12・傷だらけの戦士 ウォリアー(1)
カラン、カランカラン、、、、
ベルの音と共にBARの扉が開いた。
「よう、もう開いてるか?」ガタイのいい男が尋ねた。
「ああ、BARダンディワールドは、すでにオールレディオープンだ」ダンデイが応答する。
「そうかい、じゃあ遠慮なく」
男が座った。
「そうだな、とりあえずビールをもらおうか」
男はカウンターに両肘をついて、大きなため息をついた。
「どうぞ」
「いい間合いだ。早すぎず、遅すぎず、俺が一息ついて虚空に思いを馳せそうになってしまう、まさにその寸前、気がつけば目の前にそれはある」
「あんた、名はなんという?」
男は胸の名札に気づく。
「ん、このBARのチーフ、、、雌狩か、、辺流薔薇亜怒、、、覚えておこう」
「以後、お見知りおきを」
メスカルが会釈する
「そして、あんたがこのBARのマスターかい?ダンディさんよぉ」
「ああ、俺がこのBARのマスターだ」
「ダンディ、マイネームイズ、ダンディ・クールハートだ」
「ふっ、まるでMI6のクールな腕利きスパイのようだな」
男が感心する。
「ではこの馴れ合いが分かる素晴らしいBARに敬意を表して、、、2杯目は、ウォッカ・マティーニを、、、、シェイクで頼む、ステアではなく、、、」
「ユーは、通だな。分かってるじゃねえか。並の合いの手じゃねえ。」
「ああ、俺もこう見えて、そこそこの修羅場は潜ってきたつもりだ」
男が哀しそうに呟いた。
「飲みな、疲れてるんだろ」
ダンディが男の前に酒をおく。
「ふっ、ショートを一気に飲み干して帰っちまうには、今の俺には辛すぎる」
「聞くぜ」
「ふっ、さすがだな、アンタ、只者じゃねえな。分かるのか、俺の苦しみが?分かるのか、俺の辛い気持ちが?」
「ここでは、哀しい男の背中が似合うもんさ」
「間違いない、、、、」
「俺はもう疲れちまったんだ、、、戦いの日々にな、、、。来る日も来る日も魔族との果てしないバトルに明け暮れては、酒を飲んで、うさを晴らして酔い潰れ、泣きながら眠りにつくのさ、、、それでも国を守るためとあっちゃあ、魔族を放っておくわけにもいかねえ。そうしてもうどのくらい経ったか覚えてやいやしねえ。その間にも仲間がたくさん殺られちまった。みんな一癖も二癖もある連中だったが、みんないい奴だった、、、、みんなな、、、。」
「分かるぜ」
ダンディがポツリと呟く。
「そうかい、アンタには分かるかい、、、、俺の哀しみが。この気持ちは誰にもわかってもらえないもんだと思ってたぜ、、、。知った顔が、明日からもう見えねほど辛いことなんてないからな。あいつらは、今頃あの世でまた馬鹿騒ぎをしているんだろうなって、そんな幻想にすがりたくなるほど、オレの心は弱っちまったのさ、、、情けねえ話だがな。。。」
「男の苦しみは、その傷跡の大きさに比例するもんだ。ユーも全身傷だらけだが、本当の傷は他人からは見えないものさ」
「ア、アンタ、、、、、どうしてそれを、、、そうさ、アンタのいう通りさ、、、オレは生まれつき頑丈でな、、、、、仕事柄、戦士っていうクラスが自分でもお似合いだと思っているんだ。国のために、魔族どもをぶっ殺して、この暴れん坊の憂さ晴らしにする、それでも民はありがとうって言って涙を流してくれるのさ。。。こんなにありがてえことはねえ。。。。だから、魔族とボコボコに殺りあっても、体がめちゃくちゃに傷ついても、そんなものは痛くも痒くもねえのさ。。。。。大酒浴びて三日もすれば、男の勲章がまた増えただけのようなもんだ、、ただな、、、長い間戦士をやってると、バカな相棒や気の置けない仲間たちが、、、増えていくもんなんだ。。」
「どうぞ、、、」
合間にチーフのメスカルが、戦士の苦悩を見透かしたかのように水を出す。
「アンタも凄腕だな、、、、その絶妙な気遣いだけで、アンタの凄さが分かるぜ、、、」
「ユーにはかけがえのない仲間ってやつか、、、」
ダンディがうなずく。
「ああ、そうなのさ、、、そもそも戦士になろうなんてやつはな、、、オレのようなロクでもねえ暴れん坊か、スカした正義感を気取っているやヤサ男かどっちかってもんだ。世間や社会のしきたりに落ちこぼれて、それでもうちにある魂の叫びを抑えきれねえ、、、、間違ってるのは俺たちじゃねえ、、、世間の方だ!って必死で叫びたい奴らなのさ。。。ツッパることだけが、まるで男の勲章とでも言わんばかりの、イキがった、しかし本当は弱い、、、だが心根の優しい奴らなんだ、、、。」
「ああ、分かるぜ、、、、」
「アンタには隠し事はできねえな、、、、」
「戦士ってのはな、、、、そんな世間からチヤホヤされるような大したクラスじゃねえ、、、勇者みたいにスポットライトを浴びる華やかなもんでもねえ。しかしな、戦士がいなければ、、俺たちみたいな命知らずのバカどもがいなくちゃな、パーティーは成り立たねえんだ。世間はな、美形だとか、賢い、美しい、人格者だとか、勝手なイメージをなすりつけてくるが、本来戦士ってもんは体育会系の役割だ。何せ、体一つで、あの凶悪な魔族にぶつかっていくんだから、並のメンタルや肉体では太刀打ちできねえってもんだ。そもそも戦士ってえのは、基本、マッチョでガサツで、体育会で、暴れん坊なんだぜ。勝手に美化されて現実逃避のイメージを期待されても困るってもんだ」
「ああ、違いねえ、、、」
「しかしな、、、戦士がいなかったら、パーティはどうなる?勇者さんだって万能じゃねえんだぜ?人にはそれぞれ適材適所があるんだ。つまり戦士ってえのは破壊と暴力担当なのさ。。。。ある意味限りなく魔族に近い存在とも言えるのさ。。。だがな、そんな戦士だって、怪我もすりゃあ、病気にもなる。連戦すれば傷つき、弱くもなるってもんさ、、、それを世間はわかってくれねえ、、それどころか勇者様や聖女様のつゆ払いにしか思ってねえのさ」
「勇者様や聖女様と違って、戦士にはいくらでも代えがきくって、都市伝説がまかり通る始末だ、、、唯一無二の美形キャラなんて、ほんの一握りでしかねえのに、そいつだって、顔に一撃喰らえば翌日からはブロマイドが売れなくなって廃業さ。世間は幻想を追っているのさ。実よりファンタジーに憧れている馬鹿どもさ。しかしなあ、実際に魔族を討伐しているのはなあ、圧倒的に戦士クラスなんだぜ、直接肉弾戦を戦う戦士を世の中は軽んじていないかい!?ええ、アンタ、、、、、?」
「分かるぜ、、、その気持ち、、、」
「アンタは、いい人だ、、、俺たち戦士の哀しみを理解してくれている。。。」
「ああ、そうさ、、、、俺たちはな、、、替えのきくコマでもなんでもねえ、、、一人一人の散っていった名もなき戦士たちにさえ、ささやかな歴史の一コマと愛した相手がいたってことを、ただ、知って欲しいだけなんだ、、、、、、」
「オレはなあ、、今まで数えきれないほどの魔族どもを葬ってきた、、、だがな、それと引き換えに、、、数えきれないほどの友と、、仲間を、、失ってきた。。。だからもう、、
これ以上の虚しい悲しみは、、背負う必要がねえんじゃないかって、、、近頃そう思うようになったのさ、、、、」
「それがユーの引退理由かい?」
「あ、、アンタ、、、、」
「ユーは凄腕の戦士じゃないか、、、今までこの国の民をどれだけ救ってきたことか。。そしてユーが、どれだけ仲間思いな優しい奴かも、オレはちゃんと知っている、、。」
「あ、アンタ、、、」
「ユーの哀しみはオレの悲しみさ、、、引退したい気持ちも分かるさ、、、しかしな、、ユーの瞳の奥の炎はまだ消えちゃいねえ」
「オレの、、、オレの苦しみ、そして哀しみを、、、アンタッって人は、、、」
「ユーは口では自分でどうしようもない暴れん坊とかいってはいるが、本当は優しい兄ちゃんなんだろう?小さい時から弱いものいじめする奴が許せずに、たとえ勝てないと分かっている敵でさえ挑戦し続けてきて、そうして巨大な敵を討ってきたんじゃないのか?あの白いモビルスーツのように、正義の怒りをぶつけてきたんじゃねえのか?なあ、機動戦士よ。その理不尽を許せねえ、同じ志を持った義兄弟たちが、ユーの男気に惚れてついてきてくれたんじゃねえのか?」
「もう一度、立ち上がったっていいんだぜ、燃え上がったっていいんだぜ、、、、まだユーの中に、怒りに燃えたぎる闘志があるんならな、、、、、」
「あ、、、アンタって人は、、、」戦士がわなわなと震えている。
「華やかなスターダムになんかに惑わされるんじゃない。勇者には勇者なりの苦しみもあるものさ、、、。そもそも誰かと比べることになんの意味がある?戦士がいなければパーティーは成り立たねえ。ユーはただ、それを誇ればいいだけさ。心配するな、世間は広い、誰かがきっとユーを見ている、、、そして散っていった仲間のことも覚えているさ」
「少なくとも、オレがいる」
「クゥ、、、オレは何て甘ちゃんだったんだんた、、、そうだな、、アンタのいう通りだ、、、このまま引退すれば、死んでいったアイツらに顔向けできねえじゃねえか、、、それにオレが引退しちまったら、、、誰があの凶悪な魔族どもから民を守るってんだ、、、。」
「ユーは、長年の連戦で、心はもちろん、体もかなり傷ついているのさ、、、健全な肉体に健全な精神が宿るようにな、、、だからこのBARがあるのさ、、、、」
「オレのことは全て、お見通しってことか、、、」
「フッ、ユーの想像に任せよう、、、今夜は思う存分飲んでいきな、、、」
「マスター、アンタは最高にクールだぜ。オレの名は、ウォリアーだ」
「さしづめ、傷だらけの戦士、ウォリアーってことだな」
「アンタに会えてよかったぜ、、、そこにいる凄腕のチーフにもな」
「あなたにはまだ使命があります。その命を大切にして、これからも民のために尽くしてください」
メスカルがエールを送った。