第13話 騎士団長
例の威力実験を行った翌日、私はオリーブに頼まれ、王国騎士団の練習場に来ていた。
「ヒソヒソ。あれが……」
「例の……貴族を……」
…………。
どうやら、もう噂が広まってしまったようだ。
まあ、エリヌス様のイメージを崩さないなら、むしろ良いことだ。
……どうせなら、誰か『狂犬伯爵』と呼んでくれないだろうか。
父の爵位は侯爵だから、厳密にいえば、私が伯爵となることは無いのだが。
……あれ?
じゃあ、なんでエリヌス様は作中で『狂犬伯爵』と?
えっと、思い出せ……。
確か、エリヌス様が家族について語っていたシーンが……。
「あ、エリヌス様!!」
必死に動かしていた思考は、オリーブの声であっけなく遮られてしまった。
「……オリーブか」
「どうかされましたか? 不機嫌なご様子ですが……」
「いや、何でもない」
「ならいいのですが……」
「それで、今日は何の用だ?」
無駄な心配をかけさせぬよう、話を逸らす。
「あっ、そうでした。実は、例のダフネの件で」
「……詳しく話せ」
◆
「……なるほど。遂にか」
「はい!! わたくしからの紹介なら、と」
「そうか。良かったな」
そう言って、オリーブに笑いかける。
いや、マジでグッジョブすぎるぞ、オリーブ。
なんと、ダフネ様も騎士団で訓練されることが認められたのだ!!
パーティー以降、ダフネ様の様子を見れなかったから不安だったが、これでまずは一安心だ。
城下の街に住んでいるそうだが、私は私で忙しかったから、家まで行く機会がなかった。
一応、身辺調査も兼ねて、オリーブにちょいちょい様子を見に活かせていたのだが、どうやらそれが功を奏したようだ。
そして、この件で強さを蓄えれば、ダフネ様が勇者に選ばれること間違いなし!!
私は強くなったダフネ様を眺め、その活躍を目に焼き付ける!!
完璧だ!!
「それにしても、そんなにオリーブは気に入られたのか」
「いえいえ、そんな、気に入られただなんて……」
そういいつつも、オリーブの顔はにやけている。
「まあ、部下が認められるのは嬉しいことだ。よし、オリーブ。すぐに騎士団のところまで案内しろ」
「はい。かしこまりました」
◆
訓練場は、高いレンガ壁に四方を囲まれた場所だった。
広くはあるのだが、私にはどうも、謎の閉塞感を覚えてしまう。
……というか、こんな高い壁を登ってたのか、ダフネ様は。
凄すぎるだろ。
「おお。貴殿がエリヌス殿か」
「騎士団長殿ですか。パーティー以来ですね」
相変わらずデカいな。
そんな身も蓋もない事を思った。
そこそこ身長の高い私より、遥かに大きな体。
そして、それを覆うようについている筋肉の鎧。
巨躯、と言うほかなかった。
「そうですな。いやはや、あのパーティーには感謝せねば」
「というと?」
「エリヌス殿と出会えた、それ以上に嬉しいことがありますかな!?」
他の貴族とは違い、含みも何もない、本心からの言葉のようだ。
「エリヌス殿の部下は素晴らしいですぞ。打てば響くし、なによりも筋が良い。筋肉もいい」
「そうなのか、オリーブ」
「いえいえ、それほどじゃありませんよ!!」
「オリーブ殿、謙遜もしすぎては無礼ですぞ。……エリヌス殿。ここだけの話ですが、我が騎士団の団員は、副団長と私を除き、全員、手合わせで敗れました」
つっよ!!
「凄いじゃないか」
「あ、ありがとうございます、エリヌス様」
随分と照れた様子のオリーブを横目に、私は話を本題へ移した。
「それで、団長殿。今日は……」
「ええ。オリーブ殿の紹介で、ダフネ殿の剣を見ます。以前お会いした時も、筋が良いとは感じていましたから」
「あの時は、とんだご無礼を……」
「いえいえ、若人は、あれくらい元気でなければ。それに、あの手。随分と筋肉が詰まっておりましたぞ」
そういえば、ダフネ様と握手してたな。
腕がちぎれんばかりの勢いで振られて、流石のダフネ様も、握手以降は生意気なことを言わなくなっていたが。
「剣を振っているようにも感じませんでしたが、何か特殊なことを?」
「さあ……。正直言って、私も彼女の剣を見たことがありませんから」
てか、まだ会ったばかりだしな。
「そうなのですか。オリーブ殿は?」
「実は、わたくしも……」
「おや。では、初お披露目という訳ですな!! これは楽しみだ!!」
そう言って快活に笑う団長を見て、私は胸を撫で下ろした。
素上知れずのダフネ様を真剣に鍛えてくれるか、多少なりとも心配だったのだが、彼なら大丈夫だろう。
「それでは、エリヌス殿。訓練場へ向かいましょう。ダフネ殿も、もう来てらっしゃいますよ」




