終.
これにて終幕です。
お付き合いくださりありがとうございました。
「いらっしゃいませ、饗場さん。お待ちしていましたよ」
今日も目尻に皺を刻んだ店長がいつもの席に案内してくれる。頬をほんの少し緩めて私も挨拶を返した。
女性客と談笑していたミコトくんがダーツマシンの前から手を振り、グラスを洗っていたナギサさんが挨拶をする。
テーブルを拭いていたテンシさんが口の端をほんのり上げて会釈をし、灰皿をまとめて片付けていたヒサくんがメニューとおしぼりを持ってやってくる。
メニューを開いて今日のお酒を探す。よし、これにしよう。
私の注文に穏やかな返事をした店長が、ややあって小気味良いシェイカーの音を響かせ始める。
目を閉じて音に浸りながら、この半年間を思い起こす。
……――
***
――…………
1杯目をゆっくり飲み干し、同時に回想から意識を戻す。
変わっただの、変わらないだの、確かに色々あった半年だった。
それでも結局、大事な部分は今までと同じなのだ。
お酒も食事も美味しいし、スタッフにも身構えずに済むし、つまるところミストは楽だ。
私は気持ち良く過ごせるバーに通う、それでいいのだ。
外能者がどうこうなど、楽しく飲み食いする私には関係ない。
アツがどう変わろうと、私から遠ざかることなく今まで通りにいてくれるのならば、それでいい。
唯一の不安が消えた、嬉しいな、というだけだ。
自分の体がどう変わろうと、今まで通りに仕事ができるのならば、それでいい。
外能という厄介事も、むしろ対処可能になったのだからそれはそれでラッキー、という話だ。
ナギサさんと女子会をした時に、幸せについて考えたことと同じだ。
何がどうなろうと、結局今まで通りに好きに生きられれば、私は幸せなのだ。
空になったカクテルグラスを横にどけて、私は再びメニューを開く。
ダブルカレーの良い匂いが、ここまで届いてきた。




