『精霊』と『食事』と『決闘』と
遅くなってしまい申し訳ございません。
腹痛、頭痛、吐き気と体調を崩しておりましたもので……
月曜からが一週間の始まりだ!
と言った感じでまだ今週ということでお願いします。(カレンダーは違うだろって?……そういうことにしておいて下さい)
それでは、中途半端な時間ですが、どうぞ。
澄み渡る空、どこまでも広がる空を見上げ、手を伸ばす。
「──俺とは正反対だな」
「……? なんて?」
風音で聞き取れなかったイリスが聞き返すが、零刀は短く「いや」と返すだけで、それに関しては語らない。
しかし、その代わりにと言葉を紡いだ。
「……『精霊の森』に行く時って、毎回落ちなきゃならねぇのか?」
──そう、『精霊の森』に入るために、いつかの如く空から落ちてきていた。
「イリス、着陸準備をしておけ」
「……まだ早くない?」
「長長と落下しているのもつまらんからな。『空間』割って縮めるわ」
「ん、りょうかい」
そうした次の瞬間には、二人は既に地上に降り立っていた。
──減速が弱かったのか、零刀の着地点は衝撃で陥没していたが……
「──整地したばかりなのですから、あまり派手に壊さないでください」
「まだ【死】で上手く勢いを殺せるようにはなってないんだ。……『0』にするのはできるんだが、どうも微調整がな」
そう返しながら声の方へと振り向けば、一房の紫以外は青い髪の女性の姿。
「久しぶり──とは言っても、ひと月ぶりくらいか……ウル」
「ええ。──とは言っても、私は貴方の中から見ていましたけれど」
以前、『精霊の森』で『災禍の鯨』と戦い、ウルを【喰らった】この広場で、この二人は再会したのであった。
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戦いによってあれほど荒れていたのにも関わらず、今その場にそれを思わせる痕跡は何一つ無く、穏やかな空間が広がっている。
──その広場の中心には、『錬成』によって急遽作られた『黒耀石』のテーブルがあり、その上にはこれでもかとマグロをふんだんに使った料理が並べられている。
「こんなにいっぱい……凄いですね」
「ま、お前のことを【喰った】り、その友を殴ったりしてるんだ。これは詫びだと思え」
「──ということ、で? ウルの……無事と、それを成した零刀に、乾杯?」
『『『わぁぁあああああ!!』』』
【土属性王位精霊】、グゥアンドラ──アンがそう宣言すると、周りにいる『精霊』たちが、一斉に歓声を上げる。
「おい、それは本来俺がやるものだろう」
「でも、アナタは、多分やらない……から、ワタシがやった」
「あっ、おい!……ハァ、ったく。自分勝手だな」
言い残して料理へと駆けていく姿を見ながら、そう零す。
「それを貴方が言いますか。せめて事前に連絡のひとつくらいくれれば歓迎の準備をしましたのに……」
「歓迎されるような事はしてねぇよ。あれも言っちまえば俺の『自分勝手』だ。今回のことも、俺が食べたかったからな。そのためならこのくらいは当然だ。で、何か食うか?」
「では、あの煮物を」
「了解だ」
そう言って目の前の空間をデコピンのように指で弾いて、割れた空間に手をいれて机の上にあった大和煮を手に取る。
「ほら」
「ありがとうございます。というか、簡単に空間を割って遠くからものを取ってますけど……どういう原理なんです?──あ、美味しいですね」
「あー、何つったかな……確か『隣接する亜空間』との境界を【破壊】して、その『亜空間』内の『距離』に【死】を与えて殺して距離を縮めてるんだ。だから、途中に物体があるとそれが持つ『隣接する亜空間』にぶつかるから障害物があるとそこで止まるんだよな。それより醤油が手に入ったからな。コメは少ねぇから『寿司』とか『丼』モノとかは無理だったが……確実に料理の幅が広がった」
「この他にも美味しいものがあるんですね。またいつか作ってくれませんか?」
「俺も食いたいから構わないが……材料の問題もあるし暫くかかるぞ?」
「私は百年二百年くらいなら構いません」
「いや、さすがに寿命で死──?俺って寿命あるのか?」
「と言うより、あなたって死ぬのですか?」
「さすがに死ぬだろ。いわく『有限な無限』らしいからな。お前もいつか死ぬだろ?」
「あら、レイさんったら。あなたが生きてる限りは死なないと思いますよ」
「そうだったな。ははははは」
「そうですよ。うふふふふ」
「いや、なんて会話してるんだ!?」
互いに会話を交しながら、和やかに食事を進める中、横からニアのツッコミが入る。
「「……?」」
「いや、二人して『何言ってるんだコイツ』みたいな反応してるけどそれこっちの台詞だからな!?お前ら【喰った】【喰われた】の関係だろう!」
「あら、ニアったら……そんなこと言ってしまって……照れるじゃないですか」
「おいコラ、何言ってんだお前。手なんて出してねぇに決まってるだろ」
「そういう意味じゃねぇよ!?てか、なんでウルは乗り気なんだよ!?」
二人の反応にイライラが溜まってきたのか、ニアが叫ぶ。
「アタシが言ってるのは『捕食者』と『被捕食者』って事だよ!なんでそんなに和やかなんだよ。ああー!もうイライラしてきた!とりあえず一発殴らせろ!」
そう言って、拳を握り炎を上げ──
「おい、食事中だ。後で相手してやるから今はおとなしくしてろ。飯取り上げんぞ」
「ごめんなさい、オトナシクシテマス」
──閉鎖された『精霊の森』では、娯楽が少なく、皆飢えているのだ。
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「──外部の者と【王位精霊】の喧嘩となると外聞か悪いので、一応決闘という形でお願いします。審判は【水属性王位精霊】、『王位精霊』代表、ウェルシュが務めさせて頂きます」
「会場設営はワタシ、グゥアンドラ」
「実況兼結界担当、ウィドフィーネだよ」
「同じく実況中継兼結界担当……イリス」
各々が自分の担当を告げると、会場が沸き立つ。
この範囲にマイクも無しで声が通っているのはひとえに【風属性王位精霊】ウィンのおかげである。
「っしゃあ!やってやる!」
「……なぁ、ここまでする必要あったか?」
拳を打ち合わせているニアとは対照的に、少しうんざりしたような顔で零刀はつぶやく。
──その二人は今、円形の雛壇のような観客席に囲まれながら、その中央で対峙していた。
先程まで食事をしていた広場に【土属性王位精霊】アンが即席でコロシアムを作り出したのだ。
──もう一度言おう。『精霊』達は娯楽に飢えているのだ。
「いやー、どうなるのかな?イリスはどう思う?」
「ん、零刀の、圧勝?」
「どうだろうねぇ。ニアも案外強いよ?」
ウィンとイリスは互いの意見を言いながらも、楽しげに会話している。
「──さて、特にこれといったルールも無いですし、あまり長く時間を取るわけにも行きませんし、始めますか。……両者揃って、開始!」
──審判の宣言に、どこからとも無くゴングの音が響き、決闘が始まった。。
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「──行くぜ!」
先手は案の定、ニアの攻撃だった。
彼女の戦闘スタイルは至って単純。
「らぁぁあああ!」
【炎】を纏っての格闘術である。
手足に纏うそれはかなりの高温で、触れている地面は融解し始めているほどだ。
それが連続して零刀に繰り出される。
(なかなかの高火力だな。『深淵』ならどうにか受けても大丈夫そうだが……それも連続で食らえばどうなるか……ま、それこそ当たれば、だがな)
ここまで成長した零刀でさえも当たればダメージが入るレベルの攻撃が絶え間なく繰り出されるが、それの尽くを交わし続ける。
「くっそ!なんで当たんねぇんだ……?」
「技術はそこそこあるようだが、知能の高い相手との実戦経験が少し足りないな。視線や踏み込み、その他もろもろが素直すぎる」
それは零刀の実体験から来るものであった。
(この世界に来るまでに、ここまで殺伐としていた訳じゃないが、こっちに来てからは【死】と隣合わせだったり、後は『理不尽』みたいに強かったり、ずる賢い奴とも殺りあって来たからな……)
そんなことを思いながらでも攻撃は当たることなく交わし続ける。
「おおー!ニアの攻撃がひとつも当たらない!動きに無駄がなく、滑らかだねー!」
「伊達に、『迷宮』の深層から、生きて帰ってはいない」
ウィンは零刀の身のこなしに驚き、イリスは当然だと返す。
(アイツら二人で、周囲に影響が出ないように【結界】が張ってあるんだったか? ……ふむ、イリスの【空間結界】があって、その内側に【風】の【結界】か。【風】である程度散らされるし、【空間結界】に当たっても威力は減衰してるって訳か。なら、俺も少しはチカラを出しても大丈夫そうだ──な!)
「うぉわっ!?」
そこまで確認した上で、次に繰り出された大振りの拳を躱すと、その腕を脇に挟み、そのままの勢いで後方に投げ飛ばした。
「ニアの攻撃の勢いを利用した見事な投げ技!まさか、【炎】を纏っていない腕を取ってくるとは……」
「もともと、零刀は『ステータス』によるゴリ押しができなかった。だから、こういう戦い方を心得ている」
「あー、そっか。一応『錬成師』だったよね。なのに何をどうしたらあんなバケモノみたいになるかなぁ……ん?なんか、レイくんがこっちを向いて、なになに?『後で覚えとけよ』……ごめんなさい」
「ん、ごめ」
口パクメッセージにすぐさま謝罪した二人を見て「なら最初からしなけりゃいいのに」と思いつつも、ニアに向き直る。
「──さて、そう言えばなんだが……最近新しい『固有技能』を覚えてな?それの検証がしたかったんだが……何せ、いい相手がいなくてな?ちょうどいいとは思わないか?」
「えっと、それってまさか……」
「まあ、お前で試すってことだな。精々死んでくれるなよ?」
そう言って【黒】と【白】、ふた振りの剣を抜くと、ニタリと笑みを浮かべて眼帯をハズしたのであった。
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決闘は異様なほどの盛り上がりを見せていた。
ニアが太陽の如き【炎】を生み出せば、零刀の夜の如き【黒炎】がそれを呑み込む。
ならばと【炎】の奔流を起こし辺りを火の海に沈めるが、それすらも【紫氷】が包み込む。
娯楽に飢えていた者達がこれを見て、熱狂しないハズが無い。
「なんか、ここまで『瘴気』を扱っているのを見ると……いつかの『死瘴邪龍』を思い出すなぁ」
「……ん、『死瘴邪龍』……確かに」
「あれ?イリスって見たことあるの?」
「一週間前くらいに」
「──えっ!?ほんとに?どこで!?」
それを聞いたウィンが、慌てて立ち上がる。
「ん、零刀がボコってた」
「──は?えっと……アレを?にわかに信じがたいんだけど……」
「──真実ですよ」
ウィンが難しい顔をしていると、後ろから現れたウルが声をかけた。
「レイさん越しですが、私も見ていたのでこの事については保証しますよ」
「ウルがいうなら、そうなのかぁーまじかー」
そう呟きながら、少し悔しがる。
「アイツ、強かったけど……なにか知ってる?」
「──簡単に言えば、『光神』リムを打ち負かした存在です」
ウルのその言葉に、先程まで僅かにあった空気の余裕が無くなり張り詰める。
「アレの持つ『瘴気』は、【水】を侵し【風】を腐敗させ、リムの【光】でさえ穢しました。リムは私たち『精霊』を守るために全力で戦い──負けました。その時に『死瘴邪龍』は瀕死の重傷を負っていたため、死んだかと思っていたのですが……まだ生きていたようで、それが再び現れた、という訳ですね」
空気が凍りついたかのような錯覚に陥るほど、ウルの声は冷たく鋭かった。
「──ま、それを彼がが倒しちゃったんだけどね」
「正直にいえば、私たちで倒したかったですが……今更何を言っても変わりません」
その言葉は、この凍りついた空気を溶かすのに十分であった。
と言ったやり取りは会場全体に聞こえており、もちろん会場全体に響いていたのだが、二人は聞いていなかった。
正確に言うのであれば、片方はそちらに耳を傾けておらず、片方は聞いている余裕すら無かったのだ。
「──ッ!『火よ』!」
「クハハッ!その程度かァ!?」
ニアの放った火を【黒炎】を纏った『黒剣』で切り払う。
「くそっ、【炎】を呑み込む【炎】とかおかしいだろ!」
ニアはかなり追い込まれており、それを成している零刀はというと
「ハハハッ、よく耐えるなお前……いいねェ!」
大分楽しくなってしまっていた。
最初はあまり乗り気でない零刀は『検証』という名目で気分を持たせて戦っていたのだが……
意外も意外、耐え続けるニア相手に戦っていたら気分が高まってしまったのだ。
「オラオラオラァ!」
「くっ、はぁああああ!」
苦し紛れに炎を放ち、無理矢理に相殺するが、膝を着いてしまう。
見るからにもう限界である。
「オイオイ、最初の威勢の良さはどこいったんだァ?せめて起死回生の一手でも打ってみろ!それごと叩き伏せてやるからよォ!」
気分が乗った零刀の口調はすっかり戦闘時のものとなっており、台詞が悪役のソレである。
「──『我、【火属性王位精霊】の名の元に。我が行使するは地に眠る【火の因子】。それは大地の怒りを体現し、我が敵を滅す!』【大地の憤怒】!」
それが紡がれると同時、【壊離】を使って全力で距離を取る。
次の瞬間、先程まで零刀が立っていた地面が白熱し盛り上がったかと思うと、橙色のモノが噴き出す。
「──へぇ、マグマか!食らってたらさすがにヤバかったかもなァ。まあ、それも叩き伏せるって言ったんだからな」
そう言って『黒剣』を振り上げる零刀だが、剣をとめるとそのままの姿勢で上を見上げる。
するとそこには、空にあるのとは別に、もうひとつの『太陽』があった。
その向こう側には、ニアの姿。
「へぇ、それで終わりじゃねェってことだな」
「これで、終わらせる!」
「──来いよ。叩き伏せてやるとは言わねェ。存分に叩き潰してやる」
一瞬、場を静寂が支配する。
しかし、大した時間を置くことはなく、二人同時に動き出す。
「──【陽炎怒竜】!」
「──【理壊ス黒炎刃】!」
マグマが竜を象り、零刀へと襲いかかる。
それと、黒く揺らめく刃がぶつかり合う。
「ウィン、【結界】、全力展開……映像投影分も、そっちに回す……!」
「りょーかい。──『我、【風属性王位精霊】の名の元に』!」
その衝撃だけで、二人の張った【結界】が壊れかねないほどの威力であった。
──しかし、それも長くは続かない。
ニアの【陽炎怒竜】が、僅かに前に進んだ。
「──なっ!?」
しかしながら、驚きの声を上げたのもニアの方であった。
黒の刃が、【陽炎怒竜】に僅かに斬り込んでいた。
そしてそこから黒いヒビが、まるで【陽炎怒竜】を侵蝕するかのように広がり始める。
「──言っただろう?『お前のそれごと叩き潰す』とな」
零刀がそう呟くと同時、【陽炎怒竜】が砕け散った。
そして、それを成した【黒炎刃】はその奥にいたニアへと襲いかかり──
「──そんなに威力を込めた覚えはねぇんだがなァ……ウル!合わせろ!」
左の『白剣』をニアへと向け、左眼から紫の『瘴気』を溢れさせる。
「御意に」
ウルの青い髪のうち、紫の一房が淡く輝き、蒼眼は紫に染まる。
「「『我らが死は、汝が道に立ち塞がる』──【紫氷障壁】」」
紫の氷がニアの目の前に壁を成したと同時、【黒炎刃】がぶつかった。




