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第48話 ハッピーバースデー エリヌス

 小さな呻き声を上げながら、背伸びをし、ゆっくりとベッドから起き上がる。


「お体は?」

「もう大丈夫だ。心配かけたな、オリーブ」


 ベッドから降りて、もう一度背伸び。


「パーティーの客は?」

「もう集まっております。お食事も、大広間に既に並べてあります」

「そうか。なら、オリーブも早く準備して来い。いつまでも私に構う必要はない」

「かしこまりました。では」


 そう言って、オリーブは立ち去った。

 ……ふぅ。


 長いこと眠ったおかげで、疲れも怠さも吹き飛んだ。

 体調良好。

 気分絶好調。


 さ、気合入れろ、私!!





 大広間には、沢山の客が集まっていた。

 そのほとんどが貴族であり、その中に二割程度、有名な文化人やら武人やらが混じっている。

 そんなまとまりのない集団が、大広間の扉が開いた瞬間、一斉に静まり返り、入り口の一点を見つめた。


「諸君、お待たせした。そして、ようこそ我が屋敷へ!!」


 大きな声が、静かな広間に反響する。


「私の誕生日を、こんなにも盛大に祝っていただいたこと、そして、忙しい中、ご足労いただいたこと、心より感謝申し上げる。……さて。それでは、諸君。改めて、パーティーを始めよう!!」


 その言葉と同時に、再び大広間に騒ぎが戻る。

 そして、その誰もが、私を視界の端に捉えていた。

 これでも元大貴族、影響力は健在だ。

 パーティーの主役だという事を抜きにしても、注目を浴びるのは必然であろう。


「お久しぶりでございますな、エリヌス伯爵」

「おお、男爵殿。お久しぶりです」


 テンプレート的な返答をしながら、話しかけてくる貴族どもを適当にあしらう。

 どうせ中身はお見合い云々だ。

 私には関係ない。

 それよりも、私が探しているのは……!!


「おお、バーベナ!! 来てくれたのか!!」

「お前が脅したんだろうが」


 バーベナは、不機嫌そうな顔で上品に酒を飲んでいた。


「なんだよ、この手紙は」

「招待状」

「『来ないと魔法の研究を禁止するように王家に進言する』なんて書いてある招待状が、どこの世界にあるんだよ。こんなのは脅迫状だ、脅迫状!!」

「私は、あくまで可能性の話をしただけだ」

「クズが。俺を上手く従えられたつもりか?」

「従えたつもりなんてありませんよ、バーベナ先生」

「先生を脅すな、馬鹿弟子」


「エリヌスさんの師匠なんですか!?」


 バーベナとの会話に、突然、誰かが割り込んできた。


「……誰だ、こいつ?」

「ヴァクシニアムだ。ダフネ殿の冒険者仲間の一人だ」

「ご紹介に預かりました、ヴァクシニアムです!!」

「あっそ。興味ねえ」


 そう言って、バーベナは立ち去ろうと──


 ──したところを、呆気なくヴァクシニアムに捕まえられた。


「こいつ……!! 離せ!! ってか、力強いな、おい!!」

「これでも、冒険者なので!! それより、少しだけでもお話を──」

「なんのだよ!! おい、エリヌス!! こいつ、どうにかしろ!!」

「達者でな、バーベナ!!」

「おい、逃げるな!! おい!!」


 叫ぶバーベナを置き去りに、私は人混みへと潜っていった。

 目的は達成したし、今、これ以上あいつと絡む必要もないしな。


「……ん?」


 人混みを歩きながら、私は壁際のその光景に目を奪われた。


 そこには、ダフネ様とコランバインがいた。


 会話の内容までは分からないが、恥ずかしそうに、でも、嬉しそうに、ダフネ様が話している。

 そして、コランバインの方も穏やかな顔でそれを聞いていた。

 もちろん、手には野菜ジュースを持って。


 あの狂犬も、この数年で大人しくなったものだ。

 ……まあ、それまでの間に紆余曲折があったわけだが。

 何かあるたびに、という訳ではないが、事態が大事になる前に、私の方もたまに介入はしていた。

 その甲斐あってか、今のコランバインは、眉間と目尻に皴のあるただの優しいおじさんだ。

 強さは相変わらず、だが。


 ……まあ、とりあえず、親子仲睦まじいようで、なによりだ。

 親子仲が良くて悪い事なんてない。

 ……うん。


「おやおや、エリヌス殿。ご無沙汰しておりますな」

「……セッシリフォリア公爵(・・)。ご無沙汰しております」


 ……嫌な奴に会ってしまった。


「いやはや、光陰矢の如しとは、正にこの事ですな。あれほど小さかったエリヌス殿が、こんなになるとは」

「それもこれも、支えてくれる皆様のおかげですよ」


 ……大丈夫、大丈夫だ、私。

 ちゃんと、指輪はつけている。

 それに、こんな場所で何かをやらかすほど、こいつも馬鹿じゃない。

 安心しろ。

 落ち着け。


「ところで……エリヌス殿」

「なんですか?」


「これを」


 それだけ言って、セッシリフォリアは一枚の封筒を渡してきた。

 その瞬間、あの時の悪夢がフラッシュバックする。


「後でお読みになってください。いいですね?」

「……ええ」


 どんな内容が書かれているのかとヒヤヒヤしながら、私は封筒を懐にしまった。

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