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「悪かった。でもお前が悪い。あんなに美味しそうな色をするお前が」
「あいつが挑発的な服で誘うから悪いんだって言い張る痴漢みたいな台詞はやめろ」
あれから既に放課後の下校途中。
キツい視線に晒された俺は、べったりと引っ付いてきたヒョウに守られながら、なんとか今日一日を過ごし通すことが出来た。
ヒョウに言い寄ってくる可愛い顔をした男子生徒から送られる、恨みの籠もった視線は暫くの間トラウマだろう。
綺麗な顔をした儚げ美人な男子生徒からは、辛そうな視線を送られたし……。
健気風を装った、俺がまるで加害者みたいな状況をつくり出そうとしている魂胆が丸見えだったのが、もう……なんていうか……呆れたというか……ハァ…………。
「あの童顔な男子生徒からは肉食獣が生肉を咀嚼しているみたいにガツガツとしたピンクと赤と白のコントラストだったし、女性みたいな顔をした男子生徒からは毒々しい色をした食虫花のような色がむわっと広がっていた………ああ……気持ち悪い……」
「だ、大丈夫か?」
勝手にキスなんぞしてきた怒りは俺の胸の中に残ってはいたが、弱々しく告げるヒョウの言葉に自然とそれも引っ込んでしまう。
小さな頃から人の感情が色として見えていたと言っても、それは心を読んでいるのとそう変わりはしない。
だから、きっと自分の知りたくなかったこととかを無理矢理にでも押し付けられているような感覚だって、きっとあっただろう。
俺なんかには想像が付かない生活だ。
……同情……とか、そんな傲慢はことはしない。
色々あったにしても、それはヒョウのものだし、俺が口を出せる問題じゃないから。
だから俺に出来ることと言えば………隣で背中をさすって、ちょっとでも楽になってもらうことだけ。
「いや、まだ口直しが出来る」
「おい、だから心読むなって」
……色とか言ってるけど、本当は心が読める……とかじゃないよな?
もしそうだったら俺は怒るからな。
嘘吐かれるのはもう沢山だし。
「………カヤト」
「……いつの間に名前を知った」
「つい、さっき………」
……まぁ、あれだけ悪口を言われていたんだったら、それも納得か。
「なに」
「口直し」
「…………………」
「頼む。辛い」
……ハァ……仕方ない。乗りかかった船……な気分で、俺も腹を括ろう。
ちょっとだけだからな。
俺は唇を安売りなんざしないんだから。
恋人でもないヒョウに、なんて………なんて………。
……なんて、惨めなんだ。
これはきっとおつまみ感覚ってやつなんだろ?
きっと珍味だって味わってみたいと誰しも思うことじゃないか。
恋人だったとかは、思いたくもないけど……ヨウもそんな感じだったんだ。
「ほら……」
「………………」
妬け気味になって口を明け渡してみれば、ヒョウは固まってしまって、そのまま動かなくなった。
なんだってんだ?人が折角口直しとやらをしてやっているというのに。
「……今のカヤトは、美味しくなさそうだ」
「おい、勝手だなお前」
どれだけ人のことを馬鹿にすれば気が済むんだこのっ!
怒りで顔に熱がたまってくる!
きっと真っ赤になっているだろう頬をごしごし、手のひらでこすれば、ヒョウがその手を掴んで………。
「リンゴみたいだ、美味しそう。そうやっている方が良い。怒って、感情を素直にして……俺で、俺の存在で熟れたリンゴは、とても美味しそうだ」
「なに、を……?」
「他の誰かで、美味しくならないで」