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第12話 威力実験

 私が襲撃犯を返り討ちにしたという話は、瞬く間に王宮内にまで広まった。

 ……そして、真犯人の正体も襲撃の翌々日に発覚した。

 相手は、弱小貴族の一つだった。

 まあ、襲撃犯のレベルで察していたが。

 私を殺せば、上にのし上がれると勘違いしたらしい。

 馬鹿も大概にしてほしいものだ。

 こんなことをすれば即刻処刑……のはずだが、私がストップをかけていた。

 理由は、至極単純。


 見せしめにしたい。


 私を襲えばどうなるのか、他の貴族連中にも見せつけてやる。

 そして、私を殺そうと画策する馬鹿どもの期待を、粉々にぶち壊してやりたい。





「おい、エリヌス。本当にいいのか?」

「ああ。相手は死刑囚だ。国から許可も取っている」


 そう返すと、バーベナは少しうんざりしたような顔を浮かべた。


「貴族のボンボンのくせして、よく人体実験なんてやる気が起きるな」

「目的のためだ」

「お前は最悪だ。狂ってる」

「悪いか?」

「いや。そこが気に入った」


 そう言って、バーベナはにやりと笑った。


「実験の概要は、この羊皮紙にまとめてある」

「……ほう、なるほど」

「ここに書いてある通り、これは威力実験だ。この結果をもとに、私の魔法についてお前がまとめてくれ」

「……確かに、お前の魔法は未知の存在だからな。リスクを知るという意味でも、有意義だと思うぞ」

「だろ?」

「それに……上手いこと考えたな」

「どーも。それじゃ、さっそく実験しに行こうぜ。実験場所は、国が用意してくれている」

「随分と用意周到な奴だ」

「それが貴族だ」





「……また上手いこと手配したな、お前は」


 黒い平原を見ながら、バーベナはそう零した。


「実験にはうってつけだろ」

「ああ。最高だ。それに……」


「んー!! んー!!」


「実験体の活きも良い」

「捕まえたてほやほやの貴族だからな」


 縛られて芋虫のように転がっているそいつに視線をやる。


「よくも私を狙ってくれたな。覚悟しろよ?」

「んー!!」

「バーベナ!!」

「ああ」


 バーベナがそいつに触れると、一瞬で奴の姿がなくなり、平原のど真ん中に移動した。

 ……これが転移魔法か。

 最上位の魔法に位置すると聞くが、難なく使いやがった。

 しかも、無詠唱で。

 やっぱり、こいつは魔法使いとしてのレベルが違うようだ。


「いつでもいいぞ、エリヌス」

「ああ」


 じっと一点を見つめながら、詠唱を始める。

 脳内では、明確なビジョンと威力を想像していた。

 そして──


「『暗黒太陽(ソレイユ・ノーア)』!!」


 詠唱を終えると同時に、黒い爆発が起こった。

 数秒の間滞留していたそれは、やがて風に流され、消えた。


「もう大丈夫だな。行くぞ」

「ああ」


 手を握ると同時に、バーベナが転移魔法を発動した。


「実験体は……おっ、いたぞ!!」

「……こりゃ酷いな」

「……バーベナから見てもか」

「ああ」


 奴の体は、全身が黒く染まっていた。

 まるで、インク壺の中にでも落ちたみたいだ。


「全身の骨が折れている。それに、髪も黒焦げだな」

「……で。出来るのか?」

「当たり前だ。天下のバーベナ様、なめんな」


 そう言ってバーベナは、実験体だった(・・・)それに手を触れた。

 そして──


「《スプリション》!!」


 最早当然のごとく無詠唱で魔法を発動した。

 すると、みるみるうちに元実験体の体から禍々しい黒色が抜け、次第に元の人間の姿に戻った。


「あとは……この順番で使えばいいか」


 そう言って、バーベナは三つの魔法を次々に発動させた。


「──よし、終わりだ。これで、お前の要望通りだ」

「みたいだな」


 バーベナの魔法捌きに感嘆しつつ、例の貴族に目を向ける。


「回復、整形、記憶除去。この間読んだお前の魔導書に書いてあったから使えると踏んだが、本当にこんなに幅広く魔法を使えるとはな」

「……読んだのかよ、あれ。恥ずかしい。まあでも、勉強熱心なのはいい事だ」

「それはどうも」

「勉強ついでに教えておくが、今回使った魔法は全部、黒魔術の応用だ。まあ、正確に言えば、正反対に位置する魔法なんだがな。魔法を勉強してれば、いずれ分かるようになるが、一つの魔法を極めれば、その逆に位置する魔法も使いこなせるようになる」

「なるほど……?」

「今はまだ理解できなくていい。てか、理解すんな。俺が教えることがなくなる」

「魔法の極意的な話か?」

「俗的に言えばそうだな。まあ、そんなわけで、黒魔術と逆の聖魔法も俺は扱えるんだ。そして、聖魔法の基礎は回復魔法。その回復の作用を少しいじれば、さっきみたいに別の魔法に発展させられる」

「なるほど。勉強になる」

「人にものを教える以上、適当なことはできないからな」

「……案外、まともなことも言えるんだな」

「失礼だ、馬鹿」

「いでっ!!」


 軽く小突かれた頭をさすりつつ、内心でほんの少しだけバーベナの株を上げる。


「ま、とりあえずは、お前の言う『威力実験』は成功だな」

「お、という事は……」

「ああ。実際に実験体に触れて、効果も、お前の魔力も体感できた。後は、ちょっとした実験をすれば、全部まとめられる」

「私がやることはあるか?」

「いや、ない。必要なのは、魔力の反復的な再現だからな。そのくらいなら俺にもできるし、そもそもお前じゃ無理だ」

「分かった。それでは、後は頼むぞ。こいつは、こっちでなんとかしておくから」

「ああ。にしても、随分と回りくどいことしたな」

「必要なことだ」


 そう言って、お互いにやりと笑い合う。


 今回の私の作戦は、こうだ。

 バーベナや国に話した通り、襲撃の指示を出した貴族を実験体に、私の魔法の威力を実験する。

 ただし、死なない程度(・・・・・・)の威力に抑えて。

 そして、瀕死の重傷を負った実験体へ、さっきバーベナが使った魔法を使用する。

 そうすることで、私は威力実験が行える上、貴族を自ら始末したという実績が手に入る。

 実際には、この男は整形も記憶改ざんも済ませてあるため、一般人としてどこかの町に放り込むのだが。

 それでも、対外的には冷徹な貴族という印象を与えられ、他の貴族から今後暗殺に狙われるリスクを減らせるという訳だ。


 まあ、威力の加減には苦労したが、これも修行だと思えば、大したことではない。

 私だって、人殺しはしたくないのだ。

 私を殺しに来たのは腹が立つが、殺し返したいと思うほどでもない。


「ああ、そうだ。王宮にこいつを持ち帰ると面倒だから、私たちは宿の方に飛ばしてくれ」

「了解。場所は?」

「ここだ」

「……ケッ、良いところに泊まりやがって」

「こっちは貴族だからな」


 宿屋の店主の名刺を見ながら悪態をつくバーベナに、そう言い返す。


「じゃ、送ってやるからな。後始末はちゃんとしろよ、エリヌス殿」

「そちらも、しっかりと仕事してくださいよ、バーベナ先生」

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