第四話 歪んだ関係の終焉
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夜だった。私は部屋で、ベッドを飾っているたくさんのぬいぐるみの一つを抱きしめていた。シルクのネグリゲに履き心地のいいショートパンツ。パソコンに書いたコードをぼんやり見つめている。そこには3Dモデルの百合の花があった。
マイさん、すごく冷たかったな…ゆるちゃん、今ごろどうしてるかな…
スマホが震えて、メッセージが届く。送り主は日没だった。
【日没シダ】
「起きてる?」
スマホを手に取り、返信する。
【花田ヒナ】
「うん、どうしたの」
三点リーダーがまた表示される。
【日没シダ】
「…相談があるんだけど」
私は驚いて目を見開いた。日没シダが私に相談? 待って…これ、前に見たパターンだ…どうせくだらないことでしょ。
【花田ヒナ】
「へえ、どんな相談?」
数秒経って、返事が届く。
【日没シダ】
「俺と妹の関係を…どう思う?」
しばらく言葉の意味を考える…ゆまとシダは兄妹だ。そうだけど…ほとんどそう見えたことはなかった。シダは妹とどう接しているんだ?
【花田ヒナ】
「うーん…ちょっと過保護なところあるよね。すごく大切に思ってるのが伝わってくる」
小一時間ほど経って返事が来た。
【日没シダ】
「そうか…そんな気はしてた。おやすみ」
彼はオフラインになった…変だな。最近すごくおかしい。彼の基準から見ても。いったい何を考えてるんだろう、日没くん。
スマホを消してナイトテーブルに置いた。深く考えないことにして、寝ることにした。明日は授業があるし。
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翌日、教室に座っていた。まだシダもサヨリも来ていない。その時、誰かがささやく声が聞こえた。
「ねえ…花田さん…」
振り返ると、真司が私を呼んでいた。
「花田さんと…その…フルカワさんって…えっと…友達以上の…?」
首筋から熱が上がり、頬が赤くなるのを感じた。
「あ、あ、あたし!? さ、さよりさんと!? そ、それどこで聞いたの真司くん!?」
真司は後ろ頭をかいた。
「えっと…サッカー部の連中が話してたんだ。フルカワさんが花田さんのこと『愛しい人』って呼んだって…それってさ、ただの友達って意味じゃないよな…」
頭の中でショートが起きた。やっぱり昨日のことは無視されなかったか! そんなの絶対に無視されるわけない!?
「あ、あれはサヨリさんの悪趣味な冗談なんだから! 彼女のことだよ、ああいうの。私たち、何でもないし! えへへ…」
真司はため息をついた。
「ったく…この学校の女子はみんな男に興味ないのかよ…」
「それについては…二つ仮説がある」
シダがドアから入ってきた。
「し、シダくん!?」
彼は気にすることなくモノローグを続ける。
「この学校は女子同士のカップリング率が異常に高い。俺の仮説はこうだ。食品や水、あるいは空気に何か化学物質を混ぜられている。あるいは…男が無能すぎる。あるいはその両方だ」
シダは自分の席に座り、教科書を取り出す。私の額から汗が一滴垂れた。
「え、えっと、シダくん…それはさすがに…」
でも、私にも答えはわからない。数分後、サヨリさんが教室に入ってきて、私を見るとウインクしてきた。私はビクッとして、ノートに顔を隠した。
「ふふ〜、おはよう、ハ・ナ・ダ・さ〜ん」
またビクッとした。わざとやってる。絶対にそうだ。ゆまさんに私たちがデートしてるって知られたら、全部パーになっちゃう。
「さ、さよりさん…み、みんなが私たちのことで噂してるよ…」
サヨリは気にした様子もなく、鏡でまつげをチェックしている。
「ああ、それね…あっ!」
「あっ」!? 「あっ」じゃないでしょ! 私の評判めちゃくちゃになったじゃん! もしゆまさんに聞かれたら、「おめでとうございます、花田さん。お二人ともどうかお幸せに」とか言われちゃう! 違うの! そんなの望んでないの!
サヨリが鏡を閉じて言った。
「噂なんて、すぐに消えるよ。この学校ではね。数日もすれば、もう誰も気にしてないって」
少しだけ気が楽になった。完全には納得できなかったけど、もうどうしようもないと思った。
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数時間後の休み時間。誰かに手を引っ張られて廊下の隅に連れて行かれた。見ると、ゆるちゃんだった。髪はいつもより乱れていて、目は赤かった。ずっと泣いていたみたいだった。
「花田さん…よかった、見つかった…話したいことがあるの…」
彼女の様子に驚いた。明らかに辛い状況なんだ。
「ゆ、ゆるさん…ど、どうしたの?」
ゆるは唇を噛みながら、誰も聞いていないか確認している。
「もう限界なの…花田さん…私…家出する…もう耐えられない。誰かに話したかったの。私を責めたりしない人に…」
胸が一瞬止まった。
「い、家出? どこに? マイさんとは…何があったの?」
彼女は首を振り、また涙が浮かんできた。なんとか崩れ落ちないように堪えている。
「花田さんに言われた通りに話してみたけど…逆効果だった…あの人は…もっと支配的になって…私…もうあの家に住みたくない…」
その言葉を消化しようとした。私はいいことをしたと思っていたのに…結果はもっと傷つけてしまった。愛し合っていると思っていたのに。私の知ってる百合の関係ではこんなこと起こらない…起こるの?
「ゆるさん…あ、あたし…」
彼女はそっと首を振った。
「気にしないで。ただ私の幸せを願ってくれてただけってわかってるから…だからお別れを言いに来たの。私を責めなかった人に…本当に…ありがとう。でも…ごめんね…」
そのまま涙を隠すように背を向けて歩いていった。心臓がぎゅっと痛んだ。彼女の痛み、恐怖を感じた。でも、何もできなかった。どの百合漫画もこれと戦う方法を教えてくれなかった。
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そのあと屋上に行くことにした。授業が終わってから。階段を上がっていると、叫び声が聞こえた。
「離して、マイ! やだって言ってるでしょ! 近づきたくないの! もう耐えられない!」
ゆるの声だった。迷わずドアを勢いよく開けた。そこにはマイがゆるの腕を掴んで引きずろうとしていた。
私の存在に気づいたマイが振り向き、目を細めて憎しみを込めて言った。
「あんた…」
ゆるは顔を青ざめさせた。
「花田さん…なんでここに!?」
一歩前に出た。自分にそんな勇気があるとは知らなかった。
「もうやめて、マイさん! ゆるさんを傷つけてるよ! そんなのダメでしょ! 大好きな人を傷つけるなんて!」
マイはもっと軽蔑の目で私を見た。
「あんた、誰のつもり? 恋愛のエキスパート? あんたに何が分かるの? あたしのこと、ゆるのこと、私たちの生活、あたしが耐えなきゃいけないことの何が分かるの?」
勇気が少し萎んだ。
「あたしはただ…」
「ただの邪魔者よ」
マイは言い放ち、ゆるを出口へ引きずり始めた。
「言ったでしょ…」
そう言いながら、ゆるを引きずって屋上から出て行った。
頭の中が暗くなった。どうして? どうしてこんな風にするの? やめて…彼女を傷つけないで…そんなの…
目を閉じた。苦い結論が頭に浮かんだ。
……別れるべきだ。
それが私の思ったことだった。そしてその考えが具現化したかのように、隣に冷たい風が通り過ぎた。影を見ると…
「シダくん…」
そう言った。シダはもはや背景キャラには見えなかった。すべてを終わらせる決意をしたように見えた。私の心臓は、勝手にそうしてほしいと願っていた。彼はポケットに手を入れたまま、二人の前に立った。
「そこまでだ、橋原マイ。その腕を引き続けるなら、まず解剖学的に見て、関節の動きを無理やり強制して靭帯を痛めることになる。次に心理学的に見て、これはただの幼稚な身体的脅迫であり、お前たちの関係が完全に壊れている決定的な証拠だ」
マイは立ち止まり、さらに軽蔑の目で彼を見た。
「あんた…男が…何様のつもり? どうして部外者が私たちの人生に首を突っ込むのよ…」
「部外者? いや、実はこれには少し関わっているんだ。花田があのアドバイスで無意識にお前たちの歪んだ関係にガソリンをまいたからな。その幼なじみとして、彼女の後始末をする義務がある。それに…俺はただの背景キャラだが、データ収集の効率はほぼ天才レベルだ」
私は凍りついた。シダ…私の話を聞いてたの?
「花田に『あなただけが私をわかってくれる』って言ったのはお前だ、マイ。そしてゆるは『普通の生活がしたかっただけなのに、気づいたら彼女に引きずり込まれていた』と泣いていた。一見すると、家柄や血縁に縛られた二人のヒロインの美しく悲しい愛憎劇に見える。しかし現実はもっとずっと哀れで俗っぽい」
シダの目が鋭くなる。
「この数日間、図書館で調べたり、古い記録を見直したり、お前たちの父親の会社のファイルまで調べてわかったことは一つだけだ。お前たちの関係は純粋な愛でも、禁じられた恋愛でもない。単なる『家庭内機能不全から生じる代償行為』だ…」
マイは動きを止め、目を見開いた。ゆるも抵抗をやめ、息を呑んだ。シダくん…彼女たちの関係を調べてたの? どうして?
「父親が再婚して無理やりお前たちを『姉妹』という構造に当てはめたとき、親たちは自分たちの都合だけを優先し、お前たち一人ひとりのアイデンティティを完全に無視した。冷たい家庭環境、不足する愛情、そして常にお互いと比較されるプレッシャー」
マイは一歩後ずさりし、無意識にゆるを離した。ゆるは彼女を見つめた。
「お前は家庭内で完全な支配権を持つことで、自分の精神的安定を保とうとした。つまり、妹のゆるを『絶対に離れていかない所有物』にして、自分の孤独や親への反発を埋め合わせようとした。それがお前の防衛機制だ」
シダはゆるに向き直った。
「そしてお前、ゆるはその支配を『愛』と勘違いし、従って甘やかす以外にその家で自分の居場所を守る方法を見つけられなかった。お前たちが繰り返すキスやハグは性的欲求でも恋愛でもない。ただの『退行現象』だ。親に無視された二人の少女が、暗闇の中で互いの体温にすがりつき、精神的に完全に崩壊するのを防いでいるだけなんだ」
シダの言葉は痛くて、鋭く…でも、同時に何ヶ月もの操作を解体していた。私にはわからないことまで。ゆるも口に手を当てて、声もなく泣き始めた。
「いい加減に気づけ、橋原マイ。お前が本当に怖いのは、ゆるが普通の彼氏を作って自立して、その家でお前が『完全に一人ぼっち』になることだ。だから恋人という役割に依存して、彼女を檻に閉じ込めようとしている。でも言わせてもらえば、それは愛じゃない。共依存の極致であり、純粋な精神的虐待だ」
マイは立ち止まり、初めて見るかのようにゆるを見つめ、そして自分の手を見た。ゆるを傷つけるまで掴んでいたその手を。『虐待』という言葉が彼女の中で反響した。
「そして今、この脳みそがピンク色の幻想でいっぱいな百合オタクのアドバイスのせいで、お前たちの関係の歪みはデッドラインに達した。だから今ここで決めろ」
シダは一歩前に出た。その目ははっきりとしていて、少しだけ人間味と共感が込められていた。
「お前たちは恋人になる必要なんてどこにもない。そんな無理で歪んだレッテルを貼らなくても、お前たちははじめから『姉妹』だ。親がどんなにクズでも、家がどんなに壊れていても、血縁がどんなに薄くても、お前たちはもう出会っている」
「辛い家庭環境のコンプレックスを埋めるためだけに、恋人という役割を無理に演じて、これ以上傷つけ合うのはやめろ。そんな必要はない。お前たちは最初から、互いを支え合う権利がある」
シダはもう一歩前に出て、ポケットから手を出した。
「…その手を離せ、マイ。自分の孤独を埋める道具として、これ以上妹を使うな。恋人関係を壊すことが、まさにお前たちが本当の姿である『かけがえのない唯一の姉妹』として生きていくための、唯一の健全な出発点だ」
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再び静寂が訪れた。ゆるの堪えた泣き声だけが聞こえる。私の目から一筋の涙がこぼれた。マイが一歩前に出た。
「ゆる…」
涙が止められずに溢れた。彼女は傷ついた子鹿のように震えるゆるをそっと抱きしめた。
……しかし、その子鹿を叩くことは永遠にしなかった。
マイはゆるをそっと抱きしめた。ゆるは涙ながらに彼女にしがみついた。二人はその場に座り込み、一緒に泣いた。シダは背を向けて、歩き出した。彼の姿はだんだんぼやけて、また背景キャラのように見え始めた。
私はもう少しその場に立ち尽くしていた。目は嬉しさで潤んでいた。でも私は背を向けて、彼らにスペースを残すことにした。そしてシダを追いかけた。
「ね、ねえシダくん…待ってよ…」
彼の隣に歩いた。
「あんた…本当にすごいね…だからあの変な質問…本当に彼女たちのこと調べてたんだ…あの関係壊したのに…悪い感じがしなかった…」
シダが答えた。
「そうだよ…お前は目が見えなさすぎて真実を見えないんだ…お前はまったく気づいていない…結局、俺が正しいんだ…」
私は彼の言葉を考えた。本当にいつも正しいの? もしそうなら…私がゆまに感じる気持ちは…違う。そんなの違う。私は落ち込まないし、諦めない。だって、初めて明確な目標ができたから。彼女への愛は間違いじゃないし、トラウマでもない。本物だ。私はそれを証明してみせる。すべてを超えて、シダくんの正論でさえも超えて。見てて。
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