序章
ダンシャリ王国の片隅にある街、ガーベッジ街。
住人は割れた瓶、ゴムが伸び切ったパンツ、ハズれた馬券、レンズの割れたメガネなど、打ち捨てられた者たちが集まり助け合いながら慎ましく暮らしている。
百年に一度の全世界スポーツ大会が開かれる。光栄なことに開催国はダンシャリ王国に決まった。
このニュースは国民を熱狂させ、大会を必ず成功させるべく、ダンシャリ王国は国を挙げて街の美化に取り組み始めた。
最初は街路樹の選定やベンチの設置にはじまり、ホテルを新たに数十件増やす予定が持ち上がり、土地探しとなった。
以前からごみ溜めと揶揄され国の恥として目障りだったガーベッジ街が一番最初にホテル建設地として候補に挙がってしまったのも不思議ではない。
呑気な気風のガーベッジ街の住人たちは、まだ何も知らない。
ガーベッジ街は中世の趣を色濃く残す美しい石畳が敷き詰められており、雑草とはいえ、街のあちこちで四季折々の美しい花を咲かせ美しいガス灯が道路沿いに設置されていた。
そのガス灯は近代化が進み、電気を使いたがるダンシャリ王国から、物を大事にするガーベッジ街が譲り受け、今や街のシンボルとなっていた。
ガス灯の守は代々カタツムリが行っている。
カタツムリは毎日夕方から火をつけに回るのだが、なにせ動きが遅く、朝になるまで全部つけきれないのが日常である。
住民も暖かい目で見守り、平和な日常がそこにはあった。
ある夜、カタツムリが恐ろしいものを目撃するまでは!
それは月明かりがまぶしい夜だった。カタツムリは精一杯の速足で三本目のガス灯をつけ終え、一息入れようと肩にかけた水筒から水をこくりと飲んだ。
(口さがない人達は、あれは10年物のバーボンが入っているんだよと噂した。)
すると石畳の街道にくっきりとねずみの影がうつった。
(こんな夜中にねずみさん、何の用事だろう)
カタツムリが疑問に思うと同時にねずみが小刻みに痙攣しているのがわかった。
なんと!
突然、ねずみの体から頭がごとりと落ちた!
カタツムリが「あっ!」小さく叫び、助けを呼ぼうとしたが腰が抜けて動けない。
するとねずみの頭から足が八本、にょきっと生え、まるで蜘蛛のような動きで、それはごそごそと街中に消えていった。
カタツムリは動けるようになると街の緊急用の鐘をカンカン鳴らした。
しかし、もうねずみの姿はない。
鐘に飛び起きた人たちは、カタツムリはやはりバーボンを嗜んでいるのだろうと酔っぱらいのたわごとと片づけた。
それが恐ろしい出来事の始まりだとは知らずに……。
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全5話です。




