害は『モニア』だけに留まらず、それより先の都市……さらにその先の『王都』までにも及んでいたかも知れないからこそ、零刀に感謝するものは少なくは無い。
だが、この時点でその脅威を、圧倒的なそれすらも上回るチカラで倒してしまった。
それすなわち、あの【神話最悪の邪龍】と同等か、それ以上の脅威になり得るのだ。
──そんな時、誰かが言ったのだ。
「もし、アイツが来るのがもっと早ければ、もしアイツが初めから戦っていたのなら、今この場にいないヤツらはまだ一緒に、勝利を分かちあっていたのではないか?」
と。
もちろん、これは『たられば』の話でしかないのだが、悲しみや怒り、憎しみを向ける矛先が生まれてしまった事が問題であった。
「ま、こういう事に関しては『時間』か、それを『塗り潰す』くらいの何かがないと変わることは無いだろ。なら、また来るにしても時間を置くべきだろ」
「ん、ならいいけど……零刀は──」
「お待たせしました。確認と準備が整いましたので呼びに来たのですが……お邪魔でしたか?」
イリスは少し不満げな顔をしつつも「かまわない」と言い言葉を続ける。
「……今回も、わたしが先でいい?」
「いや、お前ふざけんなよ?それ絶対に俺に回ってこねぇ奴だろうが!」
前回のことを思い出して、同じことは起こすまいとする。
「あー、そういや、今受けれなかったらどうなるんだ?」
「『冒険者』は自由ですから、急な移動などによる事情は考慮されています。ですので、権利の獲得より三週間までなら保証されます」
「そうか。なら大丈夫そうだな。──多少強めにやって、お前が受けれなくとも、な」
そう言って、前回も訪れた訓練場に訪れる。
その中心には、どこか見覚えのある盾を持った男の姿があった。
「『Aランク』、【光盾】のタルドだ──って、まさか『試験』ってお前らかよ!?どうして教えてくれなかった!?」
「それは、言ってたら逃げるでしょう?」
「そりゃあ、当たり前だろ!」
「なら、なおさらいうわけないじゃ無いですか」
タルドは抗議するが、それはあっけなく受付嬢に却下されていた。
「まあ、今回は俺が相手だ」
「…………その言葉に、なおさら不安が増したんだが……これが終わったら、あの『ポーション』貰えるか?」
「ああ、構わん。安心して殺られてくれ」
「あれ?なんか意味が違うような──って、ぎゃああああ!!」
──数分後。
「おめでとうございます。レイトさんは『Cランク』となりました。お疲れ様です」
「ふぅ、これでやっと俺も『冒険者』か」
「ん、おめでと……でもやっぱり、アレだとわたしの『昇級試験』は、できそうにない?」
そう言ってイリスが指さすのは、ボロボロの塊──もちろん、『タルドだったモノ』である。
「ホレ、口開けろ……そらァ!」
「ゴホォッ!ゲホッ、殺す気か!」
少し開いた口に瓶ごと『ポーション』を突っ込まれたタルドはえずきながら抗議する。
しかし、それでありながら身体の傷はビデオの逆回しの如く修復されていき、装備はともかく身体は元通りとなった。
「これすげぇな……てか、なんか『トウ』の実のジュースみたいな味がするんだが……」
「ちょっとちげぇんだが……まあ、似たようなもんだ。最近気がついたら自家栽培が始まっていてな」
「アレ高いのに自家栽培してんのかよ……というか、『ポーション』って味を変えるのはまだ研究途中じゃ無かったか……?」
「ん、復活したなら、殺れる?」
「勘弁してくれ!」
ブツブツと呟いているタルドを気にせずに、イリスは言い放った。
さすがに、一日に二度も死にかけるのは嫌──というか一度でも嫌なのだが、かなり強めに拒否する。
「こうなると思って、別の人を呼んでおきました──っと来たようです」
「こんなところに呼び出して、どうした?まさか、愛の告白って感じ──って、なんでこの二人……とタルドが……」
新たに入ってきたのは、大剣を背負った巨漢。
「イリスさんの『昇級試験』を努めさせて頂く『モニア支部組合長』兼『Sランク』【轟剣】『ゼフ』さんです」
「は?オイオイ、聞いてないぞ……ん?『昇級試験』ってことは……俺がこの嬢ちゃんと戦うってのか!?」
「ん、殺ろう」
「では、始めてください」
「いや、ちょっと待──」
「──【魔砲】!」
相手の事情など知ったものかと言わんばかりに、受付嬢の開始合図と共に攻撃を放つ。
「……あ、そういやあの『魔族』ってどうなったんだ?」
「それなのですが、死にました」
「ああ、やっぱりか?俺の予想だと自害だと思うんだが……」
「その通りだと思われます。『魔力阻害』の『魔道具』を使っていたのですが……突然、身体中から『瘴気』を発生させて、そのまま……といった具合です。それにしても、どうして知っていたのですか?」
「ああ、『瘴気喚起』だったか。多分それだろ。ちなみにわかった理由としては『瘴気』を感知できるからだな。街中に突如『瘴気』が発生したら嫌でも気が付く。『不死者』にならないように気をつけろよ?」
「ご心配ありがとうございます。一応『聖水』をぶっかけて【光属性】で浄化してから【火属性】で燃やし尽くしていますので心配無いかと」
「『聖水』か……俺にも効くのかねぇ?てか、やっぱりお前強いだろ?」
「さて、どうでしょう?一応、とある『暗殺者』が『Sランク』の時に一時期師事していましたが……」
「それ絶対に強いだろ。……お前が、俺に特に思うとこが無いのは、だからか?」
「いえ、簡単な話、私達が今生きていられるのは貴方のお陰ですから。例え貴方が『魔王』だとしてもこれは変わりませんよ」
「……そうか」
その言葉を聞いて、零刀はココロが温かくなるのを感じていた。
イリスの『昇級試験』に関しては、ただの『Sランク冒険者』と【魔王】が戦った結果など、言わずともわかるであろう。
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「──さて、この街ともおさらば、か」
「ん、さびしい?」
「……さぁな。まあ、久しぶりの人里ってこともあったからな。多少は感傷に浸るってもんだろ」
そう言いながらも、朝日に照らされた道を歩いて行く。
「──?この差に、集団がいる?」
「……ああ、イヤな予感がするぞ」
そう言いつつも、目の前の角を曲がる。
すると、その先には──
「うぉぉおおお!!待ってくだされぇぇええええ!」
白髪のオッサンが、叫びながら走って来ていた。
──それだけでは無い。
「やはりあなたの強さの秘密は【禁忌】何ですか!?」
「お前のお陰で新しい『ドーピングポーション』が開発できたぜ!名付けて『魔瘴ポーション』だ!」
「それを改造して、毒も作ってみたんだが……食らってみてはくれないだろうか?」
──大通りを塞ぎながら走りよってきた【変態】は、思い思いの言葉を投げかけながら突撃してくる。
「クソっ、逃げるぞイリス!」
「ん、走って逃げる?あの【変態】集団、異様に速いけど……」
「飛び越えるぞ!」
零刀は翼で、イリスは【重力の魔眼】を使って集団の頭上を飛び越える。
「『結界魔道具』、起動せよ!」
「──邪魔だ!」
その言葉とともに、二人の目の前に半透明な壁が現れるが、零刀は『黒剣』を取り出し、黒の残滓を残しながら切り裂く。
それによって、零刀の『本質』に『否定』された壁は【破壊】されていく。
「くっ、まだだ!追え──」
「──【黒耀ノ城壁】」
【変態】どもが追跡を続ける前に、『黒耀石』による壁が阻む。
(……?なんだ?以前より『黒剣』に【破壊】が乗せやすくなっている気がするな。わからないことが増えた今、やはり一度戻ってみるか……)
「これでいいか。ったく、【変態】どもめ」
「ああ!待ってくだされ!せめて……せめてあの『ポーション』の作り方だけでも──」
「知るか。行くぞ、イリス」
「ん」
そんな声を背に受けつつも無視して歩みを進める。
そして、その先に待っていたのは、この街でお世話になっていた受付嬢だった。
「やはり、もう行かれてしまうのですね」
「ま、これ以上俺らがいたとしても好転はしねぇだろうからな」
「……ん、用事?」
「いえ、最後にご挨拶に来ただけですよ。改めまして、今回の『大発生』ではありがとうございました。今はこんな状態ですが、落ち着いた時にまたいらしてください。そのときは歓迎します」
「……そうかい。ま、近くを通ったらまた来るかもな」
「ん、またね」
それを最後に、二人は門をくぐり抜けるのであった。
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「これから、どうするの?」
住民たちから見えなくなった場所で、イリスは零刀に問いかける。
「とりあえず、アイツらなら知ってそうだし……ちょっと言いたいこともあるから……一旦戻るそ」
「どこ、に?」
「『精霊の森』にだ。アイツらなら長生きだし知ってることも多そうだからなっと、これでよし。行くぞ」
零刀が無造作に手を振るうと目の前の『空間』が割れ、人一人入れるような大きさだ
「よし、行くか」
「ん」
そのなかに、二人は飛び込んだのであった。




