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119.対話のゴール

残り10話です。

今回の対話では、ガブリエラの目的――そして、この事件が彼女自身の意思で行われたものなのか、それとも第一王子殿下の命令に従っただけなのか。

そこを明らかにすることが、ひとまずのゴールだった。


彼女が学園の外で裁かれることは、ほぼ確実だ。

だからこそ、情状酌量の余地があるのかを、学園内にいるうちに確かめておきたかったのだ。


――けれど。


今の彼女の発言で、すべてがはっきりしてしまった。

これは、彼女自身の意思で実行されたものなのだと。


「ガブリエラ。今、君は自分でも分かっているとおり、これから罪に問われることになる」


静まり返った部屋に、ダンテの重い声が響いた。


「大きく分けて二つ。

第二王子である私に禁術を使った罪。それと、君の元婚約者であるジガルデ・ブリード公爵令息の執念の魔法解析によって、昨年彼にも同じ禁術を使用したことがわかっている。


それに加えて、学園の生徒たちにも、だ。これは余罪として問われるだろう」


ガブリエラは、またたおやかな笑みを浮かべる。

どこか他人事のように静かに耳を傾ける姿は、本当に耳が聞こえていないのではないかと思わせるほどだった。


「禁術を指示したのは、私の兄であるカロンで間違いないかい?」


「……」


ガブリエラは口を閉ざしたままだ。

けれど、ダンテはこの反応も想定していたのだろう。


「まあ、口を割ることはないか。ただ、兄が禁術書を持ち出したことはすでに確認されている。

誰の指示だったのか分かるのも、時間の問題だけどね……」


すると――


ガブリエラが口を開いた。


「すべては私の意思で行ったこと。

あの方は一切関係ございませんわ」


その言葉を聞いた瞬間、クィアシーナは咄嗟に思う。


(ああ――やっと、彼女の心の中が覗けた気がする)


明らかに第一王子を庇う発言だった。

やはり彼への忠誠心は、確かに存在しているのだと確信した。


「なるほど。すべて自らの意思でやったということだね。涙ぐましい忠誠心だ」


皮肉混じりに言うダンテに、ガブリエラはなおも笑みを崩さない。


そこへ、リンスティーが静かに口を開いた。


「……カロン殿下から、脅されていたりは?

ここにはダンテも学園長もいる。カロン殿下に漏れることはないから、本当のことを話してくれ」


まるで懇願するような声音だった。


(そんなこと、絶対にないって……リンスティーさんも分かっているはずでしょう……)


分かってはいる。

けれど、義妹の罪が少しでも軽くならないか――そんな彼の優しさが、胸に痛い。


けれども。


――リンスティーの言葉に、ガブリエラの顔色が変わった。


「……本当に、忌々しい」


眉根を寄せ、これまで見たことがないほど歪んだ表情を、リンスティーへ向ける。


「――あなたは、いつになったら学んでくれるの?」


声の調子さえ、先ほどとは違って聞こえた。

クィアシーナは、その変貌に驚きを隠せない。


「ガブリエラ」


「わたくしは、あなたのその――自己犠牲すら厭わない優しさが、何よりも嫌い」


真っ黒な瞳には、はっきりとした怒りが滲んでいた。


「わたくしは、お父様が平民と通じ合っていたことが許せない。

平民がお父様を誑かしたことも許せない。


そして――」


ぎり、と歯を食いしばる。


「あなたがこの世に存在することが、何よりも許せないっ……!!」


それは、初めて彼女の口から語られる、はっきりとした感情だった。

一度口火を切った彼女の言葉は、もう止まらない。


「お父様たちが出会った、この学園の在り方も許せない。

それに、あなたがこの学園で……貴族も平民も関係なく、のうのうと楽しく過ごしているのも、何もかも!」


最後は、ほとんど泣き笑いのような震える声で。


「……わたくしにとっては、許しがたいことなのよ」


ガブリエラとリンスティーの視線は交わったままだ。

クィアシーナとダンテは、二人の様子を黙って見つめる。


(ガブリエラさんはリンスティーさんのことが許せないって言ったけど、じゃあなんで……泣きそうな顔をしているんだろう)


いつも笑みを崩さないガブリエラが、感情を顕にしてリンスティーの拒絶を叫ぶ。

なのに、どこか――それとは逆の、救いを求めるようにすら思えた。


「ガブリエラ」


リンスティーは彼女の言葉にショックを受けた風でもなく、静かに受け止め、ふたたび名前を呼び掛ける。


「わかってる。ガブリエラの気持ち、全部。

おまえがずっと俺を厭ってるのもちゃんとわかってる。

でも――」


リンスティーは、悲しみを堪える顔ではっきりと告げた。


「俺は、おまえが好きだよ。義兄として、気にかけずにはいられないくらいに」


彼の言葉に、とうとうガブリエラの視線がリンスティーから逸れた。


彼女はダンテに拘束されているため、首から下の自由はきかない。


もし、彼女の手が自由に動かせたなら、咄嗟に両手で顔を覆っていただろう。もう表情を取り繕えないくらいに、感情が表に溢れ出ていたのだから。


「そういうところが……本当に……」


――彼女の言葉は最後まで続かなかった。


「ガブリエラ?」


様子がおかしいガブリエラに、リンスティーが訝しげに問いかける。

ガブリエラの口の端から、赤いものが一筋伝った。

急に呼吸を荒くし、苦しそうに顔を歪める。



「!? 大丈夫ですかっ!?」



クィアシーナは慌てて立ち上がり、リンスティーも同様に席を立つ。

ダンテですら焦りを見せて、咄嗟に拘束を解いて、彼女の身体を支えた。


クィアシーナはポケットからハンカチを取り出し、彼女の口元に充てた。


みるみる顔色が青白くなるガブリエラに、戸惑いとともに焦りばかりが襲ってくる。


(なんで? さっきまで普通に喋ってたのに)


そこへようやく、場を見守っていた学園長が動いた。


「少し、眠らせるわ」


彼女はガブリエラの前で膝を付き、ダンテに支えられたままの彼女の額に手をあてて、そのまま顔をなぞる。

すると、彼女の目は閉じられ、一瞬で眠りについたのがわかった。


「学園長、ガブリエラは一体……」


リンスティーが顔面を蒼白にして学園長に尋ねる。


「限界が来たんです。いくら魔力を補給できても、禁術の代償は必ず自身の身に返ってくる。

きっと――手当たり次第に生徒たちに禁術をかけていたのは、裁かれる前に幕を下ろしたかったという気持ちもあったんでしょうね。……ほんと、困った子」


彼女の言葉に、誰も声を発することができなかった。



部屋に沈黙が降り、

みんなでガブリエラの顔を静かに見つめる。


ダンテの腕に抱かれて眠る彼女は、かつて見たことがないくらい、とても穏やかな表情をしていた。




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