第48話 ハッピーバースデー エリヌス
小さな呻き声を上げながら、背伸びをし、ゆっくりとベッドから起き上がる。
「お体は?」
「もう大丈夫だ。心配かけたな、オリーブ」
ベッドから降りて、もう一度背伸び。
「パーティーの客は?」
「もう集まっております。お食事も、大広間に既に並べてあります」
「そうか。なら、オリーブも早く準備して来い。いつまでも私に構う必要はない」
「かしこまりました。では」
そう言って、オリーブは立ち去った。
……ふぅ。
長いこと眠ったおかげで、疲れも怠さも吹き飛んだ。
体調良好。
気分絶好調。
さ、気合入れろ、私!!
◆
大広間には、沢山の客が集まっていた。
そのほとんどが貴族であり、その中に二割程度、有名な文化人やら武人やらが混じっている。
そんなまとまりのない集団が、大広間の扉が開いた瞬間、一斉に静まり返り、入り口の一点を見つめた。
「諸君、お待たせした。そして、ようこそ我が屋敷へ!!」
大きな声が、静かな広間に反響する。
「私の誕生日を、こんなにも盛大に祝っていただいたこと、そして、忙しい中、ご足労いただいたこと、心より感謝申し上げる。……さて。それでは、諸君。改めて、パーティーを始めよう!!」
その言葉と同時に、再び大広間に騒ぎが戻る。
そして、その誰もが、私を視界の端に捉えていた。
これでも元大貴族、影響力は健在だ。
パーティーの主役だという事を抜きにしても、注目を浴びるのは必然であろう。
「お久しぶりでございますな、エリヌス伯爵」
「おお、男爵殿。お久しぶりです」
テンプレート的な返答をしながら、話しかけてくる貴族どもを適当にあしらう。
どうせ中身はお見合い云々だ。
私には関係ない。
それよりも、私が探しているのは……!!
「おお、バーベナ!! 来てくれたのか!!」
「お前が脅したんだろうが」
バーベナは、不機嫌そうな顔で上品に酒を飲んでいた。
「なんだよ、この手紙は」
「招待状」
「『来ないと魔法の研究を禁止するように王家に進言する』なんて書いてある招待状が、どこの世界にあるんだよ。こんなのは脅迫状だ、脅迫状!!」
「私は、あくまで可能性の話をしただけだ」
「クズが。俺を上手く従えられたつもりか?」
「従えたつもりなんてありませんよ、バーベナ先生」
「先生を脅すな、馬鹿弟子」
「エリヌスさんの師匠なんですか!?」
バーベナとの会話に、突然、誰かが割り込んできた。
「……誰だ、こいつ?」
「ヴァクシニアムだ。ダフネ殿の冒険者仲間の一人だ」
「ご紹介に預かりました、ヴァクシニアムです!!」
「あっそ。興味ねえ」
そう言って、バーベナは立ち去ろうと──
──したところを、呆気なくヴァクシニアムに捕まえられた。
「こいつ……!! 離せ!! ってか、力強いな、おい!!」
「これでも、冒険者なので!! それより、少しだけでもお話を──」
「なんのだよ!! おい、エリヌス!! こいつ、どうにかしろ!!」
「達者でな、バーベナ!!」
「おい、逃げるな!! おい!!」
叫ぶバーベナを置き去りに、私は人混みへと潜っていった。
目的は達成したし、今、これ以上あいつと絡む必要もないしな。
「……ん?」
人混みを歩きながら、私は壁際のその光景に目を奪われた。
そこには、ダフネ様とコランバインがいた。
会話の内容までは分からないが、恥ずかしそうに、でも、嬉しそうに、ダフネ様が話している。
そして、コランバインの方も穏やかな顔でそれを聞いていた。
もちろん、手には野菜ジュースを持って。
あの狂犬も、この数年で大人しくなったものだ。
……まあ、それまでの間に紆余曲折があったわけだが。
何かあるたびに、という訳ではないが、事態が大事になる前に、私の方もたまに介入はしていた。
その甲斐あってか、今のコランバインは、眉間と目尻に皴のあるただの優しいおじさんだ。
強さは相変わらず、だが。
……まあ、とりあえず、親子仲睦まじいようで、なによりだ。
親子仲が良くて悪い事なんてない。
……うん。
「おやおや、エリヌス殿。ご無沙汰しておりますな」
「……セッシリフォリア公爵。ご無沙汰しております」
……嫌な奴に会ってしまった。
「いやはや、光陰矢の如しとは、正にこの事ですな。あれほど小さかったエリヌス殿が、こんなになるとは」
「それもこれも、支えてくれる皆様のおかげですよ」
……大丈夫、大丈夫だ、私。
ちゃんと、指輪はつけている。
それに、こんな場所で何かをやらかすほど、こいつも馬鹿じゃない。
安心しろ。
落ち着け。
「ところで……エリヌス殿」
「なんですか?」
「これを」
それだけ言って、セッシリフォリアは一枚の封筒を渡してきた。
その瞬間、あの時の悪夢がフラッシュバックする。
「後でお読みになってください。いいですね?」
「……ええ」
どんな内容が書かれているのかとヒヤヒヤしながら、私は封筒を懐にしまった。




