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私の1分


どうやら人類の記憶は1分しか保てなくなってしまった。

原因は宇宙人のしわざなのか病気のせいなのか誰にもわからない。

なぜならその原因を考えている間に1分が経ってしまうからだ。

そんな無駄なことで1分を終えてしまうなんてもったいない。

私ならこの貴重な1分を自由に有効活用する。

誰もが記憶を保てないのだから、誰も本当のことなどわかりはしない。

私がこの惑星の女王だと言えば他の人はそれが本当か嘘かは分からない。

よって、私が言ったことが全てが事実になるのだ。

私はこれからその方法を実行しようと思う。

女王になれば、この目の前のお皿に乗ったチョコレートだって全部私のものになる。



ところで、私は今何をしているのだろうか。

私の目の前の少女が「今日は私の誕生日だから、お姉さまが私のためにチョコレートを作ってくれたの」と微笑んだ。

少女は美味しそうにお皿に乗ったチョコレートを全部食べてくれた。

私は妹の誕生日祝いをしている最中のようだった。

人類が記憶を1分しか保てなくなったせいで家族のことも分からなくなるのはとても不便だ。

けれどそれをくよくよ悩んで貴重な1分を無駄にしたくはない。

私はこの貴重な1分で自由に有効活用する。

せっかくの可愛い妹の誕生日なのだから、チョコレートだけじゃなくケーキも作ろう。

私は立ち上がり、キッチンで薄力粉の分量をきっちりと計った。

妹は私に背後から抱き着いて「お姉さまだいすき」と嬉しそうにしている。



少し前の私が油断していたらしい。

いつの間にか私は見知らぬ少女に背後をとられていた。

私は手許にあった薄力粉を思い切り後ろの少女にぶつけた。

少女はごほごほとむせながらも何か言おうとしている。

人類の記憶が1分しか保てなくなってから人々は争い続けているらしい。

1分しか記憶がないなんて誰も信じることができないからだ。

幸いにも、私のほうがこの少女よりも大きいので身体的には有利だ。

私は近くにあった包丁で、少女の首を思い切り刺した。

赤い血が勢いよく出て私の白い服を赤く染めていく。

少女の悲鳴をBGMに、私は少女の首をいっぱいいっぱい刺した。

ざくざくざくざく。

少女はやがて何も言わなくなった。

私は立ち上がり少女の頭を蹴り飛ばす。

思ったよりも軽いそれは、ごろんと転がり床に赤を広げた。



「・・・っひ!!!」

私は思わず嘔吐感がこみ上げてきた。

むせるような血の匂いが充満している。

私は部屋を見回しながら懸命に吐き気と動悸を抑えつけた。

人類の記憶は今、1分しか保てない。

この貴重な1分を有効活用するしかないのだ。

この部屋には死体がたくさんあった。

どれも首から上が切断されていて、頭がごろりと床に転がっている。

すぐそばの死体はまだ新しく、少女が殺されたばかりなことが伺える。

殺人鬼が近くに潜んでいるのだろう。

私は殺されたくなかったので急いで外へと逃げた。

幸いにも鍵はかかっておらずすぐに外に出ることが出来た。



人類の記憶が1分しか保てなくなったせいで日常生活を過ごすのは甚だ困難と言える、

こう、私がこれから何をしたいのかよくわからない状況だととても困る。

私は裸足で外と歩いていた。今は冬であり、雪が降り積もった道を踏み歩くのはとても寒い。

どうして私が靴を履いていないのかわからない。

けれどそんなことを考えているとあっという間に1分は終わってしまうのだ。

私はそんな無駄なことをしたくない。

私がこれから何をしたいのかが分からない時は私が決めればいい。

私はとにかく靴が履きたい。

この血まみれの白いワンピースのことなど知ったことか。

近くの靴屋を目指して歩いた。



どうやら私は靴屋に向かっていたらしい。

足はとても冷たく、今は冬なので賢明な判断だと言える。

私は靴屋の店主に話しかけた。

「こんにちは、靴をください」

「こんにちは。よく来たね。おやずいぶんと服が汚れているね。」

「そうなんです。でもとりあえず靴をください。忘れてしまうと困るので」

「そうだね、ほらお嬢さんに似合う真っ赤な靴をどうぞ」

靴は私の足にぴったりだった。私は靴を履いてくるりと回転する。

よし、歩きやすい。私は店主に礼を言うことにした。



服が血なまぐさくてべとべとする、私がまず感じたのはそれだった。

目の前の初老の男性は私にチョコレートを差し出した。

真っ赤なハートのチョコレート。

「お食べ。今日はお前の誕生日なのだから。」

「ありがとう、パパ」

私はお父様に抱き着いた。チョコレートは大好物だ。

一粒口に含むと甘さと酸味の美味しさが広がっていく。

「さあ、お前の服に着替えよう」

私は2階へ上がり、お父様に差し出された真っ赤なワンピースに着替えた。



鏡には真っ赤な少女が居た。

鏡に居るということはこれは私だ。

歳は10歳くらい。赤い服に赤い靴に赤いリボンの少女。

私は部屋から出て、一階へと降りた。

一階では見知らぬ初老の男性がいた。

「すみませんお嬢さん、私は何をしているところなのでしょうか」

彼は私にそう尋ねた。

人類が1分しか記憶を保てなくなったせいか、人は自分が今何をしているか分からないことが多い。

けれど、そんな時は自分で自分が何をしたいのか決めて生きればいいだけだ。

私は私の1分で私がしたい事をする。

「あなたはその手に持っているクッキーを私にくれる約束をしたわ」

私はクッキーを貰って外へと出た。

外の世界は雪が降っていてとても美しい。



今日の天気は雪のようだ。白くて柔らかい雪は綺麗で大好きだ。

しかも私の手元にはクッキーまである。

私は幸せいっぱいな気持ちでクッキーを食べながら雪道を歩く。

歩いていると雪と一緒に宇宙人がぼとりと降ってきた。

「こんにちは、お嬢さん。少しよろしいですか」

「御礼にお菓子がもらえるならいいわ」

「わかりました」

宇宙人は私にマシュマロを差し出した。

私はマシュマロを食べながら宇宙人の話を聞く。



私がマシュマロを食べていると目の前に見知らぬ生命体がいた。

赤茶色でぶよぶよしている巨大なナメクジみたいなそれは口のようなものから粘膜を垂れ流している。

それは私に向かって言葉を発した。

「この星で一番えらい人に会いたいのです」

「私がこの星の女王よ」

私はすぐにそう言った。

人類の記憶は今、1分しか保つことができない。

私がこの惑星の女王だと言えば他人にはそれが本当か嘘かは分からない。

よって、私が言ったことが全てが事実になるのだ。

私の言葉にナメクジは頭を下げるような動作をして話を続けた。

「この星のせいで宇宙が汚れてしまうのです。焼き払ってもよろしいですか、女王陛下」



目の前の巨大なナメクジみたいな生命体が触手をうねうねさせながら私に伸ばしてきた。

「いやっ!」

「驚かせてしまい申し訳ありません、女王陛下」

ナメクジは私に伸ばした触手を引っ込めた。

「なにもすぐに焼くわけではありません、明日でも構いません」

ナメクジもどきはうやうやしく私にそう言った。

どうやら私は女王陛下らしい。言われてみればそんな気がする。

「何を焼くの?」

「この宇宙の敵をです」

「それは今すぐに焼きなさい」

「いいのですか」

「女王命令よ、はやくなさい」

私は宇宙の敵を焼き尽くす。

良いことをするのは気分が良い。

ナメクジはホログラム映像だったようで、私の返事に頷き消えた。



どうやら人類の記憶は1分しか保てなくなってしまった。

原因は宇宙人のしわざなのか病気のせいなのか誰にもわからない。

なぜならその原因を考えている間に1分が経ってしまうからだ。

そんな無駄なことで1分を終えてしまうなんてもったいない。

私ならこの貴重な1分を自由に有効活用する。

だから、今この惑星が燃えていることも私にとってはたいしたことではない。

1分前になにがあったかも1分後になにがあるのかも私が考えることではない。

1分後の私を含めた全人類が死のうが、私は今を生きている。

私は燃え盛るこの惑星で1分以内に手に入りそうなお菓子を探すことにした。


End.

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「私の1分」読みました。1分しか記憶がないことを、いつどの瞬間にも憂いに思わず、自分の大好きなことを保ち続けている主人公がかっこいいです。 [一言] 今その瞬間の記憶だけで生きる。ものすご…
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